日本の住まいはすっかり欧米化したものの、それでもやっぱり「和の空間」に心惹かれるのは、日本人のDNAに刻まれた記憶ゆえでしょうか。

今回ご紹介するのは、隅田川のほとりにある一棟貸のホテル「villa sumidagawa tokyo」。「日本の趣きを感じられる宿にしつつ、現代の人にとって気持ちよく泊まれる空間に」というオーナーの想いを受けてリノベーションされた空間には、和の要素を現代的に取り入れるヒントが詰まっていました。

まずは、ファサードから窓越しに見えていた、こちらの空間からご紹介。土間玄関と、畳の小上がり、イサムノグチの「AKARI」が出迎えます。

旅行中の「家」となる宿に着いたら、小上がりに腰掛けてひと休み。畳の上で足を伸ばしたり、ごろりと寝転んだりと、思い思いにくつろげる場所になっています。

「玄関を入ってすぐ畳」というのは新鮮ですが、思い起こせば、昔の旅館や土間のある民家の“上がり端”を思わせるような、どこか懐かしいつくりでもあります。

ベージュ色の正方形の畳や、小上がりの下に仕込まれた間接照明によって、和の様式が軽やかでモダンな印象に整えられていました。

玄関土間と畳の小上がりは、障子で仕切ることができます。軽やかなデザインの障子を用い、鴨居の上を開けることで、こもり感と開放感が同居する空間に仕立てています。

天井を走るヒノキ造りのルーバーも、空間に“抜け感”をつくる仕掛け。

ルーバーの奥にはデッキプレートや鉄骨が覗き、木の素材感の中に、鉄骨造ならではの無機質さをあえて残すことで、クラシックな和に寄りすぎない空間に整えました。

右手にある木の引き戸の向こうには浴室があり、お風呂上がりに畳の間でくつろげるというのも、いいですね。障子とフロストガラス越しのやわらかな光に包まれた空間は、夜だけでなく、明るい時間にも“湯上がり”を楽しみたくなります。

格子戸で洗濯機をさりげなく隠しているのも、お宿らしい“非日常感”を保つ工夫です。

洗面所は、背面に照明が仕込まれたミラーを採用して、ホテルライクな趣きに。小空間に上質な雰囲気を添えました。

トイレには、こちらも「ヒノキ」の『ソケットランプ』を取り入れて、和を感じる素材使いに統一感を持たせています。

2階はダイニングキッチン。天井はラワン仕上げ、床には『間伐材フローリング』のヒノキが使われており、写真を見ているだけでも木の香りが漂ってくるようです。

ナチュラルなイメージの強い素材を使いながらも野暮ったくなっていないのは、巾木や周り縁を付けず、壁と床天井の切り替えラインをすっきりと見せているから。階段を囲む格子も細めの材を使い、端正な印象にしています。

キッチンは、木の面材とシャープなデザインを組み合わせた『木製ミニマルキッチン』のシナ。白木の色合いは、ヒノキの床とも好相性です。

「合板」という汎用性の高い素材でつくられている特徴を活かして、キッチンと連なるカウンターもシナ合板で造作しました。

長期宿泊でキッチンを頻繁に使う場合も考え、水栓はホース式が便利な『ハンドホース水栓』を採用、コンロは2口のIHを取り付けました。

水栓の隣にあるのは埋め込み型のソープディスペンサー『キッチンディスペンサー』で、「台所用洗剤を露出させない」という、非日常感への気遣いがここにも盛り込まれていました。

壁は、少し黄みがかった灰色で、日本の伝統色「灰汁色」に似た色味。「白」でも爽やかな空間になると思いますが、日中アクティブに楽しんだ後の休息と余韻を味わう場所として、落ち着きを感じるトーンを選びました。

土壁や砂壁を思わせる色合いは、畳や木とも好相性。伝統的な「和」の素材感を感じさせながらも、すっきりとした壁天井の納まりや間接照明によって、現代的な印象に整えられています。

そんな空間の雰囲気を損なわないよう、リビングゾーンの窓は、フロストガラスを入れた木製FIX窓を取り付け、採光は維持しながら既存のサッシを隠しています。

最上階の3階は、ベッドスペース。畳の小上がり部分にマットレスを敷き、最大5名が就寝できます。

障子の腰窓下の壁はヒノキ板仕上げ。ヒノキの素材感と香りが心地よいだけでなく、マットレスに腰掛けた際の背もたれとしても機能します。

さらに天井も木仕上げに。寝転んだ時にも木の表情が視界に入り、素材に包まれるような落ち着きを感じられます。

クリアの中空ポリカーボネートをはめ込んだ木建具で階段ホールを仕切ると、ホールの照明の明かりが拡散し、行燈のようなやわらかな光が広がります。

建具を使って階段ホールそのものを照明のように見立てた、ユニークなアイデアです。

畳やヒノキ、障子、壁の色など、和を感じる要素を多く盛り込みながらも、「純和風」になっていないのは、“軽やかさ”がポイント。

建具やルーバーの繊細なライン、壁と床のすっきりとした切り替え、ミニマルなデザインのキッチンなど、空間の中にシャープなラインを描き出すことで、軽やかな「和の空間」にまとめられていました。

また、光や陰影の扱い方によって、非日常感と日本的な美意識を感じさせているところにも、現代的な「和の空間づくり」のヒントを感じました。

「マイホームに和の要素を取り入れたい」と考えているなら、こうした宿に泊まって参考にしてみるのもひとつの方法。目に見えるデザインだけでなく、光や素材、過ごし方まで含めた「今の暮らしに心地よい和の空間」のあり方を体現した事例でした。

撮影:佐藤陽一

HandiHouse project/ハンディハウスプロジェクト

HandiHouse project/ハンディハウスプロジェクト

合言葉は『妄想から打ち上げまで』。
家づくりが趣味になれば暮らしも豊かになる。
そんな思いのもと、設計・デザインから工事のすべてにおいて、施主も一緒に参加する空間づくりを提案している、建築家集団です。

髙橋 司(HandiHouse project)

建築内装の会社で施工監理として勤務後、「その場所を使う人たちと一緒に空間づくりをする」ということに魅力を感じ、施主参加型の空間づくりを提案する建築家集団・HandiHouse projectに参画。自分達で頭と手を動かして作ることに価値があると思っている。世界中に同じマインドをもった仲間を増やしていきたい。

テキスト:サトウ

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