Webデザイナーでコーダーの夫と、イラストレーターでクラフト作家でもある妻がマイホームを建てたのは、東京都八王子市の郊外。駅からは距離があるものの、夫婦ともに在宅ワークが基本なことと、隣地が畑で景色がひらけているところに惹かれ、予算にも合う現在の土地を選びました。

出来上がった家は、建坪約13坪の木造2階建て。メインの生活空間は、2階にレイアウトしました。切妻屋根の形をそのまま見せた勾配天井と、畑側に連ねた腰窓が、開放感を生み出しています。

シンプルな内装を希望していたご夫婦は、家づくりのテーマカラーに「グレー」を選択。壁と天井はライトグレーの塗装仕上げで、日塗工番号と呼ばれる色見本帳の色番号“N-77”を選びました。

「昔から、“ニュートラル”という言葉が好きだった」というご夫婦。グレーの壁天井は室内に回る光をやわらかく拡散し、空間に落ち着いた雰囲気をつくり出しています。

家で過ごす時間の多くをこの心地よい空間で過ごせるよう、ワークスペースも2階に計画。造作した夫婦お揃いのデスクを、通路を挟んで横並びにしています。

デスクの天板は、グレーのファニチャーリノリウムで仕上げました。

ワークスペースの背面には、壁一面の棚を造作しました。ドイツ・ALUTECのプラスチックコンテナがぴったりおさまるグリッド棚は、A4のファイルボックスやレコードも納まる、計算され尽くしたサイズ。

等間隔のグリッド棚にすることで、サイズが異なるさまざまなものを並べても、整然とした印象を維持しやすいようにしています。

そして、夫のワークスペースから見える景色がこちら。スッキリとしたリビングの上空に浮かぶのは、listudeの12面体スピーカー「scenery」。2階の間取りは、この無指向性スピーカーを吊るすことを前提に計画しました。

家づくりの際、夫が最優先事項として掲げたのは、“音楽を楽しむ環境を整える”こと。設計事務所に依頼することを選んだのも、それが大きな理由。間取りや使う素材に制約のない家づくりがしたいという思いからだったそう。

レコードプレーヤーは、ワークスペースではなくリビング側に設置。レコードを選んで針を落とす時間ごと、仕事の合間の気分転換や楽しみとしました。ソファは、オーディオセッティングの基本、左右のスピーカーと正三角形になる場所にレイアウトしています。

夫のワークスペースは腰壁で仕切っているので、仕事をしている時も音楽が届きます。一方、休息の時間を過ごす時はソファに座り、ワークスペースを視界に入れず、音に没頭する。

オンもオフも、一日中好きな音楽に包まれて過ごす暮らしを送っています。

ダイニングは、景色も音も両方楽しめるスポット。

グレーのダイニングテーブルも、この家の内装に合わせたものかと思いきや、ご夫婦の母校の研究室で使われていた机なのだそう。賃貸マンション暮らしをしていた頃は、空間に対して大きすぎると感じていたそうですが、このテーブルを置くことを前提に計画された今の住まいでは、自然におさまっています。

バラバラの椅子たちも、以前の住まいから連れ添っているもの。グレーとの相性を考えて選んだ、飴色にオイル塗装したラワンの造作家具や、濃い赤茶色のフローリングとも、よく馴染んでいます。

フローリングに採用したのは、アピトンという東南アジア原産の樹種。一般的にオーディオルームには硬い無垢材が向いていると言われており、アピトンは、屋外にも使われる丈夫さと硬さが特徴。

リビングのスピーカーのメーカー・listudeが奈良で運営していたイベントスペースの床材がこの木だったことと、お気に入りの家具ブランド「PACIFIC FURNITURE SERVICE」のパーツセンターに使われていたことが決め手だったそう。

空間を伸びやかに見せるために、幅が細めで、継ぎ目の少ない4mの長尺タイプを選びました。

グレーの壁天井が穏やかに光を反射する中、キッチンの壁に貼ったライトグレーのタイルは光沢のあるものを選び、変化をつけています。

二つある水栓は、水道水用と、「浄水器付き専用単水栓 グースネック クローム」。コンロはガラストップのグリルレスを選びました。

キッチンの下部や収納をオープンにしたのは予算の都合だったそうですが、元々持っていたワゴンや収納用品をうまく活用しています。吊り棚に並べた器たちも、グレーの空間の彩りになっています。

キッチンで使ったタイルは、1階のサニタリーにも使われています。使う素材の種類を絞ることは、コストダウンの定石。

家づくりの早い段階でグレーをテーマカラーに据えたことで、素材やパーツ選びはスムーズに進めることができたそう。

1階には、寝室と浴室、サニタリーといった生活機能を集約。このフロアの床は、フレキシブルボードで仕上げました。セメントと繊維を高圧プレスした不燃ボードで、水や衝撃に強く、一般的には下地として使われることの多い素材です。

フレキシブルボードや塗装、艶のあるタイルなど、素材感の違いで、グレーの世界を豊かに演出しています。

クローゼット機能も一緒にしたシンプルな寝室は、真四角の窓がレコードを思わせます。

ベッドサイドの灯りはJIELDEのウォールランプ。その下のスイッチには『アメリカンスイッチ』を合わせて、インダストリアルなテイストを引き立てています。

家の形をシンプルにしてコストを抑えるため、バルコニーを設けなかった代わりに、玄関前にはピロティをつくりました。ここは、洗濯物を干したり、自転車を置いたり、植物を育てたり、家庭菜園の道具を手入れしたり、DIYをしたりと、マルチスペースとして活躍中。ピロティ天井には円フックを取り付けており、ハンモックを吊るすこともできます。

家の延長として使える屋外があると、暮らしの中でできることが広がりますね。

「グレー」のルールは外装にも適用されており、外壁はグレーのガルバリウムとフレキシブルボード、ピロティはモルタルで仕上げました。

植栽のグリーンや郵便受けの赤、玄関ドアの木が際立つ、印象的なエントランスになっています。

家の延床面積は約76㎡で、以前住んでいた賃貸マンションと同じくらいの広さだそうですが、「音楽を聴くこと」と「職住一体の生活」、そして自分たちの好みや持ち物に合わせてオーダーメイドでつくった家は、居心地の良さも暮らしやすさも、格段に増えているのではないでしょうか。

仕事と生活、集中とリラックス。それらをきっぱりと区切るのではなく、フラットに行き来できるようにした「ニュートラル」な住まい。好きな音楽とともに過ごす何気ない毎日を心地よいと思える、自然体な暮らしがそこにありました。

撮影:栗原 論 Osamu Kurihara

straight design lab / ストレートデザインラボラトリー

straight design lab / ストレートデザインラボラトリー

東京で活動する一級建築士事務所。建築の設計・監理、戸建て住宅やマンションのリノベーション、店舗デザインを行っています。

テキスト:サトウ

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