東京都内の実家を出てひとり暮らしをするにあたり、「地方移住してマンションリノベ」という選択をしたYさん。

家づくりを思い立った当時は20代後半。当初は平屋を新築したいと考え、関東近郊で土地探しを始めましたが、広さと予算の折り合いがつかず、行き着いたのが栃木県の那須塩原。以前に旅行で訪れ、街の静かさや雰囲気が気に入っていたのだそう。

都内の勤務先は新幹線通勤が可能だったこともあり、「せっかくなら少し遠い場所に住んでみよう」と、新幹線駅にほど近い約62㎡のマンションを購入し、フルリノベーションしました。

もともと建築やインテリアを見るのが好きで、今回の住宅購入についても、「資産価値よりも、自分だけの好きな空間をつくりたいという思いが強かった」と話すYさん。

家づくりを決めた当初から依頼したいと考えていたstraight design labに設計を依頼し、自分の“好き”という感覚を素直に映し出した住まいづくりに取り組みました。

まず玄関を入ると出迎えるのが、壁面を埋め尽くす木製シェルフ。棚板の高さが変えられる可動棚ではなく、棚板を固定したグリッド棚にしました。

書類ケースや雑誌、本、雑貨やオブジェ、コミックや文庫。さまざまな“好き”を一緒に並べても、規則的なマス目に収まることで、自ずと整って見えるよう工夫されています。

玄関横には、ゲストルームを兼ねたフリースペースを設けました。床はグレーのリノリウム、躯体壁はモルタルで仕上げています。

「とにかくはっきりした色が好き」というYさん。グレーを基調にしたのは、カラフルな家具や雑貨を置いても、雑多な印象にならないようにするため。素材選びの際は、リノリウムの床を最初に決めて、そこから各所の素材や色を決めていったそう。

フリースペースは、クローゼットを経由して寝室につながっており、普段はあいだの引き戸を開け放って使っているそう。

寝室と収納は、オイル塗装のラワン合板を採用。自宅の中でもよりプライベートなスペースに、ほどよいおこもり感をつくっています。

寝室とリビングは、型板ガラスをはめ込んだ室内窓で仕切りました。

腰高さから梁下まで大きく開口することで、個室としての落ち着きを保ちながらも、開放感も確保。木とグレーに囲まれた空間に、やわらかな光が差し込みます。

モルタルのざらりとした質感、ラワン合板のあたたかみある表情、揺らいだ光をつくる型板ガラス。

空間に豊かな表情が生まれているのは、素材そのものが持つ質感を丁寧に重ねているからかもしれません。

床は、フリースペースだけでなく、廊下とLDKも全面リノリウムにしました。

リノリウムの床と塗装の壁を住まい全体に連続させることで、空間ごとの境界を感じさせない、のびやかなつながりを生み出しています。

洗面は脱衣所ではなく、廊下にオープンに設けました。

ハニカム形のタイルは、Yさんが特にこだわって選んだもの。こちらもマットな質感のものを選びつつ、洗面器と水栓には艶感があるものを選び、素材感にメリハリをつくっています。

一方、脱衣所はトイレと一緒の空間にしました。閉じていていい空間はひとまとめにする。ひとり住まいならではの、家の面積を有効活用するアイデアです。

丸いタオル掛けや棚の三角のブラケットの造形が、シンプルな空間に遊び心を添えています。

LDKも、グレーを基調に空間をつくりました。寝室との間仕切り壁など、新規でつくった壁と天井面は、グリーンがかったグレーで塗装しています。

Yさん好みの色を取り入れつつ、グレーのグラデーションにすることで、住まい全体のトーンをまとめました。

マットな質感のグレーで構成された空間は、まるでギャラリーのよう。

家具や雑貨で空間を埋め尽くさず、余白を残しながら家具や照明を配置することで、アイテム一つひとつの存在感が際立っています。

昔から使っているアンティークのダイニングテーブル、実家から受け継いだチェストといった木製家具に、リーン・ロゼのくすみピンクのソファ、エスニックなマルチカバー、ライトブルーのIKEAのワゴン、グリーンの「Curly lamp」に、艶のあるブルーの「Flowerpot pendant」。

“好き”や“可愛い”という直感を大事にしてYさんが選んだ家具や照明が、空間の彩りになっています。

グレーの空間の中で一際映えるキッチンの鮮やかな水色も、Yさんのセレクト。「キッチンの壁は絶対に水色のタイルにしたいと思っていました」と話します。

キッチン本体は、straight design labデザインのオリジナル。水栓は「浄水器付き切替混合栓 グースネック クローム」、水切り棚もステンレス製のものを選んで、タイルはシルバー色の金属や木と合う水色を吟味しました。

キッチンの収納に木を取り入れたり、ガラストップの黒いコンロ、白いレンジフードを差し色のように効かせて、水色とグレーをベースに構成された空間を、よりカラフルな印象に仕立てています。

コンロ下収納に取り付けた縞模様の陶器のつまみは、Yさんが中学生の頃に一目惚れして購入したもの。「15年越しに日の目を見せることができました」と笑います。

素材や色選びはかなり悩んだそうですが、工事を進めながら空間が少しずつ形になっていくのに合わせて、設計者と相談しながら決めていったそう。実際の空間を見ながら検討できたことで、自分の“好き”を納得いく形で選び取ることができました。

「自分の好きな空間で暮らしたい」から始まった、那須塩原でのひとり暮らし。好みを映し出した空間だけでなく、60㎡以上という広さの物件を予算内で手に入れられたのも、地方移住だったからこそ。「今はできるだけこの家に長く住み続けたい」とYさんは話します。

賃貸か購入か、都心か地方か。住まいの選択肢はさまざまですが、「何を優先して暮らしたいか」に素直に向き合った上での「地方移住×マンションリノベ」という判断は、理想の暮らしと現実的な条件を両立するための、一つの答えと言えるでしょう。

固定観念に縛られず、自分にとって大事にしたいことを優先する。そんなシンプルな衝動が、住まいの可能性を広げてくれるのかもしれません。

撮影:橋本 裕貴

straight design lab / ストレートデザインラボラトリー

straight design lab / ストレートデザインラボラトリー

東京で活動する一級建築士事務所。建築の設計・監理、戸建て住宅やマンションのリノベーション、店舗デザインを行っています。

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テキスト:サトウ

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