今回ご紹介するのは、設計事務所を営むオーナーが、自身の設計でリノベーションした築36年のビル一棟。外装も含めて一新しました。

東京都大田区、馬込の住宅地に建つ小さな白亜のビル。1階は店舗用賃貸、2階は事務所や店舗用の賃貸、3階と4階が賃貸住居という、1フロア1戸の構成です。

ファサードをスリット状に覆っているのは、スチールメッシュ。花を思わせる幾何学模様のメッシュがドレッシーで、建物の顔に特徴を持たせています。

周囲の視線をほどよく遮りながら、各階に光や風を取り込むスチールメッシュ。ただの柵では味気なく、かといって隠しすぎれば暗くなってしまう。そのバランスを、装飾性のあるメッシュでうまく解いています。

側面はエキスパンドメタルで覆われており、こちら側からも光と風が入ってきます。

このメッシュで囲われた場所は、フリースペース。各階を使う人たちが行き来する共用部ではあるものの、その邪魔にならない範囲であれば、各フロアの人が使ってOKなのだそう。

植物を置いたり、ベンチを置いてアウトドアリビングにしたり。“家の延長として使える外”があると、暮らし方が広がりそうです。

そしてこちらが室内からの眺め。3階住居用賃貸は約26㎡のワンルームなんですが、床から天井まである大きな窓でフリースペースと空間がつながるので、実際に感じられる広さはそれ以上。

玄関側も開放的。レースカーテンやブラインドで、開放感を活かしつつ、外からの見え具合を調整するのが良さそうです。

「見えすぎてちょっと」と思う人もいるかもしれませんが、個人的には、住む人のセンスや創意工夫で自由に窓まわりをアレンジできる、楽しみどころだと思いました。

フロアは、現しにした鉄骨とブレースが“倉庫”っぽさを感じさせます。それでいて、床は無垢材を使った『継ぎ無垢フローリング』で仕上げ、天井もシナ合板で板張り天井にして、「住む場所」としての心地よさも演出。

壁や鉄骨は、コントラストが強くなる真っ白ではなく淡いグレーで塗装して、やわらかい雰囲気をつくっているのもポイントです。

窓辺の天井には、『アイアンハンガーパイプ』が取り付けられており、クローゼットとして使うも良し、室内干しにしても良いし、グリーンを吊るすコーナーにしても良いですね。

フロアの中に立つ鉄骨とブレースも、ワンルーム空間の中ではゾーニングに役立ってくれそう。マグネットで何かを付けたり、フックも活用できます。

そして、「これうれしい!」と思ったのが、天井の各所を走るライティングレール。スポットライトでコーナーを照らしたり、テーブルの上にペンダントライトを吊るしたりと、明かりの配置で居場所をつくることができます。スマート照明を使えば、場所ごとのオンオフも自由自在。

広々としたワンルームは、家具を自由にレイアウトしてコーナーをつくれる楽しさがありますが、照明器具が欲しい場所に取り付けられないことがあるんですよね。そんなお悩みを見越した照明計画になっています。

この部屋には、そんな「住む側」の目線に立った気遣いを各所に感じます。

玄関の横にも、『アイアンハンガーパイプ』を使ったクローゼットが。ラワン合板の壁の向こうには下足棚があり、キャリーケースなどの荷物も置けるスペースも用意されています。玄関の収納スペースはカーテンで仕切れるようになっており、『木製カーテンレール』が使われていました。

クローゼットの裏手がキッチン。『木製ミニマルキッチン』と『オーダー吊り戸棚』のラワンを使って、素材感のある空間に仕上げています。「隠す収納」をしっかり確保しつつ、キッチンの足元はオープンにして、住む人好みの収納ができるようになっています。レンジフードは、『フラットレンジフード』が使われています。

ワンルーム空間では、キッチンの生活感や料理の匂いなどが一層気になるもの。フロアに丸見えにならない位置に配置しているところにも、グッときてしまいました。十分な広さがありつつ、ほどよいおこもり感があるのも、ワンルーム暮らしの中にメリハリが生まれて良いですね。

キッチンは小さなバルコニーにもつながっていて、バルコニーへ続くドアのスリット窓から漏れる光を浴びながら、朝のコーヒータイムを優雅に過ごしたい。

浴室はユニットバスで、トイレは独立型。露出した配管や簡素な板鏡、スタンダードな陶器の洗面器に、“築古ビルリノベ”らしさを感じてときめいてしまうのは、私だけでしょうか。そんなトイレの天井にそっと添えられたのは『ミニ磁器レセップ』。どこか懐かしさを感じるデザインが、空間の雰囲気に馴染んでいます。

洗濯機置き場は、贅沢に窓際にレイアウト。明るい日差しの中で行う洗濯は、気持ちの良いルーティンになりそうです。洗濯まわりのグッズが置けるよう、上部にしっかり棚が備えられているのも、見逃せません。

ちなみに事務所や店舗用賃貸になっている2階はこんな感じ。

基本のマテリアルは3階賃貸住居と同じで、浴室とクローゼットがなく、3階の浴室位置にキッチンがある間取り。フロア全体を広々使える空間になっています。

ビルリノベらしい非住居感と、各部に使われた木によるあたたかみが同居する、開放的な賃貸ワンルーム。

ここに暮らす人がどんなふうに“自分らしい家”に仕立てていくのか、入居者たちの暮らしぶりを想像するのも楽しくなる住まいです。

COZYlab

COZYlab

岸本直記が代表を務める建築設計事務所。COZYlabは、心地よさと機能美を軸に、空間・建築・プロダクトを横断的にデザインし、暮らしに寄り添う価値を創造します。

テキスト:サトウ

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