「自分の暮らしは自分でつくるものだ」
これ、宿のオーナーである粟野さんが、8年前に都心から長野県の蓼科エリアに移住して、自宅をつくる際、地元の大工さんから言われた言葉。元々アパレル出身。このUse’s reportでも紹介した宿泊施設「蓼科湖畔のTINY GARDEN」の責任者をやったのち、今度は諏訪湖のある長野県、諏訪エリアの駅近に新しい宿「 mitaya micro hotel」をオープンさせました。
設計は「ReBuilding Center JAPAN」(通称リビセン)、地元の大工さんたちにベースを作ってもらいながら、自分たちでのかなりの部分をDIYしてつくっていったのだそう。そもそもマイクロホテルって何?そして、なぜ、自ら手を動かしていったのか?その思いを聞いてきました。
東京・新宿駅からJR特急あずさで約2時間。「上諏訪駅」から徒歩8分の場所にあるのが、今回の舞台「mitaya micro hotel」。
長野県の諏訪といえば、toolboxユーザーの方は、「リビセン」のある場所として認識している方も多いのではないでしょうか?解体された民家からレスキューした古材や、懐かしい古道具などが、3階建ての建物に所狭しと並べられ、新しい出会い人との出会いを待つ場所。
そんなリビセンの活動のおかげか、諏訪エリアには、ここ数年、駅から半径200m圏内で、店舗の内装含め魅力的な個人経営のお店がポツポツ増えてきています。
ただ、かつて宿場町として栄えた諏訪エリアには、しっかりと夕飯、朝食がでてくるような大きいホテルや旅館しかなく、若い人が気軽に町を訪れ、ご飯を含め、その町にダイブするのに適した宿がありませんでした。
「ここ数年本当にこの町に魅力的なお店が増えてきて、早朝からやっている老舗のパン屋さん、カフェ、晩ご飯を食べる店など、物販以外にも、紹介したいお店は色々あるんです。
宿はいわゆる素泊まりの形式。電車でふらっとやってきて、一日まち歩きを楽しんで、気持ちよく寝れる場所を提供したい。活動拠点として、テイクアウトしたご飯を食べられたり、簡単な調理なら出来る共用部はある。ここに泊まると諏訪の今を教えてもらえる。そんな存在を目指して、今回マイクロホテルという小さな宿をはじめることにしました」
という粟野さん。衣食住に携わっていくと、最後はその要素が交差する宿泊業をやりたくなるとは昔からよく聞く話ですが、この宿を通してまちづくりにコミットしたいという思いも強いそう。
では、その出来た宿をみていきましょう。
駅方面から歩いていくと、交差点の角に建つ、白い建物「wazamart」の袖看板が目印です。
建物1階の店舗「わざマート諏訪店」は、ご当地もの、オリジナルグッズ、全国からセレクトされたオーガニックな発酵食品、おつまみ、アルコール、お菓子やお土産、日用品の雑貨等々がぎゅっと詰まったお店。9−19時営業なので、着いたら目ぼしい夜のおつまみなどを物色しておくのがおすすめ。
運動不足の身には応える階段を3階までなんとか登り切ると、宿の入口に!チェックイン時以外は、電子キーで出入りする方式です。
「mitaya micro hotel」のロゴがお出迎え。
気心の知れた友達の家に来たような、共用リビングとキッチン。
キッチンは、備品が充実しているので、まち歩きでゲットしたご飯をあたため直したりもできます。個人的には建物1階のwazamartで美味しいヨーグルトとジャムを買っておいて、冷やしておいて、朝食で食べるのがおすすめ。
車で10分強いけば、知る人ぞ知る、自然派ワインとウィスキーの名店「カーブ・ド・ユニゾン」も。まちには、日本酒の「真澄」などの酒蔵も点在。酒飲みには、夜飲み用に買っておいたワインやお酒を冷やしておけるワインセラーがあるのもかなり嬉しいポイント!
共用の水回り。『アイアンスタンドシンク』は壁付水栓と組み合わせると、水栓回りが水浸しにならないのがポイント。お風呂はシャワーブースのみなので、時間のある人はサウナもあるご近所の公共の温泉施設に足を伸ばすのがおすすめ。
共用部から、各個室にアクセスします。
共用リビング隣には、布団の部屋が2室。宿全体は、元々ビルオーナーさんの住居だった場所なので、当時の和室の設えは残したまま改装されています。
襖には『織物壁紙』が!これ、toolboxスタッフが、実家DIYを実践し「how to make」でその詳細をつづっているコラムを参考に、粟野さんがDIYしてくれたそう。
ジュートの素材感、色合いが、天井のラワン、和室の真壁の木の柱、壁の凹みの古材などともバランスよし。
「how to makeの記事は、ちょっとDIYする素人目線で、丁寧で参考になるからとってもよかったです。10回は見返してます(笑)織物壁紙も思ったより貼りやすくてよかった」と感想をいただき、記事を書いたスタッフ三上もお役に立てたと喜んでました。
さらに内部の階段をのぼった4階には、1〜2人用の部屋が3つあります。
友人同士で泊まる際の距離感がちょうどいいようにと、地元の「fabスペースhana_re」と一緒にオリジナルでつくった2段ベットは、小上りの縁にちょっと腰掛けられる感じがちょうどよし。
室内の壁面は、粟野さんが仲間とDIYしたという左官の壁に「モデストレセップ」や「工業系レセップ」の壁付照明が。光源が目に入らないようミラー電球を合わせて。ハンガー掛けには『アイアンフック』も採用してもらいました。
その他にも、建具や直付け照明などがちらほらと。ありがとうございます!
_
全部で5室あるので、9人いれば貸し切りも可!地元に帰ってきた同級生同士とかで泊まったら絶対楽しいやつですね。
実はこのオーナー粟野さん夫婦、2024年11月に東京・目白のtoolboxショールーム地下で開催されたガレージセールにご来場。当時1歳未満の末っ子ちゃんを抱っこ紐に抱え、この宿の開業に向け大量のお買い物をしてくれました。
その後、開業前から立ち上がったInstagramを拝見していても、オーナー自ら、時に協力してくれる仲間を集めて、ものすごいDIYしてるご様子が!
もちろん、工事費削減の目的も大きかったと思うんですが、なぜそこまで自ら手を動かしたのか、聞いてみました。
「長野に移住して8年前。自宅を作るときに、大工から『自分の暮らしは自分でつくるものだ』って言われて田舎暮らしがスタートしたんです。
DIYはもちろんですが、薪割りしたり、野菜とか菌床きのこをつくったり、コンポスト枠や子どもの勉強机をつくったり……なんだか自分で作るっていうのが当たり前な感じなんですよね。できるようになると見えることも深まり、とはいえ、まだまだ出来ないことばっかりなのですが。
自分でつくると、下地部分の状態がわかるから改善もできるし、手直しできる。そこはメリットだと感じています。今回のホテルづくりはいままでの仕事もしながらで、時間配分も含め、かなり大変だったので、背伸びしすぎたのは反省なのですが(笑)できるでしょう、やってみよう、学べるチャンスだっていうポジティブなスタンスで取り組んでいました!
DIYは知的好奇心を刺激し続ける、ライフワーク的な存在だなと感じてます。特に身近に教えてくれたり、応援してくれる仲間がたくさんいるリビセン周りの諏訪の特性もあると思います」
5月の連休前、仕上げラストスパートの際には、総勢40名もの助っ人が駆けつけてくれたそう。SNSでお手伝いを募集したところ、プロジェクトに共感してくれた仲間や自宅スペースのリノベを考えている初対面の方、ものづくりに携わり新たなインスピレーションを求めてきてくれたクリエイターの方など、きっかけはそれぞれ。
お手伝いして完成した空間に、また改めて、お客さんとして泊まりにいくのも楽しそうですね。
まちは、朝の7時台から行列ができる老舗の「太養パン」から、自家焙煎したスペシャリティコーヒーが人気の「AMBIRD」、都内から移住し食を通じて地域の魅力を発信する「あゆみ食堂」など、年々新しいお店が増えていってます。
これらのおすすめ店舗を紹介してく方法なども、粟野さんの方で模索中なのだとか。
宿は、2025年7月から正式オープン。6月いっぱいは、プレオープン期間として、割引キャンペーン中。車で足を伸ばせば、もう一泊して八ヶ岳・蓼科の自然豊かなエリア探索もおすすめ。一年を通し、色々な楽しみができる場所。
営業を重ねながらDIYで空間もさらに仕上げていく予定だそう。DIYを通して、仲間を得て、空間を見る目やものづくりへの解像度もあがる。きっとこれからも、空間はどんどん進化していくのでしょう。
気になった方は、ぜひあそびにいってみてください。
mitaya micro hotel
2025年5月にオープン。諏訪のまち歩きを楽しむ全5室のマイクロホテル。東京・新宿から特急あずさで約2時間。「上諏訪駅」下車。駅徒歩8分。
長野県諏訪市末広5-10 スワマチビル3・4階(MAP)
宿の最新情報や、DIYの様子はInstagramをチェック!
ReBuilding Center JAPAN リビルディングセンタージャパン(リビセン)
「リビセン」の相性で親しまれている長野県諏訪市にある建築建材のリサイクルショップ。
「次の世代に繋いでいきたいモノと文化を掬い上げ、再構築し、楽しくたくましく生きていけるこれからの景色をデザインする」日本中で解体されている古い建物から、古物や古材、建具などをレスキュー・販売します。
紹介している商品
関連する事例記事

