約2年ものあいだ物件探しをしていた施主家族が「運命を感じた」お相手は、昭和50年代に建てられた一戸建て。
築40年以上が経過して内装も外装も劣化していましたが、立派な梁を現しにした天井、珍しい筵(むしろ)天井、本物の木を使った板壁や、高窓から光が注ぐ吹き抜けなど、こだわりを尽くして建てられた空間を一目見て、「この家を引き継ぎたい」と思ったというお施主さま。
ロフト付きの木造2階建てで延床面積は約160㎡という、新築ではなかなか得難い広さも魅力でした。
ですが、売主の方は建物を解体して更地で渡したいと言い、当初は建物付きでの売買を断られていたそう。
「古いから使ってほしくない」「思い出ごとまっさらにしたい」という売主に対して、この家に惚れ込んだお施主さまは「家の空気感、家の記憶そのものを受け継ぎたい」と、この家へのリスペクトと、どんな空間にリノベーションしたいのか、思い描いている世界観を仲介者を介して伝え、想いを手紙にしたためて売主に送りました。
さらに、リノベーション会社の協力を得て「既存住宅状況調査(インスペクション)」も実施。実際の劣化状況を売主・買主となる施主、双方が確認した上で、建物を残してリノベーションすることへの売主の承諾を得ることができました。
この家に住むのは、施主夫婦と成人した子ども2人。結婚して家を出た子ども家族や姪家族も頻繁に集まれる家にしたいという思いがあり、古き良き時代に建てられた家ならではのゆとりある広さが、お施主様が思い描いていた「家族や親戚が集まる風景」に、ぴたりと重なったのだそう。
そんな、大家族が集う“昭和的な暮らし”を叶えるべく、もともとの建物の良さを活かしながら、“令和的な快適さ”を備えた家へとリノベーション。施主夫婦が愛するアメリカンヴィンテージと昭和レトロが融合した、ヴィンテージ感たっぷりの住まいに生まれ変わりました。
現しになっていた梁や、天井と板張りの壁は、オイルを塗り直して、木の表情を鮮やかに甦らせました。床は、新たにラーチの無垢フローリングを貼り直しつつ、使い込まれたような深みのある色にオイル塗装しています。
ワークスペースがある場所は、以前は浴室と洗面所だった場所。壁を取り払ったことで、窓からの明かりがリビングに注ぐようになりました。
リビングの一角に据えたワークスペースは家族共用。みんなとコミュニケーションを取りながら過ごすことができますね。
古かった水回りの設備機器は一新しました。キッチンは『業務用キッチン』をセレクト。昔の“流し”を彷彿とさせるオールステンレスの出立ちが、古い味わいを活かしたこの家によく似合っています。
レンジフードは『フラットレンジフード』で、キッチンとお揃いのステンレスを採用。その下のタイル壁に取り付けたキッチンツールバーは、『ハンガーバー』の鉄をお使いいただきました。
質実剛健なキッチンに、ウルトラマリン色のタイル、クジラ柄(!)の壁紙、レトロな食器棚や雑貨たちを組み合わせて、ポップな空間に仕立てているところに、施主家族の個性を感じます。
作業面をたっぷり確保した壁付けのL型キッチンは複数人での作業もしやすく、「家族が集まる家にしたい」という施主の想いが表れています。
浴室と洗面所は、納戸だった場所に移動してつくり直しました。
ペールブルーに彩られた洗面所は、明るく爽やか。木目が際立つ木で造作した洗面台には素朴な味わいがあり、アメリカンカントリーな空気感を漂わせています。『マリンデッキライト』やクラシカルな水栓、白いタイル、陶器製の大きなシンクも、その世界観を引き立てています。
こちらは、和室だった場所を拡張してつくった主寝室。床は、パーケットフローリング柄のフロアタイルで仕上げました。壁の一部はピーコックブルーのクロスを貼って、意匠性の強い床とバランスをとっています。
床と壁の色だけを見たら主張が強く思えますが、ご夫婦のコレクションを引き立てる背景としてベストマッチ!雑貨や服がずらりと並んだ様はまるでお店のようで、この風景を眺めながら過ごす時間はきっと格別ですね。
2階のひと部屋は、もともとあった小屋裏のスペースをロフトに。子供家族や姪家族が泊まる際は、この場所を使っているそう。以前はハシゴで上り下りするスタイルでしたが、階段と手摺を造作して上り下りしやすく、安全に過ごせる場所にしました。
高い天井と立派な梁、板張りの壁で囲まれた空間は、山のロッジのようで、くつろいだ気持ちで過ごせそうです。
玄関には、お気に入りのスニーカーを「見せて」収納できるオープン棚を造作。棚の背面はダークグリーンの壁紙を貼っています。これも、飾ったものを引き立てるための工夫。
格子付きの引き戸だった玄関入り口はドアに交換。リビングドアと主寝室へ続くドアは『木製パインドア』にオイル塗装をして、アメリカンな雰囲気に仕上げました。
今回のリノベーションでは、建物を新耐震基準レベルまで耐震補強しました。断熱材を外側から充填する断熱工法を採用して、既存の内装壁仕上げを活かしながら断熱性能もアップ。窓も断熱サッシに交換しています。雨漏りがしていた箇所は補修を行い、外壁はサイディングで仕上げ直しました。
インスペクションで家の劣化箇所と不安箇所を明らかにしたことは、表層や設備機器を好みに変えるだけではない、これからを長く安心して暮らすための家を叶えることにもつながりました。
売り出し時には建物が建っていても、「引き渡し時は更地で」という条件付きで販売される物件は少なくありません。これは、更地にすると固定資産税が上がるため、売買成立後に解体することを前提としているのです。売主が「古いから使えないだろう」と判断し、手を加えればまだ使える家が解体前提で売られることもあります。中には、この家のように「壊さずに活かしたい」と買主が思うような物件もあるでしょう。
解体されるはずだった「運命の物件」と出会い、熱意と誠意、そしてプロの協力を得て理想の住まいを手に入れた今回の家づくり。その物語は決して夢物語ではなく、現実になり得ることを教えてくれる実例です。
※こちらの事例はimageboxでも詳細をご確認いただけます。
リノクラフト株式会社
“古くなった建物に新しい価値を創造する”というリノベーションの考え方・価値観を地域に広めたいという想いから、2011年に愛知県豊橋市に創業した、リノベーション専門のデザイン設計事務所。家づくりの主役である「暮らす人」の想いを大切にしながらリノベーションに取り組んでいる、地域密着型のプロです。
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