撮影:小宇宙感光 鄭伽倻

五城目町(ごじょうめまち)は、秋田県中央部、八郎湖の東に位置する自然豊かな町。

町の象徴となっている「五城目朝市」には、昔ながらの人情味あるやりとりがいまも息づき、地元で採れた野菜や山菜、魚、漬物などがずらり。最近では、地域おこし協力隊の活動をきっかけに移住者も増え、周辺には新しいカフェやショップも誕生。朝市を起点に、歩いて巡れる楽しみがゆるやかに広がっています。

朝市の通りと小路の位置関係をモチーフにしたサインがお出迎え。(撮影:小宇宙感光 鄭伽倻)

そんな朝市通りのすぐ脇の小路に建つ「市とコージ」。

五城目町に拠点を置く6つの企業が関わり、築40年の民家を改修。目指したのは、ただ“泊まる場所”をつくるのではなく、“いつもの五城目町へゲストを誘う”場をつくること。

近隣には朝市をはじめ、酒蔵やカフェ、工房、ギャラリーなど、さまざまな町の楽しみが点在。朝市で食材を調達し、町歩きがてら16代続く老舗酒蔵のお酒を味わったり。宿に戻って、地元の食材でみんなでわいわい食卓を囲んだり。まるでまちの一員になったかのように、この町の日常を体感できます。

宿のコンセプトは「旅人が町に溶け込んでいくトンネル」。
敷地の裏側の塀を一部解体し、表と裏、ふたつの玄関を用意。町への抜け道のようなイメージの建物を計画しました。

玄関ドアの脇には『ミルクガラス照明』。(撮影:小宇宙感光 鄭伽倻)

こちらの大通りに面した新しい玄関は、外から訪れる人を迎える“旅の入口”。長いアプローチを進むうちに、じわじわと期待感が高まっていきます。

撮影:小宇宙感光 鄭伽倻

一方、朝市通りへと抜ける小路側の玄関は、もとの民家の面影そのまま。町の暮らしに紛れ込んでいくのに、ちょうどいい入り口です。

改装後の間取り

内部は、共有スペースとなる大きなラウンジとキッチン、そして客室が2部屋。

大勢で泊まってもいいし、少人数でゆっくり過ごしてもいい。共有キッチンで自炊したり、ラウンジで打ち合わせや作業をしたり。デイユースも可能。人数や用途に合わせて、さまざまに過ごせるつくりになっています。

撮影:小宇宙感光 鄭伽倻

町へ繰り出す日常体験の“準備の場所”として、こだわったのは、ほんの少しの非日常感。

既存の壁の枠組みを覆うように張られたオーガンジーの布が、空間にうっすら膜をかけ、もやがかったような幻想的な空気をつくり出しています。

撮影:小宇宙感光 鄭伽倻

光や人の気配がふわりとにじみながら、ひとつながりの中に、それぞれの居場所がやわらかく浮かび上がります。

窓際の長いベンチや一人掛けの椅子は町の木工職人さんのオリジナル。民家に残っていた家具も再利用。(撮影:小宇宙感光 鄭伽倻)

そんな空間をさらに印象づけているのが、館内のあちこちに展示された現代アーティストの作品たち。

撮影:小宇宙感光 鄭伽倻

撮影:小宇宙感光 鄭伽倻

「これ、なんだろう」と立ち止まり、ふと目を向ける。そんな小さな引っかかりが、日常の緊張をほどき、感覚をひらいてくれる。

このラウンジは、くつろぐ場所であると同時に「さて、町へ出掛けてみようかな」と気持ちを外へ向かわせる、切り替えの場にもなっています。

撮影:小宇宙感光 鄭伽倻

こちらは「エンガワ」と名付けられた客室。その名の通り、L字にゆったり設けられた縁側とお庭が印象的なお部屋です。

撮影:小宇宙感光 鄭伽倻

内部の構造は大きく変えず、床の間の要素や町の工芸品である「組子細工」の建具など、既存の建物の良さをなるべく活かすかたちでシンプルに改装。欄間や間仕切りに施された当時の面影が残る丁寧な装飾にも注目です。

撮影:小宇宙感光 鄭伽倻

もう一つの客室「フキヌケ」。二階の一部を解体して部屋の半分を大胆に吹き抜けに。見上げる窓からは空が見えて、屋内にいながら開放的で不思議な気分に浸れます。

撮影:小宇宙感光 鄭伽倻

客室の入り口の扉には、『木のつまみ』と『木のドアパーツ』を採用していただきました。見た目の柔らかさも、手に触れたときの感触も、この場所の空気によく馴染んでいます。

撮影:小宇宙感光 鄭伽倻

ここを拠点に、朝市にふらっと出掛けてみたり、気になるお店を覗いてみたり。行き先を決めず、「ちょっと出掛けてこようかな」くらいの感覚で町に出る。

滞在のはじまりが、そのまま町へと広がっていく。
「市とコージ」は、そんな“まちの入り口”として、今日も開かれています。

市とコージ

所在地:秋田県南秋田郡五城目町上町41
HP:https://www.chillnn.com/18f03ff8be7297

コマド意匠設計室

秋田を拠点に活動している設計事務所。
住宅や店舗などの空間設計のほか、展示計画、インテリアデザイン、家具、グラフィックデザインなど、幅広い意匠業務を行っています。

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