天気のいい日には窓を目いっぱい開けて、日差しと外の空気を感じながら、のんびり過ごす……そんな休日に憧れるものの、現実は厳しい。
過ごしやすい季節になったと思えば、突如現れるゲリラ豪雨。直射日光と照り返しが厳しすぎる夏。そして、窓を開けても見えるのは隣家の壁。それが、都市部の住宅の実情ではないでしょうか。
そんな現実に向き合いながらも、「外を感じる暮らし」を諦めない家づくりに取り組んだのが、建築家集団・HandiHouse projectのメンバーであり、スタジオピース一級建築士事務所を主宰する建築家の加藤渓一さん。
加藤さんが家族と暮らすマイホームを建てたのは、ターミナル駅近くの住宅地。昔からの町割りが残る地域で、敷地は家々がひしめき合う路地の奥にありました。
屋根まで四角く建ち上がっているためボリュームが大きく感じますが、木造2階建てで建坪は約27坪と、都市型住宅としては平均的なサイズ。茶色い左官材で仕上げた外壁が、庭木がはみ出た路地の風景に馴染んでいます。
1階には加藤さんの設計事務所があり、ここは、外壁をくり抜いたような開口と掃き出し窓で、外と地続きにつながる「開いた」スペースにしました。
一方、2階部分の大きな窓は、「ご近所さんから家の中が見えちゃうんじゃない?」と思ってしまいますが……
2階の大窓の先に広がっていたのは、吹き抜けのインナーテラス!
窓の高さは、空と隣家の屋根だけが見える高さにしているので、周囲の家々からの視線を気にせずに「外」を楽しめます。
このインナーテラスでは、BBQをしたり、キッチンから料理を運んで食事をしたり、読書をしたり、お昼寝したり。
屋根と壁があるので、雨の日も出入りができ、暑い日でも日陰の下でアウトドアタイムを過ごすことができる、なんともうらやましい空間です。
インナーテラスからは、空だけでなく通りや隣家の緑を眺めることもできます。
2階にあるので通りを歩く人からは目に触れにくいものの、顔見知りのご近所さんや宅配便の人が通りがかった時は、声をかければ会話ができる距離感。閉じすぎず、開きすぎない、そんな曖昧な境界が心地いい場所です。
一方、家の内側は「大開放」。インナーテラスはLDKとフラットにつながっており、床はどちらもブラックでオイル塗装した杉フローリング貼りにしました。造作した大きなガラス引き戸を開け放てば、インナーテラスとLDKが一体化。反対側の窓外まで視線が抜けていきます。
木製ガラス引き戸には、断熱性の高いペアガラスを採用。外壁にも断熱材をたっぷり充填しており、大空間で気になる温熱環境にも配慮しています。
2階の天井は、インナーテラス側へ向かうほど高くなっています。
水平方向への広がりに加え、斜め上へと伸びていく天井、多方向に設けた窓へと抜けていく視線。それぞれの要素が重なり合い、建坪27坪の中に、実際の面積以上の広がりを感じさせています。
天井は、一番高いところで約4m。高さのある大空間ですが、天井面には極力、照明を付けず、ブラケットライトや最低限のペンダントライトで光を計画しています。
天井をすっきり見せることで、自然光によって生まれる陰影がより際立ち、時間や天気による光の変化も空間に映し出されます。そうした移ろいもまた、この家にとって“外を感じる”要素のひとつ。
インナーテラスの反対側、フロアタイル床のスペースは、“広縁”と呼んでいます。広縁とは、奥行きを広めにとった縁側のこと。リビングダイニングとは床と天井の仕上げを変えることで、ひとつながりの空間を緩やかにゾーニングしました。
こちらは北向きのため、時間帯による光の変化が少なく、夏場も暑くなりすぎません。暑い時期でも、外の気配を感じながら心地よく過ごせます。
そんな広縁の一角に、『棒棚受け』を発見。杉板を棚板にして、ブックシェルフにしています。よくある三角形状の棚受けと違い棒状なので、ぱっと見は、棚板だけが浮いているような存在感。
ここから「今日の一冊」を取り出して、広縁の椅子に腰掛けてゆっくり読書。そんなシーンが思い浮かびます。
多方向から光が差し込む明るい空間ですが、床やキッチンを濃色でまとめることで、開放感がありながらも、落ち着いて過ごせる“こもり感”を同居させています。
ダークネイビーにも見えるキッチンは、加藤さんお気に入りの素材である、カラーMDFのブラックで造作。MDF部分は、撥水性・防汚性のある塗料でクリア塗装しています。小口を薄く仕上げたステンレス天板もこだわりどころ。
キッチン収納の手掛けには、ステンレス板を曲げただけのシンプルな把手、『アングル把手』をセレクト。バイブレーション仕上げの鈍い光沢が、ブラックのカラーMDFの表情に似合っています。
レイアウトはシンク側をペニンシュラに、コンロ側を壁付にしたⅡ型にして、レンジフードを壁側に設置。リビングダイニングの見晴らしを損なわないようにしました。
こうした天井高さのあるキッチン空間の場合、「手元灯をどうするか」が悩みどころだったりしますが、加藤邸のキッチンの手元灯は、「溝形鋼」と呼ばれる鉄骨材にLEDライン照明を取り付けたオリジナル。
特殊な素材というわけではありませんが、ペンダント照明に使うのはユニークなアイデア。マグネットがつくのも、何気に便利そうです。
溝形鋼のオリジナル照明により、オープンキッチンの頭上はすっきり。空中に横一文字に伸びるラインが、パノラマに広がる空間の伸びやかさを際立たせています。
一方、曲がり壁に添えたボール状のブラケットライトは、壁のゆるやかなラウンドを強調。直線が多い空間に、やわらかな雰囲気を添えました。
白い世界の2階とは打って変わって、1階はラワンをメインマテリアルに据えた、あたたかみがある空間。床はサイザルカーペットで、帰宅したリラックス感を足元からも感じられるのがいいですね。
玄関ドアは、既製品の断熱ドアに『アイアン塗料』を塗って、経年したアイアンのような表情にカスタマイズ。『アイアン塗料』ブラックと『アイアン塗料』カラーのコッパー色を1:1で混ぜたカラーにしています。
玄関ホールに入ると、目に飛び込んでくるのがこの階段。一段目を木のブロックにして、二段目からキャンチ構造のフロート階段に切り替えました。隙間から奥を覗かせて、奥行きと光を感じられるようにしています。
鮮やかな赤い手摺もアクセントとなり、まるでアートピースのような佇まいです。
奥へ進むと、現れるのは“ラワンの洞窟”。ラワンの扉や壁の奥には、収納、脱衣室、トイレ、寝室など、プライベートな空間がおさめられています。
外に開いた明るい2階とは対照的に、木に包まれる落ち着きを感じられる場所になっています。
そしてここにも『アングル把手』がありました。本来は横向きにして使うものなのですが、縦使いして扉の把手にしています。
ドアノブやハンドルよりも控えめで、“ここ扉です”をそっと教えてくれる、空間の静けさを邪魔しない、気の利いたアイデアです。
脱衣所は洗面と独立させて、その分のスペースを使って収納をたっぷり造作。ガス乾燥機も導入しており、造作収納のカウンターで洗い物を仕分けたり、乾いたものを畳んだりの作業がしやすいようにしています。
空中を走る赤いハンガーバーは、実用と内装アクセントの両方を果たしています。
アクリル入りの木枠ドアで仕切った浴室は、ハーフユニットバスを採用して、壁天井は白い100角タイル貼りに。天井までタイルで仕上げられた空間は、湯船に浮かびながら視覚的な浮遊感も味わえそうです。
洗面は、1階廊下に設けました。淡いイエローの100角タイルが、“ラワンの洞窟”の中に明るさをもたらしています。
イエローのタイル壁を照らすブラケットライトは『ミルクガラス照明』の楕円。ゆるやかな丸みとミラーの角丸がリンクして、タイルの硬質な印象を中和しています。人工大理石の洗面カウンターのマットな白さも、空間にやわらかな雰囲気をつくり出すポイント。
水栓は、『SUSキッチン水栓』ネモを採用しました。操作レバーが吐水口の近くにあるので、水に濡れた手でレバー操作する時の水垂れが気にならないのがいいところ。
1階個室の内装は、白い壁天井と明るい色味のならフローリングで爽やかにまとめました。
ヘッドボード部分に貼った素材感のあるタイルと、じんわりとした明かりを放つブラケットライトが、ホテルライクな居心地をつくっています。
こちらは、1階にある加藤さんの設計事務所スペース。壁一面に広がる棚は、デザインも製作も加藤さんによるものです。
角材を組んだシンプルな構造ながら、一部は棚受けを長くしてカウンターにするなど、使い方に合わせて拡張できるつくりになっています。
事務所の一角には、カウンターも設置しました。“浮かんでいる”ように見えますが、実は天板の下には、1本あたり75kgもの耐荷重を持つ棚受け『キャンチブラケット』が潜んでいます。
棚受け自体の背丈が低いため、奥行きのある天板に隠れてほとんど見えません。この棚受けのパワーを活かして、ここには複合機を置く予定だそう。
事務所スペースの掃き出し窓からは、玄関前のポーチに出入りできます。ここでは、加藤さんがDIYをしたり、お子さんが遊んだり、草木の手入れをしたり。そんな使用シーンを考えて、オールステンレスの流し『スクールシンク』を設置しています。
水栓は、『ワーカーズ水栓』を取り付けました。(※加藤邸で使用の「台付けツインレバー混合栓」は旧仕様)。手が汚れていても使いやすいレバーハンドルの水栓は、外での時間を積極的に楽しむこの家らしいセレクトです。
住宅地を歩いていて、窓を閉め切り、カーテンや雨戸を閉じた家々を見ていると、「もっと外を感じながら暮らせたらいいのに」と思うことがあります。暑さや防犯など、さまざまな事情があるとは思うものの、家にいながら、光や風、空、緑をもっと身近に感じられたら、それはとても豊かなことではないでしょうか。
「開く」と「閉じる」を巧みに組み合わせながら、暮らしの中に“外”を目いっぱい取り込んだ加藤邸。都市住宅のポジティブな可能性を感じさせてくれる、実験的で魅力的な住まいでした。
スタジオピース一級建築士事務所
「施主巻き込み型」のプロジェクトスタイルで、住宅や店舗の新築・リノベーションを手がける、加藤渓一が代表を務める一級建築士事務所。設計だけでなく、プロジェクトによっては施工まで一貫して請け負っています。
建築家集団・HandiHouse projectのメンバー。
HandiHouse project/ハンディハウスプロジェクト
合言葉は『妄想から打ち上げまで』。
家づくりが趣味になれば暮らしも豊かになる。
そんな思いのもと、設計・デザインから工事のすべてにおいて、施主も一緒に参加する空間づくりを提案している、建築家集団です。
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