マンションによくある、バルコニー側の一面からしか光が入らない、奥に細長い住戸形状。そんな空間に、いかにして光を巡らせるか。
今回ご紹介するのは、「間取り」と「素材使い」の工夫で、その課題に向き合った住まいです。
物件の広さは約64㎡で、リノベーション前の間取りは2LDK。玄関側にも窓があるものの、面しているのは共用通路で、採光が得られるのは南側の窓に限られていました。
そんな住戸の北側まで光を取り込むために、リノベーション設計を手掛けた設計事務所・hyappoが導き出したのは、約10mにわたる曲がり壁で、住戸を縦に貫くプラン。
DEN、浴室、サニタリー、WIC、寝室といったプライベートゾーンと、パブリックなLDKを切り分けながら、緩やかな弧を描く曲がり壁で空間に奥行きを演出。北側のキッチンまで光が届くように計画しました。
さらに特徴的なのは、その曲がり壁を全面タイルで仕上げていること。窯変によって生まれたタイルの艶が、南側からの光を受けて煌めき、住戸の奥まで光の気配を届けます。
床はマットな質感の石目柄フロアタイル、天井はコンクリート躯体現しにして、タイル壁の光沢を際立たせました。
タイルのセレクトにも、光を感じる“仕掛け”があります。使っているのは、表面が凹型になったボーダータイル。一枚一枚の曲面に光があたり、陰影を生み出します。
通し目地貼りにすることで、縦方向の強調と、水平に伸びていく曲がり壁の広がりも強調しました。
光のあたり方によって、エンジにもシルバーにも見える色味と質感を持つタイルは、時間や天気によって印象を変え、光の移ろいの中に、静かに時間の流れを映し出します。
「光の変化で時間を感じる」って、素敵ですよね。
曇り空のやわらかな光、晴れ間のまぶしい光、夕暮れのオレンジ色の光、夜に灯す照明のあたたかな光。タイル壁に映し出される光の表情が、日常の何気ないシーンに情緒を添えてくれます。
このマンションの共用部には曲面が取り入れられ、外壁にはレンガ色のタイルが使われています。曲がり壁やタイル、エンジ色は、そうした建物全体との連続性を意識したもの。
「住戸の中」だけを我が家と捉えるのではなく、マンション全体の中に住んでいるという感覚へ。視覚的なつながりによって、「住まい」の感覚を拡張しているのも、この家の特徴です。
タイル壁を切り抜いたような開口もユニーク。寝室やバルコニーまで視線が抜け、空間に開放感をもたらしています。
開口部にあえてガラスを入れなかったのも、バルコニーからの光と風を取り込むための工夫。
寝室の開口部や出入り口は、ロールスクリーンで仕切る仕様。
寝室と繋がったウォークスルークローゼットの先には洗面脱衣室と浴室があり、キッチン側へ出入りができる、回遊性のある間取りになっています。LDKと同じくフロアタイルで仕上げた床も、空間の繋がりを感じさせる要素になっています。
ウォークスルークローゼット越しに自然光が届く洗面脱衣所は、白で明るくまとめました。ミラーの上に添えた照明は『モデストレセップ』です。
お隣のトイレは、LDKのタイル壁と連動させて、壁も天井もエンジ色のクロス仕上げ。こちらはこもり感が心地よい空間になっています。
キッチンには木を取り入れ、タイル壁とコンクリート躯体現し天井の空間に、あたたかみを加えました。
造作したカウンターの長さは2.7mあり、曲がり壁と呼応して、視線を奥の光の方へと導きます。
キッチン本体に使ったのは、『木製システムキッチン』のラワン。水栓は『ベントネック混合栓 クローム』、『フラットレンジフード』はヘアライン仕上げのステンレスを合わせました。
メタリックな輝きがあるタイルの壁に、水栓やレンジフードの光沢が合っています。
手前のカウンターはラワンとステンレス天板で造作し、キッチン本体に合わせた色でオイルステイン塗装しています。
キッチン壁に取り付けた棚は、棚受けの見えないインロー棚に。通し目地貼りしたタイルの整然とした印象を際立たせました。
キッチン両脇の壁仕上げはマットな表情の不燃化粧板に、素焼き仕上げの『モデストレセップ』ホワイトを合わせて、光沢のある素材とコントラストを効かせています。
灯具は、『モデストレセップ Mサイズ E26 ホワイト』に、直径約95mmの電球を組み合わせています。
照明を灯すと、光沢のある素材は煌めきを帯び、マットな素材は光を静かに受け止めて、穏やかな陰影をつくり出します。
光の受け止め方の違いが、空間にメリハリを生み出しています。
玄関ホールにも、『モデストレセップ』が点在。壁や収納扉は、エンジ色より一段落ち着いたカラーで塗装しています。
あえて仄暗い印象にまとめて、この先に広がる空間の開放感を、より引き立てる空間にしました。
間取りと素材の工夫によって、「空間の広がり」と「光」の演出を取り入れた住まい。
照明を増やせば明るさは確保できるけれど、この空間づくりで大切にされたのは、「光をどう感じるか」ということ。空間の広がりについても、ただの奥行き演出に止まらない、マンションの中の一住戸だからこその仕掛けが施されています。
「住まい」の広がりと、移ろう光を感じながら過ごす。コンパクトな都市型マンションに、ゆとりをもたらすアイデアが詰まった住まいです。
(撮影:中村 晃)
hyappo
株式会社hyappoは、木村寧生とイケガミアキラによる、新宿・百人町を拠点とする一級建築士事務所。建築設計・デザインと宿泊施設の企画運営を手がけ、「建築と、次の百年も歩む」をミッションに、時間とともに価値を育み、まちに永く貢献する建築を目指しています。自ら宿泊施設を運営する事業者の視点を生かし、事業主と並走しながら事業計画・収支計画にも踏み込み、空間を事業の武器へと変えていきます。
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