「何からはじめたらいいのかわからない」家づくりのご相談でよく耳にするこの言葉。今回のお施主様も、まさにそんな思いを抱えていたひとりでした。

出産という大きな節目を迎えたタイミングで、SNSで偶然見かけたお花屋さんの空間に心惹かれたことがきっかけで、「このお店を手がけた人たちに話をきいてみたい」と、家づくりが少しづつ動き出しました。

はじめから「こうしたい!」という明確なイメージがあったわけではありません。図面や写真だけでは伝わらない“空気”や“温度”を確かめるように、何度も対話を重ねながら、少しずつ自分たちの“好き”を拾い集めていった――そんなプロセスだったそうです。

ご主人は高校の先生、奥さまは参考書の出版社にお勤め。お二人とも弓道が趣味で、本もたくさん読まれる読書家。日々の暮らしの中で「いいものを丁寧に、納得して選ぶ」ことが自然に身についている、そんなお二人。

家づくりの話を進める中で、ふと出てきたのが「ジャパンディ」という言葉でした。和の落ち着きと、北欧の柔らかな雰囲気。自分たちの惹かれる空間を表すのに、一番しっくりきた言葉だったのだそう。

その言葉を手掛かりに、目指したのは素朴で穏やか、それでいてどこか上質さを感じられる空間。

床や造作家具には主張の強すぎないやわらかな木目の材をセレクト。壁はほんのり黄味がかった色でまとめて、ところどころ壁付け照明に仕込んだ『ハーフマット電球』の光によって、ふわっと質感が浮かび上がる。見ているだけでほっと落ち着く、そんな居心地のよい空間に仕上がっています。

キッチンは、木のやわらかな質感で仕立てたやさしい雰囲気が魅力。

壁にはコットン色の『水彩タイルボーダー』をベースに、棚受けには控えめな存在感の『棒棚受け』、手元灯には陶器製の『モデストレセップ』をセレクト。

どれも質感や手触りが心地よい表情をもつものばかり。光の入り方、影の落ち方をそっと引き立ててくれて、静かでやさしい背景が生まれています。

棚下に『ハンガーバー』を取り付けて、日々の使い勝手をさりげなくプラス。扉の丸いくりぬき把手も、空間に愛らしさを添えてくれています。

素材や色のトーンを丁寧に揃えていったことで、暮らしの風景に自然に溶け込む“ひとつの家具”みたいな存在に仕上がりました。

そして、もうひとつ、この住まいで目を引くのがリビングの角に設けられた、壁一面の本棚。天井高いっぱいまで届くスケールを活かした造作で、その手前には、空間に合わせて仕立てられた造作ソファがゆったりと据えられています。

お気に入りの作家の世界にどっぷりと浸る時間。飾られた“お気に入り”を、眺めながらぼんやりと過ごす時間。そんな穏やかなひとときが、自然と目に浮かんできます。

洗面は、モルタルやタイルなど素材を切り替えつつ、トーンを揃えて構成。コンパクトながら、壁に埋め込み棚を設けるなど、使い勝手もしっかり考えられています。

ペンダントライトが、空間全体をやわらかく包むように灯っていて、その雰囲気もまた素敵です。

自然素材の質感を生かした穏やかな色づかい、光の入り方や影の落ち方まで丁寧に考えられた空気感。そういった要素が織り重なり、住まい手の「好き」をそっと支えながら、日々の暮らしに静かな豊かさをもたらしていました。

アトリエイハウズ

アトリエイハウズ

新築・リノベーションの設計施工を行う工務店。デザインだけでなく、耐震や温熱環境に配慮した建築も得意。リノベーションでは、性能向上をベースに「アップサイクル」「ネオクラシック」をテーマに掲げ、オンリーワンな空間を提案しています。京都・西京極にある自社ビルには珈琲焙煎所「WESTEND COFFEE ROASTERS」を併設。

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