都内にある築45年・72㎡のマンション。家の構造体を核として、4人家族が柔軟に暮らしていける間取りに再生された住まいをご紹介します。
部屋に入ってまず目を引くのが、頭上を渡る立派な「梁」の存在です。リノベーション前は、壁で仕切られ、バラバラに分断されていたこの梁を、あえて物件の個性として解放しました。
空間を仕切る壁や建具の高さは、全てこの梁のラインに統一。室内を走る梁のラインを隠さないように設計されています。
リビングと主寝室を仕切るのは、軽やかな籐(ラタン)張りの建具。レールに沿って自在に動かせるこの引き戸は、枚数を増やすことで個室をつくることも可能です。
扉一枚の幅をコンパクトに設計しているため、開閉や移動も気軽に。家族の成長や暮らしの変化にしなやかに寄り添ってくれる工夫です。
扉を寝室側からみると、腰高にラワン材が貼られています。目隠しになると同時に、同じ建具でありながら表裏で異なる景色を生み出すつくりに。
こうした小さな視界の変化が、それぞれの部屋で過ごす気分をゆるやかに切り替えてくれます。
壁面には細いラワン材の縁取り。梁の輪郭をなぞるように添わせることで、梁の存在を際立たせるユニークな意匠です。
枕元を彩るのは、豊かな木目のオーク材で設えたヘッドボード。さらに頭上には、木を用いた下がり天井が造作されています。
躯体から一歩距離をとることで、人の身体に寄り添うような落ち着く距離感を実現しています。
キッチンはシンクとコンロを前後に分けたII型レイアウト。すぐ隣には、冷蔵庫の奥行きにジャストサイズで合わせたパントリーも併設。
限られた面積の中に、必要な機能が凝縮された配置は、動線の無駄もなく、とても使いやすそうです。
キッチン横から伸びる廊下は、家の長手を走る梁に沿って配置されています。
梁下には、一本の鴨居が通され、先ほどの籐の襖から有孔ボード・ラワンの壁と扉など、パッチワークのように多様な素材で壁が構成されています。
大きな梁が描く直線の美しさを感じながら、視線を動かすごとに素材の手触りが移ろい変わる。歩くのが楽しくなるような通り道です。
廊下を渡った先にあるのは、2つの個室。今は仕切りを設けず、大きな一室の子ども部屋として活用されています。
洗面やトイレ、クローゼットなどの機能は、廊下に沿って住まいの中心に集約。面白いのは、その間仕切り壁も梁を隠さないよう、高さを抑えていること。
梁と壁の間の隙間を通して、家全体に繋がりが生まれ、別々に過ごす家族の気配までなんとなく伝わってくる。
何より、各部屋の光や素材が互いに影響し合って、視線を動かすたびに異なる景色が立ち現れるのが楽しいですね。これも、この家の個性である梁があったからこそ生まれた空間構成です。
LDK以外の3つの個室は、意匠や収納を必要最小限にされているのもこの住まいの特徴。用途を決めすぎない設計で、家族の成長に合わせて部屋の役割を入れ替えても、遜色なく使える自由さが残されています。
装飾を削ぎ落としたミニマルな空間ですが、それぞれの部屋には異なる壁仕上げを施しています。
過ごす場所の背景が、気分に与える影響は想像以上に大きいもの。最低限の設えだからこそ素材の個性が際立って、家の中に心地よい居心地のバリエーションが生まれていました。
本来であれば、間取りを制限する厄介者として扱われがちな「梁」を物件の個性として解放した住まい。
見方を変えれば、それは家全体を上から包み込む、頼もしい背骨のようにも思えてきます。
画一的なマンションの四角い箱から抜け出し、起伏に富んだ天井の景色を眺めながら暮らす。梁に添うように設えられた自由度の高い間取りは、家族の成長とともに、これからも様々な変化を見せてくれるはずです。
(撮影:長谷川健太)
note architects
鎌松 亮が主宰する設計事務所。「環境的なもの」「社会的なもの」「お客様に関わるもの」建築における3つの大きな文脈を読み解き、本質を形にすることで、“その場所だからできる建築”の実現を目指しています。
紹介している商品
関連する事例記事