「非日常にトリップしたい」と思った時。旅館やホテルに泊まるのもいいけれど、「そこで過ごしているのは自分たちだけ」という特別感に浸れる、“貸し別荘に泊まる”という選択肢もあります。
寝室やお風呂、キッチンが付いた一戸建ての建物を丸ごと貸し切る、貸し別荘。他の宿泊客を気にすることなく、まるで自分の別荘にいるかのように、プライベートな時間を過ごすことができるのが魅力です。
今回ご紹介するのは、デザイナーの松本樹さんと有限会社堀内鋼業が協働で設計施工した宿泊施設。アートギャラリーに泊まるような体験ができる、海辺の貸し別荘です。
場所は、千葉県の南房総。建物の目前に広がるのは、太平洋のパノラマビュー!視界を遮るものなく、どこまでも広がる青い海と空を眺めることができます。
こちらの貸し別荘は、3ベッドルームを備えたLDK棟、スイートルーム棟、プレイルーム棟の3棟で構成されており、高低差がある敷地を活かした配置によって、どの居室からも海を望めるつくりになっています。
通年利用できる温水プールのとなりにはサウナも完備。広大な海を眺めながら、あるいは満天の星空の下で楽しむ外気浴は、この上なく気持ちが良さそう。
海に向かって大きな窓が並ぶ室内も開放的です。
内装は、海と空の眺めを引き立てるよう、白とグレーを基調にデザイン。水平・垂直のラインを強調したミニマルな空間が、アートギャラリーのような静謐さを生み出しています。
室内に置かれたアルモニアのカウチソファやHAYの家具、各所に飾られた現代アートも、この貸し別荘の魅力のひとつ。
窓の外に広がる海と空だけの眺めと、ギャラリーのように整えられた空間。その両方が、日常から離れた特別な時間を演出しています。
LDK棟で印象的なのは、リビングの壁面に穿たれた、この四角い穴。ここにはクッションマットが敷かれており、ベンチとして使えるヌックになっています。
その奥、透け感のあるカーテンの向こうがベッドルーム。扉で出入りするのではなく、ヌックを超えてアクセスするつくりがユニーク。
なぜそんなつくりになっているのかというと、その答えはベッドスペース側に行くとよくわかります。四角い開口部で、海の眺めを“額装”するように切り取っているんです。
朝、目を覚まして体を起こすと、目に映るのは、白いタイルで“額装”された海の景色。ベッドルームまで、その眺めを楽しむための場所としてデザインされていました。
この“額装”部分の仕上げは、『フロストタイル』のマット。他の壁と同じ白塗装にせず、タイルを貼ったのは、このフレームの中におさめる景色をより印象的なものにするため。
とはいえ、フレームが目立ちすぎては本末転倒。今回『フロストタイル』のマットを採用したのは、「主張をしすぎない表情が決め手でした」と松本さん。それでいながら、タイル特有の存在感や高級感はしっかりある。そんなキャラクターが、今回目指す空間にぴったりとハマりました。
一方、壁や天井には『業務用塗料』を採用。こちらの塗料は、「空間づくりの現場でプロがよく採用する白色」で、ほんの少しグレーがかった白色をしています。採用理由は、『フロストタイル』の白との相性の良さ。異なる素材の「白」を丁寧に組み合わせることで、単調にならない、奥行きのある「白い世界」を描き出しました。
キッチンの壁にも『フロストタイル』のマット二丁掛けを採用。こちらでは、四角く窪ませた壁面にタイルを貼ることで、白い壁の中にタイル壁が額装されたようなデザインになっています。
マットな白タイルとバイブレーション仕上げのステンレスが、光をやわらかく拡散します。
洗面室はLDK棟とスイートルーム棟の2箇所にあり、こちらはスイートルーム棟の洗面室。
洗面台には、ボウルと天板が一体になっている『人工大理石の洗面カウンター』を採用しました。オーダーしたのは幅1750mmのロングサイズ。カウンターも、隣に添えたタオル台もフロートにすることで床の隅を見せ、空間を広々と感じられるようにしています。
こちらの壁も『業務用塗料』でペイント。ツヤ消しのマットな質感の壁に、間接照明の明かりがじんわりとにじんでいます。
LDK棟の洗面室は、『人工大理石の洗面カウンター』と『フロストタイル』のマット二丁掛けを組み合わせました。
光をやわらかく受け止める素材たちが、リラックス感のある場所に仕立てています。
ラグジュアリー感たっぷりのこちらの貸し別荘ですが、実は、躯体に使われているのは建築用コンテナ。
都市部から離れた場所につくることが多い別荘は、職人不足などの影響で工事が長引きやすく、建築費も膨らみがち。工事が長引けば、オープンまでの時間も長引きます。
そこで今回のプロジェクトでは、工場で組み立てたコンテナを運び込み、現地で組み合わせる工法を採用。現地での施工を大幅に減らしたことで、建築面積約196㎡の施設をわずか3か月で完成させました。
建物の内外装を白で統一したのは、「倉庫」のイメージが強いコンテナ建築の印象をやわらげるためでもありました。異なる素材たちを白で包み込むことで建物を抽象化し、景色やアートを主役にする空間をつくり上げました。
さらに、光を拡散する白は、軒の深い室内まで自然光を届ける役割も。窓の向こうに広がる海や空の青さ、木々の緑もいっそう鮮やかに映し出し、この場所ならではの景色を引き立てています。
コンテナという合理的な構造を生かしながら、素材や色使いによってラグジュアリーな空間へと仕上げたこのヴィラ。
「何でつくるか」だけでなく、「どう仕上げるか」で建物の印象は大きく変わる。そんな考え方は別荘建築だけでなく、地方や郊外での住宅づくりにも参考になりそうです。
撮影:matte design
UMInoTERRACE Garden
https://piyo-terrace.com/vacationrentals/garden/
設計・デザイン監修:松本樹
設計施工:有限会社堀内鋼業
松本 樹/ITSUKI MATSUMOTO
1996年名古屋生まれ。愛知工業大学大学院工学研究科前期博士課程修了。大学院在学時に道後アートプロジェクト拠点施設の実施設計コンペで最優秀賞を受賞。竣工作品が2021 年グッドデザイン賞、まつやま景観賞審査員特別賞を受賞。他、日本家屋のリノベーションにて日本空間デザイン賞、ヤングタレント賞受賞、南房総のユニットヴィラにて2026年日本空間デザイン賞入選。
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