この家に暮らすのは、夫婦とお子さん一人、猫二匹のご家族。妻はリノベーション会社の建築デザイナーで、この家の設計はご自身で手がけました。

素材感を感じる仕上げ材が随所に使われているこちらのお宅。LDKの床仕上げに使ったのは、「モールテックス」というモルタル系の左官材。モルタル系の床仕上げと聞くと冷たい印象になってしまいそうなイメージがありますが、ベージュ系のカラーをセレクトすることで明るい印象に。夫婦で集めているというヴィンテージ家具たちも際立っています。

一方、天井は濃いブラウンに仕上げられた木天井で、こちらは夫のリクエストを叶えたもの。フロア全体にくつろいだ雰囲気が生まれています。

クリーム色の壁も素材感にこだわっていて、左官風の仕上がりにするために、塗料に骨材を混ぜているのだそう。光と影がやわらかく映し出されて、濃色の天井と淡色の壁天井のコントラストも和らげています。

質感のある壁は、壁に飾ったアートの引き立て役にも。天井の照明は最低限にして天井を美しく見せ、ブラケットライトやフロアライトを多用しています。

リビングにはソファを置かず、新居猛の「ニーチェアエックス」をレイアウト。椅子を動かせば広々と空間を使うことができて、お子さんがのびのび遊ぶことができますね。

キッチンを壁付けにしているのも、LDKを広々使うための選択。家具の配置を変えたり、新しいヴィンテージ家具をお迎えしてみたり。そんな時にも、自由にレイアウトを考えやすいですね。「家具を楽しむ」ということを暮らしの中で大事にしていることが伝わってきます。

キッチンの面材には、『クラシックリブパネル』を使っていただきました。内装壁材として販売している『クラシックリブパネル』ですが、こんな使い方のアイデアがあったなんて!サイドボードのようにも、腰壁のようにも見える佇まいで、ヴィンテージの家具たちと並んで存在感を放っています。

『クラシックリブパネル』は一枚ずつ板を連結して貼っていく造りなのですが、美しく縦ラインが揃っています。施工の際は、職人さんが引き出しごとにパネルを貼っていったそう。『ワトコオイル』のミディアムウォルナットを塗装した色味に、真鍮製の把手がよく似合っています。

キッチンには、『フラットレンジフード』と『ハンドホース水栓』もお使いいただきました。光沢がマットなサテン仕上げの水栓は、色むらが焼き物らしさを感じさせるタイルと、骨材入りの塗装壁の質感にもよく馴染んでいます。『フラットレンジフード』はダクトを木天井に隠蔽してすっきりおさめています。

キッチン上部に最低限の棚しか取り付けていないところも、キッチンをキッチン然と見せないポイント。キッチン家電はアール壁の裏に収納されており、生活感が出過ぎないようにしています。こだわりの家具が並ぶリビングダイニングとキッチンに一体感をつくるための工夫です。

素材感へのこだわりは、廊下と玄関にも。こちらの空間も壁は骨材入りの塗装仕上げ、天井は木天井、廊下の床はモールテックスで、玄関の土間は「人造石研ぎ出し仕上げ」と呼ばれる左官仕上げが施されています。

セメント材に大理石などの石を細かくしたものを混ぜて、グラインダーで表面を研いでいく人造石研ぎ出し仕上げ。古いビルの床や学校の流し台などで目にしたことがある方もいるのではないでしょうか。どこか懐かしさを覚えます。

洗面室には、クラフト感のあるタイルと人工大理石のカウンターを使用。あたたかみのある色でまとめられた空間は、長居したくなるようなくつろいだ雰囲気があります。洗面水栓には『洗面水栓 SK-8:ベント混合栓 B サテン』をお使いいただきました。

天板の下の収納は、元々持っていた家具を組み合わせたのだそう。お気に入りの家具を活かすアイデアですね。

タイル好きのお施主様。トイレには『水彩タイル』が使われていました。50角とボーダーの組み合わせがかわいいですね。『水彩タイル』は50角、25角、ボーダーの展開があり、目地を揃えて組み合わせられるようになっているので、こんなふうにオリジナルのパターンをつくってみると楽しそうです。

クローゼットにも抜かりはありません。窓がある場所に計画した明るいクローゼットは、パーケットフローリング貼り。「収納だから」と割り切ってシンプルな内装仕上げにする考え方もあると思いますが、ちょっと素材にこだわることで、服を片付けたり着替えをする時間が心地よくなりそうです。

ベッドが2つ置けるミニマムなサイズにした主寝室も、パーケットフローリング貼り。シンプルな空間ですが、骨材入りの塗装壁がやわらかく光を受け止めて、ゆっくりくつろげる空間にしています。

寝室につくった収納の天板には、床と同じパーケットフローリングが使われていました。どこか床の間のような雰囲気があります。こんなふうに、お気に入りのアートや雑貨や家具を置いて楽しむための「余白」がデザインされていることも、このお家の特徴です。

焼き物ならではの表情が楽しいタイル、木の質感をたっぷり感じる天井やキッチン、手仕事ならではの味わいを感じる塗装壁や左官の床。さまざまな素材を各所に使いながらも、色のトーンや広い面の素材選びで、すっきり落ち着いた空間にまとめ上げているところが、さすが建築デザイナーの自邸。表情豊かな素材たちと美しい家具やアートに囲まれた暮らし。どこを見てもじっと見入ってしまうような、眺めのいい住まいです。

エイトデザイン

エイトデザイン

住宅のリノベーションと新築住宅の設計・施工から、店舗・オフィス・まちづくりも手がける一級建築士事務所。インテリアショップやカフェの運営もしています。

テキスト:サトウ

関連する事例記事

豪雨でも猛暑でも、住宅密集地でも諦めない!「外に開く」に挑んだ建築家の自邸
豪雨でも猛暑でも、住宅密集地でも諦めない!「外に開く」に挑んだ建築家の自邸
アウトドア好きな建築家が自邸を建てたのは、住宅密集地の路地の奥。掲げた家づくりのテーマは「外を諦めない」。周囲を家々に囲まれていても、ゲリラ豪雨や猛暑の日でも、「外」を身近に感じて暮らしたい! そんな思いから生まれた、内と外が緩やかにつながる住まいです。
118㎡に、旅の記憶と愛着を詰め込んで。宝箱のような海辺のヴィンテージマンション
118㎡に、旅の記憶と愛着を詰め込んで。宝箱のような海辺のヴィンテージマンション
L型バルコニーから海辺の街を見渡す、広さ118㎡の角部屋。世界各地から持ち帰った思い出の品々を、自分好みの色や柄で彩った“箱”に詰め込んでつくった、とことん私的なリノベーション空間をご紹介します。
ホテルライクに暮らす。モノトーンに木の彩りを添えた、素材のコントラストが映える住まい
ホテルライクに暮らす。モノトーンに木の彩りを添えた、素材のコントラストが映える住まい
「ホテルライク」と「家事ラク」は両立できる? 街中にある61㎡のコンパクトマンションを、ホワイト×グレー×ブラックを基調にリノベーション。回遊性のある家事動線で、ホテルのような居心地を無理なく保てる住まいを実現した事例です。
光を誘い、奥へと導く「タイルの曲がり壁」。移ろう光を愛でる住まい
光を誘い、奥へと導く「タイルの曲がり壁」。移ろう光を愛でる住まい
64㎡の縦長マンション住戸を貫くのは、約10mのタイル壁。ゆるやかに弧を描くタイルの壁が、時間や天気によって表情を変えながら空間を彩る、マンションリノベーション事例をご紹介します。