撮影:衣笠名津美

私が初めてホームステイをしたアメリカで驚いたのは、リビングではなくキッチンが家族や友人の集まる場所になっていたことでした。

分厚い石の天板に、ビルトインの大きなオーブン。料理をするだけでなく、人が自然と集まり、会話が生まれる場所としてのキッチン。その光景は、日本で見慣れていたシステムキッチンとはまったく違って見えたのを覚えています。

今回ご紹介する住まいを見たとき、その記憶がふっとよみがえりました。お施主様は、ロンドン出身の夫とオーストラリア在住経験のある妻という海外居住歴が長いご夫婦だというから納得です。

フレンチヘリンボーンのフローリングと奥へ伸びるキッチン天板が、掃き出し窓まで視界を誘う。(撮影:衣笠名津美)

友人や同僚たちを招いてホームパーティを楽しみたいというお施主様。LDKに居場所を点在させて、大人数でも心地よく過ごせる空間になっています。

全長3.5mの大きなキッチンから見ていきましょう。余白が感じられる大きなキッチンは、用途を調理に限らず、暮らしの中心とも言える場所。

壁紙を剥がしたままの表情を残した大きな梁と上品なフローリングとのコントラストがユニーク。(撮影:衣笠名津美)

分厚い天板には、人造研ぎ出し仕上げのビールストーンを採用。イギリスのカフェでよく見かけたという石のカウンターを思わせる存在感がありながら、大理石より自由度の高い素材です。

キッチン水栓は『ハンドホース水栓』を採用。ボリュームのある天板にも負けない存在感です。(撮影:衣笠名津美)

小さな石がランダムに顔を見せる天板はポップさも感じられ、重厚感を感じさせすぎないバランス。実はこのビールストーンもオリジナルで、サンプルを何度も試作しながら、「緑の石を混ぜたい」というイメージを形にしたそうです。

柔らかいホワイトにさりげなく散りばめられた緑は、ラワンで造作したキッチン本体と馴染みがよく、清潔感を感じさせてくれます。

コンロはフラットなIHですっきりと。ケトルもオブジェのように佇んでいます。(撮影:衣笠名津美)

キッチンの右側はダイニングとしても使えるようオープンに。重たい天板もどこか軽やかに見せてくれています。

朝ごはんや晩酌など、サクッと済ませたい時にはもちろん、作業テーブルとしても重宝しそう。このように天板に余白があるのも、キッチンが家事の場所に限らず人が集まる場所になる理由の一つ。

撮影:衣笠名津美

背面には、オーブンとワインセラーを埋め込み、レンジなどの家電はすっきりと隠せる造作収納に。機器と面材のバランス感が欧米のキッチンを思わせます。きっとこのオーブンからはパーティ料理がドーンと出てきて、みんなで盛り上がることでしょう!

上にスライドして開くので、調理中開けっぱなしにしても邪魔になりません。(撮影:衣笠名津美)

造作収納に使われているのはラワン合板。カジュアルな素材ですが、丁寧に仕上げられれば申し分ない素材。むしろ分厚い石天板と合わさることで、程よい抜け感が生まれています。

キッチンのリビング側の側面は飾り棚として、空間を彩る役割に。(撮影:衣笠名津美)

リビング側の収納もラワン合板で造作。本やレコードがオープンに飾られた一角です。コンクリート躯体とラワン合板の組み合わせは、綺麗に整えられつつもどこか肩の力が抜けた佇まい。

撮影:衣笠名津美

中央の扉を開けると、テレビとオーディオ機器が隠れていました。

隠すことでテレビが中心の生活にならず、家族で過ごす時間を大切にできているそう。つい、テレビや動画をつけっぱなしにしてダラダラと過ごしてしまいますが、こうして視界から隠してしまえば、観たい時だけ観る形に生活が整えられそう。

撮影:衣笠名津美

ホームパーティでスポーツ観戦もできるよう、このテレビがキッチンからも窓際のダイニングからも見える位置にあるのもポイントです。

窓際のダイニング。壁側にはベンチがあり、大人数集まっても大丈夫。(撮影:衣笠名津美)

隠すと見せるのメリハリがついた、すっきりと居心地よく過ごせそうなLDKですが、実は奥の壁の向こうは……

撮影:衣笠名津美

自転車が壁全面に飾られた、ガレージのような10㎡の玄関土間!

LDKと打って変わって、コンクリート躯体の荒い表情を生かしたコントラストがたまりません。

スニーカーや自転車が趣味のお施主様。大容量の見せる収納と自転車いじりの場所を兼ねたスペースは重宝しているそう。お子さんが大きくなったら遊ぶスペースにもなりそうです。

撮影:衣笠名津美

元は、この玄関土間の位置にキッチンがあったため、土間側の壁から排気する構造。

LDKとは思い切って印象を変え、躯体の質感を味わう空間にしたからこそ、ぐねっとした長いダクトが露出していても違和感なく溶け込んでいます。

天井には『工業系レセップ』を採用し、無骨なテイストでまとめています。

自転車を掛けているのは『自転車フック』。使わない時は壁側に折り畳めます。(撮影:衣笠名津美)

「安藤忠雄設計のようなコンクリート剥き出しの建築物が好き」だというお施主様。

既存仕上げを剥がして現れたゴツゴツとした凹凸や木片などが埋まっていた表情も味として残しています。

フックには『ホテル金物』を採用。コンクリートにクローム仕上げがキラリと光る。(撮影:衣笠名津美)

寝室は、友人らと集まるLDKと打って変わり、ダークグリーンの塗装壁にウォールライトを設置した、落ち着きのあるプライベート空間。

撮影:衣笠名津美

大きなクローゼットとストレージを設けて、洋服や見せたくないものはまとめて収納できるように。

ストレージはリビングのテレビ裏にあり、テレビ等の配線はこちらにまとまっているそう。名作家具やこだわり抜かれたインテリアが点在する空間では、コード類のごちゃつきにも妥協しません。

撮影:衣笠名津美

子ども部屋は独立した個室に。白の塗装壁で、明るくシンプルに整えています。これから増えてくるものやお子さんの好みに合わせて変えていける空間です。

撮影:衣笠名津美

洗面は、『人工大理石の洗面カウンター』と『塗装のキッチンパネル』でシンプルに造作。壁が濡れたり汚れたりしても、ささっとお手入れがしやすい素材で、白い洗面も気持ちよく使えそうです。

水栓は『壁付けセパレート混合水栓』、タオル掛けは『ハンガーバー』を採用していただいています。(撮影:衣笠名津美)

海外で得たインスピレーションを家づくりに取り入れたいと思うことは多々ありますが、この家を見ていると、デザインだけではなく、「どう暮らしたいか」という価値観そのものを反映することの大切さに気付かされます。

人が集まるキッチン、テレビを隠す収納、素材の組み合わせ方。どれも見た目のためでなく、暮らし方から導き出された選択でした。海外風のインテリアではなく、素直に自分たちらしい暮らしをつくる。その積み重ねが、この住まい全体から伝わってきました。

リビングの一角にある本棚コーナー。ラワンの積層合板の表情も気に入っているポイントだそう。(撮影:衣笠名津美)

アートアンドクラフト

アートアンドクラフト

建築設計/施工/不動産仲介/建物再生コンサルティングのプロ集団です。
大阪・神戸・沖縄を拠点に、マンション1室からビル1棟まで既存建物の再生を得意としています。

大阪R不動産も運営しているtoolboxのグループ会社です。

テキスト:庄司

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