境界を曖昧にする「土」の存在
玄関から室内へ、大胆に引き込まれた土間空間。そこで時間を過ごしてみると、今まで当たり前と思っていた「家の中と外」という線引きが、問い直されるような感覚を覚えます。
土足でも、靴を脱いでも、家主が好きに線を引ける。置く家具だって固定のものでなくていい。旅先で目にした軒先のように、その日暮らし的な設えで、気ままに居場所をつくっていく。
そんな、自由で曖昧な過ごし方が、土間の上では自然と叶います。生き物として心地いい過ごし方を、無意識のうちに求めているのかもしれません。
これまで、土間空間といえば、モルタルグレーのイメージが主流でした。そこにもうひとつ、新たな選択肢としてご紹介したいのが、温かみのある土色の『クリンカータイル』です。
公共施設のアプローチなどで、長年使われてきた存在を、あえて室内の広い範囲に。外の空気を内包した床が、家の中に健やかな居場所を生み出します。
「素」の焼き物
特徴は何といってもこの土肌の色。「土」と聞いて真っ先に思い浮かべるような、大地の深い色をしています。
瀬戸や多治見の土を高温で焼き締めることで、雨水が染み込みにくく、外床用として耐えうる硬さと強度を持たせた「クリンカータイル」。
中身の密度の高さゆえに、叩くとキンッと金属のような乾いた高音が響きます。この音を表す言葉「Clink」が名前の由来になっているんだとか。
表面は釉薬を使わず、焼き締まった土肌の色をそのまま活かしています。長年摩耗しても美しさを損なわないための実用的な選択です。
安定した品質の中にも、原材料と火によって起こるわずかな色むらが秘められている。それによって広い範囲に敷き詰めた時にものっぺりせず、土らしい自然な表情が空間に静かな奥行きをもたらしてくれます。
親しみやすさを覚えるのは、見た目の温かさだけではありません。身体が触れた感触も、素焼きの器のように、ざらりと土らしい質感を残しています。
手のひらに吸い付くようなひんやり感と、その奥からじんわり温度が伝わってくる。素材そのものが熱を優しく伝えてくれる感覚があります。
穏やかなアースカラーと、人肌に近い感触。この製法だから生まれる表情が、硬質なタイルの上に居ながら、自然の中に身を置いた時のような、野生を感じさせてくれる理由なのかもしれません。
規律ある素朴
もうひとつ、このタイルの特徴として挙げたいのがサイズ感です。
150mm角という中判なサイズは、100mm角ほど意匠に寄りすぎず、300mm角ほどあっさりでもない。現代の住宅スケールの中で、程よい緊張感とリズムを与えてくれます。
輪郭は真っ直ぐに、きちっと整形されていて、手仕事のような不揃いさはありません。床に敷き詰めた時には、目地が一直線に揃います。
そして、厚みはずっしり13mm。屋内用のタイルでは中々見かけない分厚さです。
例えば、空間の境目に段差をつけた時や、ベンチのように垂直に立ち上げた時。厚みが小口として現れることで、土の塊からそのまま切り出したかのような、確かな量感を感じさせてくれます。
土が持つ素朴さや力強さの中に、キリッと均一に揃う精度が同居していること。
このバランスが絶妙だからこそ、ステンレスやコンクリートといった無機質な素材とも喧嘩せず、互いの良さを引き立て合うことができるように思います。
もう一度「土」を思い出す
子どもの頃に慣れ親しんでいた「土」の感触。
都市部のマンションの暮らしでは、その感覚を思い出すことも少なくなったと感じます。コンクリートに囲まれた家の中で、土はいつしか、日常から切り離された存在になってしまったのかもしれません。
けれど、旅先で土壁の古民家に出会ったり、手触り感のある陶器に触れた時、心が動かされることはないでしょうか。普段は意識をしていなくても、潜在的に土の心地よさを懐かしんでいるような気がします。
そんな置き去りにしていた大切な感覚を、間接的に思い起こさせてくれる「クリンカータイル」。これからの住まいに気の良いゆとりを運んできてくれるはずです。