物件の場所は、神奈川県川崎市の武蔵新城という街。この街を敷地とした美大建築学科の設計課題が行われたことから物語は始まります。設計課題終了後、以前から地域の価値向上のため所有物件のリノベーションやコミュニティカフェを作ったり、地域イベントを立ち上げたりなど、様々なしかけをこの街で行っていた地元のマンションオーナーさんに協力してもらい街での公開講評会を開催したことでオーナーさんと学生がつながり、オーナーさんの呼びかけで学生設計による空き住戸の改修プロジェクトが立ち上がりました。

オーナーさんが所有しているマンションシリーズ「セシーズイシイ」で空いていた住戸を学生が見学、調査し、改修計画が作られました。このまちの魅力にひかれた学生たちが地元の設計者のサポートのもと計画を練り、武蔵新城という街の延長にあるような住空間を目指した計画となっています。

学生たちが実際に街を歩いていると、人々が路地のズレや段差、ブロック塀などをうまく使い、緩やかな仕切り方、使い方をしているのがわかってきたそう。外部空間で人々が無意識に取り込んでいる生活様式を同じように内部空間で捉え直し落とし込まれたという物件、早速紹介していきます。

まずは間仕切りをなくした間取りから。
壁を立てず、床に段差をつけることによって緩やかに空間の仕切りを作り、寝室、リビング、キッチン、仕事部屋といった住居に必要となるスペースを作っています。

閉ざしたい用途のためにグレーチングのような模様の薄手のカーテンを用意し、空間をしっかり仕切りつつも、ここでも気配は感じる緩やかなつながりや連続性を残しています。

路地のように折れ曲がった廊下には、視線の行き止まりを作り、自然とそこに溜まり場が生まれるように。
また、通路幅の違いを作ることで生まれた無秩序性が、用途の曖昧な空間を作り出しています。

コンクリートブロックやポリカーボネート波板、ネットフェンスと外部で使われるような素材をあえて内部に使うことで、生活の多様性を生み、外部と内部の境界をより曖昧にさせます。

凹凸のある素材が、光に変化を。

街の中のあちこちにある「ズレ・微地形・素材」。
人々はそれらを無意識に生活に取り込み、新しい使い方や発見を作り出しています。

同じような環境を住空間に作ることで、住み手にさまざまな空間の使い方を見つけ出してほしい。
そんな思いが込められた賃貸物件、実際に住んでみたいと思わせてくれる事例でした。

 

設計デザイン 長谷川ゆい+一色淳之介+西津尚紀/ MUSA-BUILD プロジェクト @musa_build_
設計サポート 原﨑寛明/CHA @cha_office
建主 セシーズイシイプロパティーズ
問合せ 南荘石井事務所 @sesesishii_shinjo
写真撮影 鳥村鋼一

CHA

原﨑寛明と星野千絵の共同主宰による、横浜、川崎を拠点とする建築設計とデザインの事務所です。
住宅や商業施設などの建築設計、イベントの会場構成、コンサルティングをはじめ、インテリア、グラフィック、プロダクトのデザインなど、様々なプロジェクトに取り組んでいます。

テキスト:小尾

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