かねてから憧れだったという里山暮らしを、神奈川県相模原市の旧藤野町に移住して叶えたお施主様ご家族。都内で会社勤めをしていた夫は移住を機に退職、妻が育休中のタイミングで家づくりを行い、構造材を組み上げる建て方から、断熱材の充填、内装仕上げまで、夫婦で全工程に参加。プロと一緒に家づくりをする“ハーフビルド”で、マイホームをつくり上げました。

「自分たちの家を自分たちの手でつくりたい」という施主夫婦の理想を一緒に叶えたのは、設計・デザインはもちろん、工事まで、全てのプロセスに施主も参加して一緒に行う家づくりを提案している「HandiHouse project」の一員である、中田製作所。

中田製作所では、住まい手と一緒に取り組む家づくりと合わせて、高気密高断熱なエコハウスづくりに取り組んでおり、地球環境への負荷を考えて「化石燃料に依存しない暮らしをしたい」と思っていたお施主様夫婦は、「ここしかない!」と家づくりを相談したそう。

山の緑と空の青、自然豊かな風景に馴染む黒い外壁は「焼杉」。杉板を焼いて表面を炭化させることで腐食を起こりにくくして長持ちするようにした、昔ながらの建材です。材料として使った杉は地域産の杉材で、近所に住んでいる焼杉づくりのプロに教えてもらいながら、地域の人たちと一緒に手焼きしてつくりました。

そこで送る暮らしだけでなく、建てる家自体も環境負荷の少ないものにしたいと思っていたお施主様ご家族。焼杉に使った材木をはじめ、家に使った材木は、輸送コストが少なく済む近隣地域のものや廃材を活用しているのだそう。

家の中は、大きな三角屋根の下に大空間が広がっていました。寝室と水回りは閉じることができますが、他は玄関からロフトまで仕切りのないワンルーム空間になっています。

2024年の時点で次世代省エネ基準とされている断熱等級は4ですが、この家の断熱等級はそれを2段階上回る6。高気密高断熱住宅だからこそできた、おおらかな空間です。

夏の暑さがどんどん厳しくなる近年。夏は涼しく、冬は暖かい、冷暖房コストもかかりにくい家での暮らしは快適そうです。お施主様ご家族はこの家に暮らし始めて、風邪を引きにくくなったとも言います。

そんな家の中心に据えたⅡ型のキッチンは、オリジナルで造作。シンク側の水栓には『ハンマーヘッド水栓』をお使いいただきました。コンロ側の壁面に貼った、矢筈の形をモチーフにしたタイルが印象的です。

洗面室には『ハニカムタイル』の「渋アイボリー」を使用。重厚な雰囲気の洗面台は、古材を使っています。

ロフトへ登るハシゴも、古材と廃材で造作。木材そのもののキャラクターを活かした形は唯一無二。

リビングの一角に付けられた可動収納棚の棚板も、廃材だった木を切り出して、「耳付き」で使っています。『ウォールディスプレイパーツ』のシャープな形と、有機的な木の輪郭のコントラストがいいですね。

古材や廃材はお施主様が見つけてきたもので、こうした細部は現場で話し合いながら決めていったそう。すでに出来上がったものを選んでつくっていくのとは違う、この家だけのオリジナリティを感じる空間になっています。

お施主様ご夫婦が「化石燃料に依存しない暮らし」を望んだのは、「将来子どもたちが生きていくこの世界に負担をかけるような暮らしはしたくない」という思いからだったそう。そうした思いのもと、自分たちの手を使い、地域の人たちと、地域のものでつくり上げた家での暮らしは、この家で里山とともに育っていく子供たちに、たくさんの気づきと学びを与えてくれそうです。

(写真:佐藤陽一)

※こちらの事例はimageboxでも詳細をご確認いただけます。

中田製作所

中田製作所

中田裕一・中田理恵が代表を務める、神奈川県逗子に拠点を構える一級建築士事務所+施工会社。省エネ住宅「パッシブハウス」づくりに取り組む。
建築家集団・HandiHouse projectのメンバー。

株式会社 HandiHouse project / ハンディハウスプロジェクト

株式会社 HandiHouse project / ハンディハウスプロジェクト

合言葉は『妄想から打ち上げまで』。
家づくりが趣味になれば暮らしも豊かになる。
そんな思いのもと、設計・デザインから工事のすべてにおいて、施主も一緒に参加する空間づくりを提案している、建築家集団です。

テキスト:サトウ

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