この家に暮らすのは、30代のご夫婦と小さなお子さん2人、そして猫1匹。組織系設計事務所に勤めるご主人が自ら設計を手がけ、フルリノベーションしました。
購入したのは、築33年、約65㎡のマンション。3つの掃き出し窓に面したバルコニーに加えて、住戸と同じくらいの広さを持つルーフバルコニーがあるという、魅力的な住戸でした。
しかし、購入時の間取りは3LDKと、部屋が細かく区切られており、ルーフバルコニー側には個室が並ぶ、外への広がりを感じにくい空間でした。
そこで今回のリノベーションでは、L型に連なる開口面を活かし、外へ向かって視線や空間が広がっていくプランを計画。LDKと寝室が一体になった、L型の大きなワンルーム空間へとつくり変えました。
キッチンからぐるりと家中を見渡せる、大きなワンルーム。床一面に敷かれたパーケットフローリングが、空間の広がりをいっそう印象づけます。
L型に連なる窓辺には、開口部だけでなく、その間の壁まで覆うようにレースカーテンをぐるりと設置。壁と窓の境界が曖昧になり、L型の外周全体がひと続きの開口面のように感じられるようにしています。
窓辺の足元は、L型の開口に沿ってビールストーンという左官材で仕上げました。土間的な設えにすることで、バルコニーへとつながっていく感覚をつくっています。
パーケットフローリングとの取り合い箇所には、ゆるやかなアールをプラス。300角のパーケットを極力カットせず“真物”のまま使い切るための納まりでありながら、床の表情にちょっとした遊びも生んでいます。
窓辺をぐるりと巡るカーテンレールも造作。シンプルなレールをシナ共芯合板に埋め込み、すっきりとした納まりに仕上げました。
カーテンレールの奥には、曲げられるタイプのLED照明を仕込みました。レースカーテン越しに光を通すことで、やわらかなあかりが窓辺全体を包み込みます。さらに上部は、愛猫・つくしくんのキャットウォークとしても機能します。
見た目の美しさと実用性を兼ね備えた窓辺のデザインです。
L型に広がる開口へと視線が抜ける、ワンルームの特等席に据えたキッチン。シンク側をアイランド、コンロ側を壁付けにしたⅡ型のキッチンは、オリジナルで造作しました。
小さなお子さんがいる今は、ミルクをつくったり、1日3食のごはんを用意したりと、キッチンはまさに暮らしの要。設計者であるご主人は、プランニングの段階から「キッチンは家の王様」と位置付けていたそう。
モールテックスという左官材で天板を仕上げたダイニングテーブルもオリジナル。料理をする人と食べる人が自然と顔を合わせられるよう、キッチンに対してL字型にかみ合うようなデザインにしました。
見晴らしの良さを損なわないよう、水栓はほっそりした佇まいの『ハンドホース水栓』をセレクト。キッチンの面材にはラワン合板を使っており、『ワトコオイル』のナチュラルで着色したあと、耐水性の高い「Bona」の塗料で仕上げています。
コンロ側の壁面には『フォグタイル』を採用。わずかな色むらとマットな質感が、造作した吊り戸棚下のあかりをやわらかく受け止めます。
黒いガラストップコンロに合わせて、ツールバーには『亜鉛メッキのマルチバー』の黒亜鉛メッキ仕上げをセレクト。躯体現しの天井には『工業系レセップ』を取り付け、無骨な表情をアクセントとして加えました。
カーテンレールやビールストーン仕上げの土間と呼応するように、キッチンの袖壁にもアールを取り入れました。
空間の各所に散りばめた曲線は、コンクリート躯体現しの天井や露出したダクトが持つ荒々しさを、和らげる存在にもなっています。
そして、子どもの成長など、これからも変わっていく家族の暮らしを受け止めるのが、ワンルームの一角に組んだ「木の柱梁フレーム」。
柱と梁を足がかりにして、カーテンでゆるやかに仕切ったり、必要に応じて壁をつくったり。暮らし方に合わせて、空間の使い方を変えていける仕組みになっているんです。
そんな「木の柱梁フレーム」の現在の使われ方がこちら。梁に遮光カーテンを取り付け、一角を半個室のベッドルームとして使っています。
大きなワンルームには、家具や収納の置き方によって使い方を変えられる自由さがあります。そこに「木の柱梁フレーム」を加えることで、必要なときには空間を仕切り、部屋のような居場所をつくることが可能に。これから起こる変化を、“変えていく楽しみ”として受け止めるための仕掛けです。
今後どもたち各々のスペースが必要になったり、時が経ってまた夫婦2人の空間になったり。今はまだ決まっていない未来に対して、間取りを固定せず、その時々の暮らしに合わせて手を加えていける。子育て中の住まいづくりにも、ひとつのヒントになりそうです。
洗面空間にも、子育てと家事のしやすさへの配慮が詰まっています。
洗面台の向かいにはクローゼットを設け、洗面と身支度、衣類の収納をひとつの空間にまとめました。小さなお子さんは着替えの回数が多く、体を洗う機会も多いもの。別の部屋にあるクローゼットまで移動せず、お風呂上がりにそのまま着替えられるのは、とても便利そう。大人にとっても身支度時間の短縮に繋がります。
カーテンの向こうには脱衣室と浴室があり、さらに洗面室は掃き出し窓からバルコニーへ出られるため、洗う・干す・しまうまでを一直線の短い動線で完結できる間取りになっています。
建具は付けず、カーテンで仕切っているのもポイント。開け閉めしやすく行き来もスムーズで、湿気がこもりにくいのも利点です。
洗面台とミラーボックスもオリジナルで造作。グレーの人工大理石のカウンターに、白いアンダーシンクを組み合わせました。水栓には『壁付けセパレート混合水栓』を採用しています。
壁の白タイルにはブラウンの目地を合わせ、ミラーボックスは細い木枠を効かせたデザインに。タイルとミラーが描き出すグリッド模様が、おしゃれなカフェのパウダールームを思わせる少し特別感のある雰囲気をつくり、「過ごす場所」としての心地よさを生み出しています。
そして気になるのが、洗面の向こうに見える小さな穴。
奥の小さな穴は、つくしくん専用の出入り口でした。
ドアや引き戸などの建具を極力設けていないこの住まいでは、つくしくんも家の中を自由に行き来できます。
こちらは玄関を入ったところ。オリジナルで造作した引き戸にはモールガラスをはめ込み、LDKから届く光をやわらかく拡散しながら、玄関ホールへ取り込みます。
LDKにはキッチン以外の収納をほとんど設けず、開放感を優先。その分、玄関ホールの片側を壁一面の収納とし、家全体に必要な収納量を確保しました。
玄関には横長のウォークインクローゼットを設け、キャリーバックなど日常生活の中で頻繁に使わない物をまとめて収納できるスペースに。天井には『アイアンハンガーパイプ』も取り付け、アウターなどを掛けて収納できるようにしています。
玄関脇の手洗いボウルは、愛知県瀬戸市の窯元・王子窯の加藤さんに制作を依頼した特注品。器の大きさや高さのバランス、釉薬の色味など、細かな部分まで窯元と相談しながら試作を重ね、つくり上げたそうです。ペンダントライトがこだわりの手洗い器をやわらかく照らし、家族やゲストを迎える玄関にあたたかみを演出しています。
子どもたちの成長に伴い、家族の暮らし方は変わっていくもの。だから、間取りは固定せず、その時々に合わせて手を加えていける「余白」と、変えていくための「きっかけ」をつくっておく。大きな「L型ワンルーム」と「木の柱梁フレーム」が、これから先の家族の変化も受け止めながら、新しい居場所や過ごし方を生み出していく。これからどんな住まいへ育っていくのか、楽しみです。
紹介している商品
関連する事例記事