築50年の木造2階建ての住まいに、一人で暮らしていたお母様。娘さんとの同居を前提に建て替えの検討を始め、知人の不動産屋に紹介された設計事務所・ANCHOR DESIGNの星野晃範さんに、新築のプラン提案と見積もりを依頼しました。

しかし、希望していた3階建てでは見積もりが母娘の予算をオーバー。どうしようかと悩む母娘に、「今の家をリノベーションするという手もありますよ」と星野さんが提案すると、お母様は「この家をなんとかできるの?」と驚いたといいます。

築50年という古さから、建て替えるしかないと思っていた住まい。けれど、「夫が建ててくれたこの家を残したい」というお母様の想いもあり、今の住まいをリノベーションすることになりました。

過去に増築がなされていた建物は、融資を受けるために、新築時の登記内容の面積に合わせる減築も行いました。

リノベーション後に暮らすのは、お母様と娘さん、そして娘さんのパートナーという、大人3人。働く時間も家にいる長さも異なる3人が、それぞれの時間を尊重しながら過ごせるプランを検討しました。

以前の間取りは、1階にキッチン・トイレ・浴室といった水回り、2階に個室が並ぶ、昭和の古い家らしい内容。リノベーション後は、1階にお母様の部屋と、浴室・洗面を挟んで娘さんたちの部屋を配置。リビングダイニングとキッチンは2階に移動、さらに、キッチンを通ってアクセスする個室も設けました。

1階のコンパクトな玄関は、フック収納ができる有孔ボードで壁を仕上げて、収納力アップ。天井はFRPグレーチングが嵌め込まれており、2階から明かりが漏れる空間に。

新しい位置に作り直した階段は、蹴込みのないスケルトン階段にして、自然光が届きにくかった1階に光を届けています。上階で過ごしている家族の気配も伝わりますね。廊下の天井には、シンプルな『モデストレセップ』を添えました。

1階の各個室は、床に西南サクラフローリングを採用。薄いピンク色のフローリングで、空間全体を明るく見せてくれます。

クローゼットはスペースを有効活用できるよう、扉は付けず、上部にも物を置けるようにしました。

洗面脱衣所は、床から天井際まで『ラスティックタイル』のホワイトで貼り上げました。濃灰色の目地が、不揃いな形と表情を持つタイルの特徴を際立たせています。

ミラーは『棚付きボックスミラー』のラワンを取り入れ、木の色をアクセントに。壁の照明は『ミニ磁器レセップ』が使われていました。

洗面台には、小物を置くのに便利なデッキ付きの『スクールシンク』を採用。水栓はアメリカ生まれの『ワーカーズ水栓』を合わせました。

無骨な水栓やシンクに、素朴な表情のタイルを合わせて、アメリカン・ヴィンテージな空気感を漂わせています。

廊下の天井に見える鉄骨の部材は、火打ち梁と呼ばれる構造補強のための部材。今回のリノベーションでは、耐震補強も実施しました。

プランニングの際は、まず耐震補強を前提としたプランを組み立て、その上に叶えたい間取りを重ねるかたちで検討していったそう。結果、水回りや階段の位置を大幅に変更することができました。また、窓の位置も見直し、一部はサッシを新しいものに交換。インナーサッシを取り付けるなど、断熱性にも配慮しています。

光が入る位置に移動させた階段。手摺に使ったのは、『木と鉄の手摺』のホワイトアッシュ。階段の踏み板も明るい色の木にして、爽やかな場所にしています。

階段を上り切った正面には、新たに窓を設けました。階段とグレーチング床を通じて1階に光を届ける役割です。

構造への配慮は必要ですが、その気になれば外壁面に新たな窓をつくることができるのは、木造の利点。階段の吹き抜け越しに、キッチン奥に設けた個室の室内窓にも、光が届くようになっています。

そして吹き抜けの上には、なんと本棚が。階段用ハシゴを使って物の出し入れができます。10坪2階建ての狭小住宅に極力、収納を確保するためのアイデアです。秘密の場所のようで、ユニークですね。

かつては個室が並んでいた2階。間仕切り壁を取り払って、家族が集うリビングダイニングにしました。天井は既存の仕上げを撤去して、梁を現しにしたラワン合板貼りの勾配天井に。新たに設けた窓との相乗効果で、開放感のある空間になりました。

正面の窓は以前は引き違いのサッシだったのを、縦すべり出し窓とFIX窓を組み合わせた、新しいサッシに交換。換気のために窓を開けた時も、スッキリとした眺めを維持できます。

ふと床を見ると、特徴的な模様が施されていました。これは「ノコ目」と呼ばれる、ノコギリで木材を切った際にできる跡を意匠として取り入れた仕上げ。床に立体感が生まれ、木の素材感やあたたかみが強調されます。

このリビングダイニングの広さは、約14㎡。細かな意匠が施されたフローリングを選んだのは、あまり広くないフロアに、奥行きを演出する効果も狙ったものです。

キッチンとの間には、家族の思い出や個々のお気に入りを飾れる棚を造作しました。ここも、天井と同じラワンで作り、現しにした柱や梁と揃えた色味でオイル塗装しています。

新しくした部分には、素材感や経年変化を味わえる素材を使うことで、50年の時間を経てきた古いものと同居させています。これからまた時を重ねていくのが楽しみになるような、そんな空間に仕上がっています。

奥の個室への動線も兼ねるキッチン空間。コンパクトな空間ですが、『木製システムキッチン』のラワンと『ラスティックタイル』のブラウンであたたかみを演出。

水栓はスパウト先端を引き出せばホースになり、スパウトを握ったまま水のオンオフを操作できる『ハンマーヘッド水栓』を採用して、使い勝手にも配慮。ガスコンロは『ガスコンロ プラスドゥ』、レンジフードは、実は隠れたロングセラーアイテム、『ブーツ型レンジフード』を使っています。

コンロ周りに貼った『ラスティックタイル』のブラウンは、ライトグレーの目地を合わせました。手仕事を感じる素朴な雰囲気が、古い家を改修したこの家に似合っています。

キッチンの背面側は、壁も棚板もラワンで作った収納ゾーン。既存の柱をうまく活かしています。

こちらは、キッチンを通り抜けた先にある小部屋。3帖ほどのスペースですが、梁を現しにした勾配天井が開放感を生み出しています。

今回のリノベーションでは、外壁も補修をして仕上げ直しました。玄関ポーチに慎ましやかに添えられたのは、『タイニーブラケット』。大袈裟すぎないボリュームとデザインが、この家の佇まいにしっくり合っています。

リノベーションによって、「これから」へと引き継がれた築50年の住まい。耐震性や設備性能を高めながら、もともとの家が持つ味わいは活かし、「これまで」の記憶や家への思い入れを、丁寧に継承しています。

築年数が古い家になると、まず「建て替え」が選択肢として浮かびがちですが、プロの視点を借りてみることで、家づくりの可能性が拓けるかもしれません。

ANCHOR DESIGN

ANCHOR DESIGN

東京都調布市を拠点として活動している、星野晃範が主宰する設計事務所。暮らしに合わせて家に手を加えて変えていく「アフターリフォーム」な暮らしを実践したり、ライフスタイルの可能性を広げるつくり込みすぎない家づくりを提案しています。

テキスト:サトウ

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