天井をスケルトンにした、開放感のある空間。垂木や梁が平屋らしさを主張しています。

古家具でⅡ型キッチン

ほぼ全方位から光が差し込む明るい空間にキッチンが配置されています。

「古家ではキッチンが北側に配置されることが多いんですが、調理は大切な生活の基礎で特別な行為です。“キッチンは住宅の顔”と考えて、できるだけ広く明るい、快適な場所に配置するようにしています」と宮田さん。

シンクを壁側、コンロをダイニング側に配置したⅡ型キッチン。キッチンカウンターには、高さ違いの古家具を並べて、背が高い収納棚を少し手元も隠せる腰壁、低い方は作業台にもなるカップボードとしました。

障子が印象的な空間で、ステンレスの『フラットレンジフード』や壁・腰壁の白タイルが、モダンな印象をつくっています。障子の細い格子と、タイルの目地がリンク。イサム・ノグチがデザインした和紙のランプシェードや、杉フローリングも効いています。

ツヤのあるタイルと古家具の収納棚がコントラストに。コンロをダイニング側にした理由がわかる気がします。

キッチンこそ、つくり付けの収納はあるものの、他の空間にはほとんどありません。「造作家具を極限まで減らして古家具を採用したのは、コストを抑えるためだった」と言いますが、「その結果、全体の雰囲気がワンランク上がった」と宮田さん。

ぴったりと綺麗に収まる造作家具ももちろん良いけれど、古家具には長年人に使われてきた貫禄のようなものを感じます。形やサイズは自由にとはいきませんが、その古家具ならではの佇まいが、宮田さんが手がける空間の独特な雰囲気に深みを増したのかもしれません。

テレビ台も置き家具で。ツヤのある表情が白壁とよく合う。

古建具をスパイスに

リビングの壁は一部低くして、平屋リノベだからこそ感じられる高さを最大限に生かしました。梁や柱を見せて開放的に。光や風を家中に通します。

低い壁にも窓を設けて光をたっぷり通しているのも印象的。古建具もほとんどが施主支給品。様々な割り付けのガラス入り建具が散りばめられ、ガラスも柄入りや型板など実に多様です。

洗面の建具もとってもユニーク!狭い空間の中で、竹格子が良いアクセントになっています。

洗面台は天板部分だけをタイル貼りにして、浮いているように見える仕掛けに。『ミルクガラス照明』と『ハンガーバー』がそっと佇んでいます。

寝室に続く廊下は少し広く、ワークスペースになっています。懐かしさも感じる古いデスクは重厚感があり、寝室のドアによく合います。

壁の向こうからリビングの気配を感じたり、家族が後ろを横切ったりと、仕事をしながら自然と家族の存在を感じられそう。

そして寝室はラワン貼りで、グッとシックな印象。天井がはられて空間が完全に仕切られているのも、この平屋の中で特別な感じがします。

ラワン貼りの壁・天井に、障子、杉板フローリング、そして洋風の框ドア。

空間全体に通ずる、この洋と和の絶妙な混ざり具合が、どんな家具やテイストも受け止める宮田さんらしいアプローチ。

宮田さんの建築と、家主さんがセレクトした建具や家具が融合した空間。小さいながらも平屋らしい空間の広がりや、物件や家具、建具が経てきた時間がじんわりと滲み出るような深みを感じる仕上がりでした。

宮田一彦アトリエ

古家の改修が大好物な鎌倉の設計事務所です。
現状残された要素を自分なりに解釈して住みやすい空間に再構築。 傷や汚れも「味」に思える空間が理想です。 懐古趣味ではないれけど、ベースである古家へ敬意を払う。そんな想いで設計しています。

テキスト:庄司

関連する事例記事

アアルトの自邸、ポルトガルの色彩、イギリスでの暮らし。旅先で見つけた“私に心地よい”部屋
アアルトの自邸、ポルトガルの色彩、イギリスでの暮らし。旅先で見つけた“私に心地よい”部屋
ご紹介するのは、44㎡の中古マンションを自宅兼オフィスにリノベーションした単身女性の住まい。家づくりのきっかけは、社会人留学中にヨーロッパの住まいへの価値観に触れたこと。「自分好みの心地よさ」を探求した空間づくりをご紹介します。
ピアノを暮らしの真ん中に。50㎡にリズムと広がりを生む“斜め”レイアウト
ピアノを暮らしの真ん中に。50㎡にリズムと広がりを生む“斜め”レイアウト
ご夫婦にとってピアノは、特別なモノではなく、いつもそばにいる家族のような存在。 そんなピアノを、限られたスペースの中で他の要素とバランスをとりながら、日常に自然に溶け込むように取り入れた事例です。
50㎡で始める新婚夫婦二人暮らし。未来の可能性も広げる、シームレスな空間
50㎡で始める新婚夫婦二人暮らし。未来の可能性も広げる、シームレスな空間
通勤に便利な都心近くに住みたい。今後家族が増える可能性も考えると、広さも気になる。でも、都市部にあって広さもある物件を見つけるのは、なかなか難しいこと。そんな悩みを解決するヒントが詰まったマンションリノベーション事例をご紹介します。
「老後=静かに過ごす」だけじゃない。 地域とつながる、新しい暮らしのカタチ
「老後=静かに過ごす」だけじゃない。 地域とつながる、新しい暮らしのカタチ
「これからの老後をもっと楽しく、豊かに暮らしていくにはどうしたらいいだろう?」そんな問いから始まった、戸建て住宅の再編集。家族や家との思い出を大切にしながら、建物の1階部分をまちに開いた貸し店舗と近隣の人も気軽に立ち寄れる共用空間へと生まれ変わらせた、地域とゆるやかにつながる“新たな住まい”が実現しました。