心躍る色使いと、くたっと柔らかな素材感。照明器具の持つ「硬派」なイメージとは対極にあるのが『手編みロープ照明』です。

コードを手編みのニットで包み込んだ裸電球照明で、その名の通り、1本ずつ人の手で丁寧に編み上げてつくられています。

結び方や合わせる電球によって、ガラッと雰囲気を変えられるペンダントライト。手に取ると思わず顔がほころんでしまうような佇まいのペンダントライトです。

一見すると「愛らしいインテリア」に思えるこの照明ですが、ただ可愛いだけではありません。流行に左右されることなくtoolboxで10年以上販売され続けてきた実力派のロングセラー商品なんです。

量産された工業製品にはない温かみがあり、作家さんの一点ものほど敷居が高くない。さらに、ロープを自由に結んで好みの長さにアレンジできるという、使う人への余白も持ち合わせています。

そんな独自の存在感を持つこの照明の制作の舞台裏をのぞいてみました。

機械では実現できなかった「手編み×照明器具」

「コードを編み込む」という今までの照明器具にはなかったユニークな技法。これはどんな背景から生まれてきたアイデアなのでしょうか。

「私たちは、もともとニットでものづくりをしているブランドです。身につけるものだけでなく、ニットをもっと日常生活の中に溶け込ませたい。そんな想いから、当時は『架空のお部屋』をテーマに、キッチンやリビングに置くアイテムを企画していました。その中で『ペンダントライトを作りたい』となったのが始まりです」

お話しを伺った「手編みロープ照明」のつくり手の勇人さん。ご夫婦で製品の企画デザインをされています。

そう語る作り手が着目したのは、照明そのものよりも「コード」でした。

「むき出しのコードが、なんだか浮いて見えて嫌だなと思って。『だったら、コード自体を編めばいい』と思ったんです」

最初は機械編みなど、様々な手法を試したそう。一番最初のプロトタイプを見せてもらうと、ソケット部分までニットで覆われたものがありました。

これはまた、電灯器具らしからぬ、ぬいぐるみのような愛らしさ!ただこれは電球の熱がこもるため安全面からボツに。「電気用品の厳しい検査基準など、照明特有の難しさを痛感した」と当時を振り返ります。

その後、一時期は炬燵の電源コードのように機械で編んだコードで製品化していたこともあったといいます。

「ただ、今の製品と比べると存在感が全く違いましたね。カラフルに編んだコードではあるんですけど、なんだか華奢で、空間での佇まいが物足りなかったんです」

そこで改良を重ねて行き着いたのが、現在の「製品として完成したペンダントライトのコードに、後から手編みで編み込んでいく」という手法でした。

「この方法だとソケット部分が機械に通らないため、人の手で編むしかありません。でも、だからこそこの厚みが出せるのかなと」

実際の制作工程を見せてもらうと、糸を手で交差させて模様をつくり出す「マクラメ編み」に近い技法で、するするとコードが形になっていきます。

なにがどうなって編まれていくのか……!じっくり見せてもらっても本当に不思議で、魔法のように形になっていきます。

「ちょっと手が緩いと隙間が開くんですよ。そうすると中のコードが見えてしまう。かといって編み目が詰まりすぎると今度はコードを結んで長さをアレンジしにくくなってしまう。その絶妙な力加減が大切なんです」

機械には真似できない、手編みならではのしなやかさと、製品の完成度を高めるための惜しみない手間が、一本一本に込められています。

誰もが知ってる「あの紐」が化ける

「手編みロープ照明」に使われているのは、パーカーのフードや巾着の口で見かける、身近なあの紐。私自身「あの紐がこんなに素敵になるの!?」と驚いた記憶がありますが、どんな経緯で選ばれたのでしょうか。

「紐の種類を試す中で、中が空洞になっているタイプがいいなと。中に芯が入っている太い紐は手で編み込むのが難しく、まずは『しっかり手で編めること』が前提でした」

こんなにカラーバリエーションがあったとは驚きですが、実はメーカーの倒産による廃盤も増えているそうで、時代の変化に合わせて色展開の見直しをすることもあるそうです。

ベースにはアクリル素材の紐を選びましたが、候補には耐久性の高いポリエステル製もありました。

「品質の安定性だけで言えば、ポリエステルのほうが優れています。アクリルは摩擦に弱く、何度も触ると毛羽立ってしまうというデメリットがあるんです」

空気を多く含んだウールのように、ふっくらと温かみのあるアクリル紐ですが、実は何度も触ると毛羽立ちやすいという繊細な一面も。

「ポリエステルは毛羽立ちが起きにくい反面、独特の光沢感が出てしまう。ナチュラルな風合いを優先するか、耐摩耗性をとるか。照明はバッグとは違って頻繁に触れるものではないので、私たちは空間の『雰囲気』を重視して、アクリル一択でいこうと決めました」

こちらが実際にポリエステル紐で編んだコード。紐単体でみると分かりにくいですが、こうしてみると確かに光沢があり、どこか硬くしっかりとした印象を受けます。

左の3本がポリエステル紐で編まれたもの。アウトドア用品のような頑丈さはあるものの、この照明が持つ「くたっと柔らかな世界観」とは、また別物。

そして「手編みロープ照明」の最大のポイントは細いポリエステルのカラー紐を一緒に編み込んでいることです。

「綿の紐を編んだだけだと『ただの蛇』に見えてしまったんです(笑)。いろいろ考える中で出てきたのが複数の糸を一緒に編む『引き揃え』の手法。編み進めるうちにカラー紐がランダムに顔を出すので、その不規則な出方自体がひとつのデザインになっています」

ベースの紐に対して、どの太さのカラー紐を、どれくらいの比率で混ぜるか。このバランスを見出すのも悩んだ部分だったと言います。

「カラー紐が主張しすぎると、全体のバランスが崩れてしまう。太さや比率を変えて何度か試し、最終的に今の比率になりました。ベースの面積に対して、なるべく馴染む色を掛け合わせたり、あえてビビッドな色を効かせたり。そこはデザイナーの感覚的な部分でもあります」

カラー紐は、ベースと同系色でまとめることもあれば、目を惹く蛍光色を効かせて引き立たせることもあり、それぞれのカラーごとにイメージを使い分けているそう。

「ただ、最終的には『家に馴染むこと』が一番大切。照明単体が目立ちすぎて空間から浮かないよう、インテリアのアクセントになる『差し色』になるように意識しています」

単なる可愛い色使いに見えて、実は空間への馴染みやすさと、手編みならではのランダムな表情が活かされたデザイン。身近な「あの紐」は、そんな工夫によって、空間を彩る唯一無二のパーツへと化けていたのでした。

左に写っているのが、配色をはじめデザインを担当されている慶子さん。アパレル業界で培った色彩感覚には思わずハッとさせられる魅力があります。

量産の担い手は、たった一人のニッターさん

この照明の制作を担っているのは、実はたった一人のニッター(編み手)さんです。この道一筋のベテラン職人が、他の仕事の合間を縫って制作しているため、1日につくれるのはわずか1本。それほど、この手仕事には膨大な集中力と労力がかかります。

「4本の紐にまったく同じ圧をかけて、同時に引っ張りながら編み進めなければいけません。指先すべてに均等な力を込めて、1時間ほど集中し続ける。これが原因の豆ができてしまうほど、手に負担がかかる作業なんです」

必要な糸の長さはなんと編み上がりの4倍。糸が絡まないよう4つの小さな玉に分ける工夫も、編み手によってやり方が違うそう。

実は以前は、複数の編み手さんに分散して依頼していた時期もありました。しかし、人によって力加減が変わるため、仕上がりにばらつきが出てしまう課題に直面します。

「クオリティを安定させるために考えた結果、約6年前から、現在のニッターさん一人に絞って量産をお願いしています。その方のスピードと、狂いのない美しい編み目のバランスは圧倒的。今の製品の品質はすべてその人の『腕』に支えられていますね」

量を多くつくれないことや、職人の技術に100%依存せざるを得ない状況は、一見するとリスクのようにも思えます。しかしつくり手はそれをポジティブに捉え、ものづくりのスタンスとして大切にしています。

「単に仕様書通りに作ってもらうのではなく、ニッターさんの腕や考え方をリスペクトしながら、お互いにキャッチボールをしてデザインを形にしていきたい。だからこそ私たちはより密なコミュニケーションが取りやすい国内での手仕事にこだわっています。

相手が信頼できるプロフェッショナルだからこそ、『世の中にない新しいものを作る』という挑戦も、怖がらずに楽しめるんです」

箱を開けなくても中身が分かるよう考えられた、こだわりの梱包。編むときに出る端材を目印にするという、つくり手ならではのアイデアが光ります。

建築は硬すぎる?アパレル畑からのアプローチ

お話しを伺う中で印象的だったのが、アパレルからものづくりをスタートしたつくり手のバックグラウンドです。「手編みロープ照明」が放つ独自の存在感の理由が、もう一つみえてきました。

「プロダクトや建築の世界って、ミリ単位で物事を考える硬さがありますよね。もしその分野で考えていたら、きっともっと綺麗に整えたり、カチッと決めに行ったりしていたと思うんです。でも、ニット業界ってもう少し緩いんですよ」

シーズンごとに変化を許容していく柔軟性や、次々と新しいアイデアを発表していけるスピード感。アパレル特有の時間軸も「緩さ」に繋がるのかもしれません。

「そもそも素材自体が伸び縮みするから​​『多少のサイズ違いは大丈夫』という大らかさがないとつくれない。そうしたアプローチの違いが、できあがるものの面白さに繋がっているのかもしれません」

編み方でサイズを微調整したり、最後は紐を結んでバランスが取れるラフさ。そして完成したものも、結び方によって長さも、姿形さえも、使う人が自由に変えていくことができる。最初から固めすぎない「抜け感」こそが、かっちりとつくられた建築の中で、特別な存在感を発揮する理由なのかもしれません。

最後に、ニットという手法ならではの可能性についても伺いました。

「ニットって、昔ながらの手編みもできれば、最新の機械によるプログラミングで1点ずつ作るハイテクなアプローチもできる。少量生産にも対応しやすいんです。

僕自身、機械マニアで新しい技術が好きなので、そういったニットならではの進化や特性を掛け合わせて、この先どんな面白いことができるかを考えるのが楽しくて」

そう語っていた通り、取材当日も次なる新商品の構想についてその場で次々とアイデアが飛び出し盛り上がりました。

きっちりかっちりとした空間づくりの常識を、糸のようにしなやかに解きほぐしていく。10年以上愛され続けてきたロングセラーのDNAを引き継ぎながら、次はどんな新しい商品が生まれるのか。これからの展開が、今から楽しみでなりません。

「生活のたのしみ展」では、限定カラーが数量限定で登場します!

記事内で紹介した「手編みロープ照明」の質感や編み目の細かさを、実際に目で見て、触れられる貴重な機会!

2026年6月1日から開催される、ほぼ日「生活の楽しみ展」では、イベント限定カラー2色を数量限定で販売いたします。

当日は、職人が一本ずつ丁寧に編み上げた特別なロープ照明が会場に並びます。ぜひ現地で、そのしなやかな手仕事と大らかな存在感を直接体感してみてください。

イベント詳細は下記のコラムよりご覧いただけます。

ほぼ日主催「生活のたのしみ展」に初出展!“今日から始める家づくり”を会場で体験しませんか?
ほぼ日主催「生活のたのしみ展」に初出展!“今日から始める家づくり”を会場で体験しませんか?
皆さまへ嬉しいお知らせです。あの「生活のたのしみ展」に、なんと、なんと……toolboxが初出展します!2026年6月1日(月)から7日(日)まで、WEBを飛び出してリアルな「家づくりの楽しさ」をぎゅっと詰め込んだブースを展開。これまで「実物を見てみたかった!」という方も、この機会をどうぞお見逃しなく!
展示台もPOPもすべてスタッフの手作り。部屋づくりのヒントが詰まった、toolboxブースの見どころをご紹介【生活のたのしみ展】
展示台もPOPもすべてスタッフの手作り。部屋づくりのヒントが詰まった、toolboxブースの見どころをご紹介【生活のたのしみ展】
2026年6月1日(月)から7日(日)まで、新宿住友ビルにて、ほぼ日主催「生活のたのしみ展」が開催されます。ブースの準備もラストスパートを迎えた本日は、賑やかな現場の様子も交えながら、私たちの展示のこだわりをお届けします!
開催概要

開催日時
2026年 6月1日(月)〜 6月7日(日)
11:00〜19:00(最終日は18:00まで)
最終入場は18時45分まで(最終日は17時45分まで)
入場無料

場所
新宿住友ビル 三角広場
東京都新宿区西新宿2-6-1(MAP)

交通アクセス
大江戸線「都庁前」駅 A6出口直結
東京メトロ丸ノ内線「西新宿」駅 2番出口 徒歩4分
JR線ほか「新宿」駅 徒歩8分

■「生活のたのしみ展」公式サイトURL
https://www.1101.com/seikatsunotanoshimi/2026_summer/teaser/

■「生活のたのしみ展」公式インスタグラム
@seikatsu_no_tanoshimi_ten

テキスト:岩崎