美術館やギャラリーなど、要素の少ない白い箱の中にいると、気持ちがスッと軽くなる感覚ありませんか?物量マックスな家に住んでいる私としては、密かに空間デトックス効果なんて呼んだりしています。

頭の中がクリアになって、日々刻々と変わる外の環境や、家の中のわずかな移ろいにまで目を向けられるような感覚で過ごせそう。ひと目見て、そんなことを感じた住まいをご紹介します。

まずこちら、LDKが一体になった空間。

「植物との暮らしを楽しみたい」との思いから、リビングは床を一段下げてリノリウム床シートを採用。

「一人暮らしなのでいろんな居場所があったらいいと思っていました。段差を含め、造作ベンチも気持ちの切り替えに役立っています」とお施主様。

造作ベンチは、本棚にもなり、リビング側ではテレビボードとして機能します。足元を浮かせて設置されているので、ものがぎっしり詰まった時にも圧迫感を無くしてくれそうです。

ダイニングテーブルと土間のリビング、その中間の段差にちょっと腰掛けて。各場所で座った時の目線の高さが変わり、お部屋の眺めが変化していくのがいいですね。

リビングから一段分の段差をつけたキッチンに立つと、高い位置からお部屋を見渡す形に。家具を配置しているお部屋の重心が低くなるので、自然と窓の外へと視線を向けたくなるような気がします。

このスッと視線が誘われる気持ち良い窓辺の眺めは、窓際につきもののエアコンがないことも大きく影響していそう。

ダイニング側からみるとこんな景色に。使われているフローリングは『スティルオークフローリング』。無塗装のようなオーク材本来の表情を活かした仕上げが、リノリウムやステンレスといったグレイッシュな色味とよく調和しています。

斜めにカーブを描く特徴的な床の切り替えは「四角い部屋に対し、少し軸をずらした斜めの要素が欲しい」とのリクエストから生まれたもの。

ステンレスのキッチンやレンジフード、直角・直線が多い空間の中に、少しのずれが心地よい違和感を与えていますね。ダイニングテーブルや照明など、円形の家具が調和しているのにも、このカーブが一役買っていそう。

床の切り替えと呼応するように、ゆるいカーブを描くのが窓上に浮かんだ一枚板の棚です。

支えるブラケットが無く、薄く軽やかな印象のこちらの棚には、間接照明が仕込まれています。夕方、外が暗くなってきたらほのかに灯りをつけて、暮れていく空の色の移り変わりを楽しむ。

そんな、外部環境の変化を楽しむ窓辺のひと工夫がとても参考になりますね。

間接照明を灯したところ。夜景もまた美しく見えるんだろうな〜と想像してしまいます。

家具の配置や暮らしの変化も見越して、ライティングレールもついていますが、窓辺に間接照明を仕込んだことで、天井の照明計画は最小限に。ダイニングテーブルに一灯だけ吊るしたペンダントライトが際立って見えます。

リビングと廊下、その奥に繋がる寝室の間は『木製ガラス引き戸』で仕切られていました。

サイズオーダーができる「木製ガラス引き戸」。高さを梁下いっぱいまで伸ばして、閉じた時にも光と景色の奥行きを存分に取り込めるようになっていました。一段下がった廊下の先も、同じフローリング材が続いていくのも繋がりが感じられますね。

枠は『ワトコオイル』のドリフトウッドで塗装。先ほど紹介した窓上の棚など、家の中の木部の塗装を同じ色味に揃えて統一感を持たせています。

寝室側は建具や壁をつくらず、廊下からダイレクトに出入りするつくりになっています。躯体のコンクリートに「木製ガラス引き戸」の木枠でリビングが絵のように縁取られたような眺めが印象的です。

ところで、廊下にあるガラスの花瓶。なんだか発光している!?気になって近づいてみると……

廊下の突き当たりが鏡貼りになっていました!鏡と引き戸のガラス、花瓶の水に照明の光が反射して、本当の自然光が差し込んでいるようにも見えてきます。本来、何もない通り道である廊下も、こんな色付けがあると通るたびに発見がありそうです。

最後に玄関側からの眺めを。

突き当たりには先ほどのミラーがあり、奥へと空間が続いていくような、不思議な感覚が味わえます。手前に置く枝物を季節ごとに変えれば、帰宅した時の光景もまた違ったものになりそうですね。

大きく斜めに切り替えた床は、玄関土間を広く使えるだけでなく、目線をスッと奥に誘導してくれるような視覚的な効果もありそうです。

使われている素材が統一され、持ち物も無駄なく簡潔に収められたお家。それでも緊張感や冷たさを感じさせないのは、わずかなずれを積極的に取り入れたり、自然に目を向けたくなるような工夫が凝らされているからなのかもしれません。

※こちらの事例はimageboxでも詳細をご確認いただけます。

ゼロリノベ

ゼロリノベ

株式会社groove agentが運営するリノベーションサービス。「大人を自由にする住まい」をコンセプトに、家を買うことで自由になる「家のさがし方」「家のつくり方」を提案。
東京・神奈川・千葉・埼玉・大阪を中心に、資産性のある中古マンションの「物件さがし」から「リノベーションの設計・施工」までワンストップで提供しています。

テキスト:岩崎

関連する事例記事

実家を引き継ぎ、“集まるリビング”を中心に再構築した、3世代6人の住まい
実家を引き継ぎ、“集まるリビング”を中心に再構築した、3世代6人の住まい
ご実家を引き継ぎ、両親を含めた3世代6人での暮らしに合わせてリノベーション。それぞれの生活リズムを大切にしつつ、みんなが集まれる場所をきちんとつくることを大事にしました。
ラフに見えて、気が利いてる。光と風を取り込む半屋外スペースがある、“倉庫っぽい”ワンルーム賃貸
ラフに見えて、気が利いてる。光と風を取り込む半屋外スペースがある、“倉庫っぽい”ワンルーム賃貸
1フロア1戸の賃貸物件で構成された、住宅地の中に建つ小さなビル。リノベーションによって生まれたのは、鉄骨やブレースが現しになったワンルーム。倉庫のような大らかな空間には、住む人の自由な使い方を受け止める工夫と、心地よく暮らすための気遣いが詰まっていました。
築28年戸建ての1階リノベ。玄関・洗面・LDK、家族の暮らしのベースになる場所を心地よく整える
築28年戸建ての1階リノベ。玄関・洗面・LDK、家族の暮らしのベースになる場所を心地よく整える
4人家族が暮らす2階建ての住まい。「これからもずっと住み続けられる、思い入れのある家にしたい」と考えるようになり、家族の暮らしに合わせて1階部分をリノベーションしました。
築古戸建てで“古き良き”を活かすように。「既存を活かす」中古マンションリノベ
築古戸建てで“古き良き”を活かすように。「既存を活かす」中古マンションリノベ
古民家や昭和の平屋など、古い戸建ての内装は“古き良きもの”として魅力的に捉えられることがありますが、「中古マンション」はどうでしょう? 築古マンションが増えていく中、“アップサイクル”をテーマに掲げ、もともとの内装を活かすマンションリノベに取り組んだ事例をご紹介します。