夫婦+子供二人のお施主様ご家族がマイホームに選んだのは、神奈川県の二宮町に建つ築40年以上の中古戸建て。建坪19坪の小さな木造2階建てで、和室に欄間、押入れという「THE・昭和」な内装の住まいでした。
購入価格はなんと1000万円以下!とはいえ、気になるのは耐震性や断熱性といった性能面。今回のリノベーションでは筋交や柱を補強、サッシは新しいものに交換して、現行の建築基準法に準じた耐震性と断熱性能を確保。家族が暮らしを育んでいく場としての安心を叶えました。
リノベーションにかけた費用は、物件購入費用の2倍以上。とはいえ、もとの物件価格がお手頃だったため、耐震・断熱含めたフルリノベなら相場内。
いちから新築するというマイホームの手に入れ方もありますが、手頃な築古戸建てを性能ごとアップデートする、そんな住まいの手に入れ方も、建築コストが上がり続ける今の時代には十分“あり”かもしれません。
お施主様ご家族は、プランニングだけでなく、工事の大部分にも参加しました。お施主様が家づくりのパートナーに選んだのは、施主参加型の家づくりを提案している建築集団・HandiHouse project。そのメンバーであるTough and Roughの佐伯太市さんと一緒に、基礎の打ち直しから、内装の下地組、タイル貼り、塗装に漆喰仕上げまで、自分たちの手を動かしてマイホームをつくり上げていきました。
お施主様ご家族がイメージしていたのは、“真新しすぎない、古き良き味わいがある家”。もともとの飴色に育った木部や和の設えなど、昭和の古い家ならではの“渋さ”を活かした空間が出来上がりました。
まずはアプローチから。見てください、この奥ゆかしい佇まい!
新たに取り付けた引き戸は、ヒノキで造作したもの。明かり取りの型板ガラスから漏れる光、レトロな形の外灯……背筋をピンと伸ばしたくなるような上品さと、あたたかみが同居する玄関です。
中に入ると、簾張天井がお出迎え。茶室などに用いられる伝統的な仕上げです。土間は小豆色のタイルで、昭和の家の玄関でこんなタイルをよく見かけた気がします。年季を感じる深い飴色の下足入れも、既存を活かしました。
廊下に並ぶ、磨りガラス入りの木製引き戸は既存のもの。懐かしさを感じるトイレのドアは、ラワンで新たに造作しました。新たに取り付けた陶器のドアノブは、始めからここにあったかのような顔をして馴染んでいます。ガラスシェードのペンダントライトも、昔から変わらずこの家を照らしてきたような佇まい。
「うちの実家の廊下もこんな風景だったなぁ」と、郷愁に駆られました。
ラワンのドアの中は、鮮やかなピーコックグリーンで塗り上げられたトイレ。ここの壁の塗装もお施主さまご家族がDIYで行いました。
和室が続いていた1階は、1室を板間にしてダイニングにしました。押入れだった箇所は解体して、天井に『ミニ磁器レセップ』を取り付けておこもり感のあるコーナーに。新たに貼った床材は、ラワン合板を幅300に切り、実加工を施して貼っています。幅広の板で空間をのびのびと見せたいという意図と、コストダウンを両立する素材として選びました。「フローリング」として売られている材じゃなくても、フローリング床は作れるんです。
白い壁は、漆喰で仕上げました。『モデストレセップ』に取り付けた電球の明かりが、やわらかに広がります。操作は、手元高さに取り付けた『陶器スイッチ』で。トグルを“パチン”と鳴らして操作するアナログ感が、この家の雰囲気にハマっています。
奥の和室は、断熱性の高いスタイロ畳に交換し、壁はボードを増し貼りして仕上げをやり直し。襖と障子も表替えしました。板張りの天井や床の間、立派な床柱など、建物がもともと持っていた“素材の良さ”を、そのまま活かしています。
イグサの香りに包まれる“畳リビング”には、大きなスクリーンを設置。ごろりと寝転びながら大画面で映像が観れる、気持ちの良い空間になりました。
“畳リビング”の隣は、長男の部屋。「4畳の中で勉強・娯楽・収納・睡眠を叶えるには?」と、長男と佐伯さんが一緒になって検討を重ね、L型のロフトがある秘密基地のような空間ができました。
壁にはインテリアラーチを貼って、他の居室とは雰囲気をチェンジ。『オスモカラー』を塗装して仕上げました。
下地の角材を細くして壁厚を抑えたり、ロフト下に柱を建てない造りにするなど、コンパクトなスペースをギリギリまで活かす工夫を施しました。
柱や長押、欄間など、古い家の要素を活かしつつ、ダイニングとキッチンには床暖房を採用して、古い戸建て特有の寒さへの対策もバッチリ。こう見えてハイブリットです。
L型とカウンターを組み合わせた造作キッチンは、作業面も収納量もたっぷり。思う存分料理ができます。天井の一部はトップライト付きの勾配天井にして、明るさを確保しながら開放感も演出しました。
昔懐かしい100角の白タイルも、鮮やかな水色の目地と合わせると新鮮な印象。このタイルは佐伯さんたちの力を借りながらお施主さんが貼ったもので、自らの手で仕上げた壁は、毎日目にするたびに愛着が増していきそうです。
「キッチンは広くしたい」と、料理の環境にはこだわりがあったお施主様。水栓は、セミプロ仕様の『スプリングホース水栓』をセレクトしました。足元は、床暖房対応のコルクタイル貼りで、素足でも心地よく過ごせます。
たっぷり容量のオープン棚は、『ウォールディスプレイパーツ』で造作。薄い板状の棚受けは棚に置くものに干渉しにくいので、幅のあるものも気兼ねなく置けます。
キッチンのカウンター上に吊るした照明は、この家のためにオリジナルで制作したもの。かつて筋交いとして家を支えてきた材を、新しい役割を与えてよみがえらせました。
工事中に出てきた廃材を活用したアイテムは、ほかにもあります。洗面の壁に取り付けた木製のブラケット照明もそのひとつ。もともとの建物にあった素材をリメイクして活かす手法は、リノベならではの楽しさです。
天板や棚に木を使った洗面室は、黒皮鉄の『棒棚受け』を取り入れたり、天板の一部をステンレスにして、メリハリのある空間に仕立てています。
2階の主寝室も、1階と同じくラワンを基調にして、木のあたたかみを感じる空間にしました。天井は既存仕上げを撤去して、梁を現しにした勾配天井に。壁や天井には断熱材を入れ、窓は他の部屋と同様に断熱性能の高いサッシに交換して、体感的な居心地も向上させています。
カウンターデスクの前に設置したのは、お施主さまが祖父母から譲り受けたステンドグラス。「どうしても使いたかった」というリクエストを受けて、一番リラックスして過ごす寝室に取り入れました。
ステンドグラスの上でやわらかな光を放つのは『ミルクガラス照明』。夜にほのかな明かりに照らされるひとときも、朝の光を受けてきらめく瞬間も。この空間で過ごす時間を、特別なものにしてくれそうです。
既存のものに“新しさ”を添えてリメイクすることで生まれた、オリジナルな空間。「この家」と「自分たち家族」だけが紡ぎ上げた物語が、そっと息づいています。
(写真:佐藤陽一)
HandiHouse project/ハンディハウスプロジェクト
合言葉は『妄想から打ち上げまで』。
家づくりが趣味になれば暮らしも豊かになる。
そんな思いのもと、設計・デザインから工事のすべてにおいて、施主も一緒に参加する空間づくりを提案している、建築家集団です。
Tough and Rough 佐伯太市
2016年、中田製作所のメンバーとして建築家集団・HandiHouse projectに参加。2023年にTough and Roughを立ち上げ、「設計」と「大工」の両方を担いながら、住まい手と一緒にものづくりをしています。
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