元々は、20㎡弱のワンルームで構成されていたこちらのアパート「ガーデンハイツ」。玄関を入ると通路を兼ねたキッチンがあり、反対側に水回り、奥に洋室6帖とロフト3帖というお部屋でした。
こうした単身者向けワンルームは世の中に溢れており、入居者は短期で入れ替わっていきます。吉祥寺は「住みたい街」として人気だけれど、長期的に暮らしたいと思った時や二人暮らしには、ワンルームはちょっと窮屈。
カフェを運営したり、ワークショップイベントなどを開催して、街や人とつながる暮らしをしてきたオーナーさんには、「街と家に愛着を持ってくれる人に長く住んでほしい」という想いもあり、ワンルーム2戸をつないで40㎡弱の1戸にするというリノベーションをしました。
アパートが建つのは、井の頭公園のすぐ隣。公園の大きな木々と植栽が周囲を囲む、緑を感じるロケーションです。
アパートのエントランス側にも緑がたくさん。オーナーさんが馴染みの園芸屋さんにお願いした植栽が、住人たちを出迎えます。
植栽を囲むベンチも、今回のリノベーションで造作したもの。住人や地域の人たちの憩いの場になりそうです。
こちらの素敵な庭は、アパートに隣接するオーナーさんの家の庭。ベンチに使われている板は、アパートとオーナー宅の間に建っていた板塀を解体して再利用したのだそう。塀を取り払ったことでアパートの玄関前が開放的になり、さらにオーナー宅の庭の緑をアパートの住人たちも楽しめるようになりました。
近隣に住む人の顔が見えるというのは、安心感が芽生え、「街と家に愛着を持って暮らす」ことにつながっていくと思います。プライバシーを守ろう守ろうと互いを隠して閉鎖的にするのではなく、互いの気配を緩やかに感じる心地よい距離感づくりの工夫です。
こちらは1階にある、LDK+ロフトのお部屋。玄関を入ると『木製システムキッチン』がお出迎え。視線の先には、公園の緑が広がります。戸境壁を取り払って出てきた柱も木立のようで、まるで森の中に住んでいるみたい、と言ったら大袈裟でしょうか。
ロフト付きのワンルームを2戸繋げたので、吹き抜けも2倍。床面積は40㎡弱ですが、実寸以上の開放感を感じます。
ロフトは天井高さ1.3mほど。露出した筋交が“屋根裏”感を醸し出しています。小さな窓から木々の緑が見えるのもキャンプ場のコテージのようで、なんだかワクワク。
約6帖あるので、半分はマットレスを敷いて寝床に、もう半分は隠れ家のような書斎にしたり、クッションを置いてセカンドリビング的に使ったりもできそう。
ロフトからの眺めはこちら。朝、ロフトで目覚めて下を見下ろしたら、パートナーがキッチンでコーヒーを淹れている……そんな光景の妄想も広がります。
2戸を繋げた分、広々とした玄関は、自転車も置ける広さ。洗濯機置き場が玄関のそばにあるので、洗濯物を干すインナーテラスとして使うこともできそうです。
「長く心地よく暮らしてもらいたい」というオーナーさんの想いは、水回りにも込められています。
キッチンには『木製システムキッチン』のラワンを採用して、ツルピカのキッチンとは違う、リラックスした雰囲気を空間にプラスしています。水栓は『クロームメッキ水栓 ベントネック混合栓』、レンジフードは『キューブ型レンジフード』をお使いいただきました。
「木です」という主張をしすぎない、穏やかな木目の『木製システムキッチン』は、家具との馴染みがいいので、インテリアにこだわりたい住人にも気に入ってもらえるはず。
何より、窓外やドアの外に広がる森や庭の緑と木のキッチンがリンクして、木々に囲まれた豊かな環境の中に暮らしていることを感じられるのが、とてもいい。
キッチン背面のタイル壁は『フロストタイル』で仕上げられていました。カウンター収納と吊り戸棚は、IKEAのものを使い、木の天板と『溶融亜鉛メッキの把手』を取り付けてカスタマイズ。造作ではなく既製品を活用することでコストを抑えつつ、入居者にとってうれしい収納ボリュームを確保しています。
こちらの部屋は、玄関横に個室がある、1LDK+ロフトという間取り。『木製システムキッチン』は壁付けにして、LDKを広々と使えるようにしています。
ハシゴは、ワンルーム時代のものをそのまま活用。飴色に育った木の色が、木のキッチンとよく馴染んでいます。空間に露出した筋交と柱も、家具の置き方の工夫を楽しむフックになりそうです。
造り付けのクローゼットはないけれど、目線を変えれば、服をしまう場所は「住む人が決めていい」ということ。暮らし方に合わせて、ベストな場所に服の収納をレイアウトできます。
洗面所は、今回リノベーションした全ての部屋に、toolboxの洗面アイテムを共通で採用していただきました。
『ミニマル洗面台』と『棚付きボックスミラー』は、特注色のグレーベージュ。壁仕上げは『ピクセルタイル』で、照明には『ミルクガラス照明』、タオル掛けには『ハンガーバー』、スイッチは『アメリカンスイッチ』が使われています。
個人的には、賃貸物件の水回りって、その物件を気に入るか気に入らないかを大きく左右するポイントだと思うんです。床はラグを敷いたり、壁は収納家具を置いたりポスターを飾ったりして見映えをアレンジできるけど、水回りの設備機器は住む人が自分で手を加えにくいところ。だからこそ、水回りは素敵な空間であってほしい。
浴室越しに自然光が入るこの洗面で朝の身支度をする時間は、とても気持ちが良さそうです。
2階の住戸には、玄関に『オーダー玄関収納』のラワンが取り付けられていました。向かいにあるツマミ付きのレトロな下足入れは、もともと付いていたもの。部屋を二人暮らしもできる広さにした分、靴を収納できる容量をアップさせました。ラワンの素朴な素材感が、既存の収納と調和しています。
2階の部屋の窓の外にも、公園の木々が広がり、まるで緑に包まれているよう。
春は新緑を楽しみ、夏は深い緑が涼を運んで、秋には紅葉を眺めたら、木々が葉を落とす冬はポカポカの日差しを堪能する。「吉祥寺に住む」だけでなく、「井の頭の森」を家にいながら満喫できるなんて、最高以外の何物でもないでしょう。
この部屋はロフトが玄関側にあって、一層、隠れ家感がありました。リビングダイニングは全面吹き抜けで、開放感が抜群。
リノベーションが終わり、入居者の募集を始める際には、お披露目会としてオープンガーデンイベントを開催。入居検討者や近隣の人が集まり、出会いや交流が生まれていたそう。
「独り暮らし」から、街や人とつながる暮らしへ。
ワンルームをつなげて、住む人の暮らし方もコミュニティも広げる、物件を貸す側にも借りる側にも気づきのある、リノベーション賃貸の可能性を感じる事例でした。
※こちらの事例はimageboxでも詳細をご確認いただけます。
有限会社日神山内装
飲食や物販等の店舗を中心に空間設計デザインを行う内装会社。代表の日神山晃一は池袋西エリアを中心としたまちづくり会社、株式会社シーナタウンの代表も務め、まち宿&シェアキッチン「シーナと一平」やブルワリーパブ&ギャラリー「NishiikeMart」等の施設を運営、様々な地域の遊休不動産を活用したエリア開発・グランドデザインのお手伝いも行っています。
紹介している商品
※「ミニマル洗面台」と「棚付きボックスミラー」は特注色のグレーベージュ