近所にあったらふらっと立ち寄りたい。住宅街の中でそんな存在感を放っているお店。東京都台東区にある「inclus wine & brewing」をご紹介します。
建物は4階建てで1階が店舗。2階は住宅の一部を開放した多目的スペース。3・4階はオーナーの住居になっています。
色んな要素が詰まったこの建物の中で、今回は1階の店舗について重点的にお届けしていきます。
1階の店舗は、まちに開かれた空間。手前に試飲や角打ちを行うホールとカウンター、奥にワインセラーとクラフトビールのブルワリーがあります。
この店舗はもともと車庫として使われていた1階部分を改修したもの。そのため間口の幅が広かったり、防火性能のあるシャッターがあるなど、車庫ならではの構造の特徴がありました。
その特徴を活かして、店舗の入り口は間口の広さをそのままに木製ラワンの4枚引戸の建具に。その奥のワインセラーやブルワリーとホールの境にも、同じデザインのラワン製の建具を平行に設置しています。車庫だったから叶った、開放感のあるつくりと木製建具の設置です。
外側と内側、2層に重なるように設置された木製の建具。外側の扉を開けるとホールが外と一体になり、内側の建具がエントランスのような役割を果たすようになります。道路とフラットにつながることで内と外の境界が曖昧になり、通りを歩く人を自然に引き込むような空間に。
行ったことのないお店は最初に入店する時にドキドキしたりするものですが、こんな風にオープンになっていると店主の姿や常連さんのいる様子をすぐそばで感じられて、最初の一歩が自然に踏み出せそうです。
扉の開け閉めにより内と外のつながり方を柔軟に変えられるのは、道路に面した店舗にとって大切な魅力だなと思います。
写真左側の店内奥まで続くカウンターは、建具と同じラワン製のもので制作。カウンター内にはお施主様家族が代々使用していたクラシカルな家具が置かれています。
それとは対象に、右側のワイン用の棚はスチールの角パイプでクールに。
ボトルと色味も近く、ワインと一体になったような棚のため、外からでも存在感はばっちり。ラベルも映えていて、ずらっと並ぶワインボトルの中から自分の好きなものを選ぶ楽しさを想像できます。
ワインセラーと反対側にあるブルワリーは、ホールに接する間口が狭くなっています。そのため、あえて照明を明るくして存在感を引き立てる工夫をしています。
左側の明るいブルワリーと少し暗めで落ち着いた雰囲気を感じる右側のワインセラーとで外からの印象を調整。中への興味がより湧いてきそうです。
1階だけでも街とつながる仕掛けが随所に詰まっていますが、2階にもまちに開かれた余白のあるスペースが用意されています。
2階のスペースは、住宅の一部を開放した多目的スペース。用途に合わせて自由に使えるよう、壁も天井も白くシンプルに。ライティングレールが2列取り付けられているので、照明の位置も自由に調整可能です。
この場所は普段は住宅の一部として利用していますが、落語会をしたりギャラリーとして開放したり……様々な使い方をしています。
お手洗いは、洗面も一緒になったゆとりのある空間。ここも店舗と同じくグレーを基調にした空間で、落ち着く雰囲気に。
グレー背景に合わせた木製カウンターは、ダウンライトの光の当たり方も相まって木の色味を認識しやすく、素材の良さが発揮されている気がします。
水栓にはシンプルな『ニッケルサテン水栓』の洗面用ストレート、混合栓ショートを採用いただきました。
ここまで空間の紹介をしてきましたが、この事例の一番の面白さは、かつて車庫だった場所がまちと人をつなぐ店舗へと生まれ変わった点にあると思います。
かつては車を収めるためのスペースだった場所が、まちとつながる空間へと姿を変える。車離れや職住近接が進む今、都市の空き車庫を活用する可能性は広がっており、この事例はそのひとつの答えとなっています。
今回ご紹介した1階店舗の「inclus wine & brewing」は、毎週木曜日夜9時から「角打ち会」を開催中。
店舗の位置する谷中・根津・千駄木エリアのパンやお菓子など、食事の持ち込みは自由で、購入したワインと一緒に堪能できます。
ぜひワインとクラフトビールと、この空間を堪能しに訪れてみてください。
須藤剛建築設計事務所
「建築を通して日常に新しい価値をつくる」
わたしたちは、建築の設計をベースに、社会や暮らしに新たな価値を生み出し、身近な生活を豊かに送れるよう、既製概念にとらわれないものづくりを行っています。
建築は竣工して完成なのではなく、人を招き入れたくなるような、また自然に人が集まってくるような、人と人とをつなぎ、人が集うことで完成すると考えています。
そのために対話を大切にし、価値観を共有し、理解を深めながら、そこにしかないものをつくっていきたいと考えています。