実際の空間づくりの中で商品開発に取り組む『studyroom#2』

toolboxが自社購入した物件で、実験的な空間づくりに取り組むプロジェクト「studyroom」。その第2弾『studyroom#2』で掲げたテーマは、「商品を生み出す空間づくり」でした。

「ベッドルームリビングという過ごし方」をコンセプトに、明るい南側に広い個室を設けた『studyroom#2』。

toolboxでは、自社で開発したさまざまな商品を展開しています。ただ、商品は単体で完結するものではなく、実際の空間の中で使われて初めて見えてくることも多くあります。

机上では成立していても、納まりや施工性、空間の中での存在感は、実際に使ってみることで大きく印象が変わることも少なくありません。「空間」と「建材」の両方を扱うtoolboxにとって、商品を「空間の中で使われる」前提で捉えることは、開発を進めるうえで欠かせない視点。

そこで今回の『studyroom#2』では、開発中の商品や新しいアイデアを積極的に取り入れ、空間づくりに挑みました。

「広さ」ではなく「居場所」をつくることを目指したLDK。コンパクト化が進む都市住宅への、新しいLDKのあり方の提案を盛り込みました。(撮影:山下弘毅)

さらに今回トライしたのは、「商品開発チームが内装設計を行う」ということ。

商品開発チームに内装設計ごと委ねたのは、空間の中で商品と向き合うことで、今後の商品企画にもつながる気づきが得られるのではないかと考えたから。

内装設計を担当したのは、2018年にtoolboxに入社し、『クラシックリブパネル』や『スクールシンク』などの人気商品を生み出してきた山下。入社以前は、オーダー家具を扱う会社や老舗の設計事務所で、家具や住宅の設計に携わっていました。

『studyroom#2』の内装設計を手がけた商品開発チームの山下と、基本設計とプロジェクトマネージャーを担当した工事班の一杉。

マスタープランは、工事班の一杉が設計。山下はそれをもとに、目指す空間のあり方と内装材との関係性を考えながら、試作や開発中商品を取り入れた内装設計に取り組みました。

まだ「商品」として完成されていないアイテムを取り入れた空間づくり。実際の空間の中でそれらと向き合うことで、商品開発にどんな気づきが生まれたのか。『studyroom#2』のプロジェクトメンバーの視点から紹介します。

完成した『studyroom#2』にメンバーが集合。山下と共にいるのは、施工管理を担当した工事班の田井(中央)と作図担当の東。

開発中の商品やアイデアを、現場で試し、現場で磨いていく

ここからは、実際に空間に取り入れた開発中の商品や試作にフォーカス。それぞれの開発意図と、設計や施工の現場でどんなやり取りや試行錯誤があったのかを紹介していきます。

木製パーティション

まずは、個室に採用した開発中の商品『木製パーティション』から。

「この商品は、個室の一部を緩く仕切りたいときや、キッチンとリビングダイニングのあいだなど、まさに今回の『studyroom#2』のような、空間を完全に仕切らずに使い分けたいシーンを想定して企画しました」(山下)

空間を区切りながらも、視界の広がりを生み出せる『木製パーティション』。

toolboxでは、空間を間仕切りしながらも抜け感をつくるアイテムとして、『木製室内窓』や『木製ガラス引き戸』『室内アルミサッシ』などの建具を展開していますが、このアイテムはより“壁”に寄ったキャラクター。軸材も鏡板も無垢の木を使っており、板壁材としての存在感も持ち合わせています。

「昔勤めていた内装会社で、よく設計に取り入れていたんです。ただ、こういうものは現場ごとにオーダーしてつくるのが一般的。商品として出来上がっているものがあったら、空間に取り入れやすくなるんじゃないかと思ったんです」(山下)

2枚のパーティションを軸材で連結させています。

今回の現場では当初、2枚のパーティションを天井まで立ち上げる想定でしたが、設置位置に梁があり、形状の調整が必要になりました。

「こうした条件は想定していなかったのですが、実際の空間では十分にあり得ること。今回の経験を通して、そうした状況にも対応できるよう、商品の規格を見直すきっかけになりました」(山下)

「商品」として展開するには、さまざまな現場に対応できる汎用性が求められます。こうした気づきは、商品化に向けた大切なポイントです。

現場では、家具建具工事の職人さんにもヒアリング。施工に携わる職人の声を商品開発担当が直接聞けるのも、今回のプロジェクトならでは。

スチールドア

続いては『スチールドア』。ガラス入りの親子ドアからは視線と光が抜け、個室に開放感を生み出すだけでなく、廊下やLDKとのつながりをつくる要素にもなっています。

実はこの「親子ドア」は、今回の現場で生まれたもの。

「もともとは、片開きドアのみの展開を予定していたんです。それが、今回の空間づくりを進めていく中、個室の出入り口をなるべく大きくしたいと考えていったら、親子ドアの形が生まれたんです」(山下)

スチール製ならではの重厚感は、ゆったりとした雰囲気づくりや「寝る場所」以外の存在感づくりにも役立っています。

こうしたスチール建具は、リノベーション事例などで度々見かけますが、これも金属加工の工場などにオーダーして制作するのが一般的です。

「ただ、オーダーするとなったら、フレームはどのぐらいの細さにするのか、ガラス面の割り付けはどうするのか、枠や取り付け金具はどうするのか。そうしたところまで設計者が考えて図面を描く必要が出てくる。プロポーションや取り付けの面まで規格化されたアイテムがあれば、デザイン検討や図面作成の手間がなくなる。このアイテムのポイントはそこにもあります」(一杉)

フレームの細さやガラス面の割り付け、枠のおさまりなど、山下が細部まで考え抜いたデザイン。

軽量で扱いやすい木製建具と違って、スチール建具は重量があり、配送や搬入、現場での施工性も重要になってきます。

スチールドアの製作工場に行く際は、商品担当の山下と一緒に工事班の一杉も赴き、現場での取り付け方法や納品時の形、搬送方法などを一緒に検討する場面もありました。

スチールドアの製作をお願いしているのは創業90年を超える金物製造工場。山下が自身のネットワークで見つけてきました。

取り付けは、工事班が実際に行ってみました。ドアは、ラッチとストライクの噛み合わせなど、取り付けの精度が求められるものですが、スチールは木と比べて現場での微調整が効きにくい素材。実際に取り付け作業をする中で、そうした取り付けの際の調整幅をどうやって確保していくかが、課題として見えてきました。

インタビュー中も、スチールドアの取り付けについて話し合いを始めてしまう3人。

スリットパネル

個室のベッドまわりには、もうひとつ開発中のアイテムを取り入れています。壁に貼った板壁材、仮称『スリットパネル』です。

ベッド周りの壁にスリットパネルを貼って、寝床のコーナー感を高めました。(撮影:山下弘毅)

人気商品『クラシックリブパネル』に続く板壁材の提案として、山下が開発を進めているこちらのアイテム。「塗装下地付き」と「無塗装品」を販売する予定です。今回は、現場でグレーに塗装して取り入れました。

「塗装下地付きで販売しようと思ったのは、toolboxではこれまで素材の素地を活かしたものや無塗装品の提案が多かった中で、空間の豊かさを広げる選択肢を増やしたいと考えたから。あらかじめ塗装しやすい状態にしておくことで、現場での仕上げの自由度が上がると思いました」(山下)

ちなみにスチールドアも、現場塗装を前提に、錆止め塗装を施した下地の状態で販売する予定です。

「塗装で仕上げる」アイテムなので、イメージしている色や艶感を追求できます。

スリットパネルの塗装下地に使う塗料は、現在も工場と一緒に検討を重ねている段階。

今回の現場では、工場から「塗装下地付き」として届いた試作をそのまま使用する想定でしたが、実際に届いたのは「仕上げ塗装済み」。そのままでは上から塗料を重ねられない状態だったので、一度サンダーで塗膜を落とし、希望の色で塗装しました。

試作段階では、こちらが意図していた仕様と異なるものが届いてしまうことも少なくありません。こうしたやりとりを重ねながら認識を擦り合わせていくことも、商品開発の大事な過程のひとつです。

『スリットパネル』のデザインは2種展開の予定。現在、塗装下地を追求中。

ペイントフロア

山下が空間づくりの中でアイテムを形にしていく一方で、別のアプローチで生まれたアイテムもあります。リビングダイニングのフロアに採用したペイント済みのフローリング、仮称『ペイントフロア』です。

「まさにこのリビングのように、壁や家具にも木が使われていると、床まで木にすると少し主張が強くなってしまう。お互いが引き立たなくなってしまうなと思っていて。そういう時、床をモノトーンにしたいと思うんだけど、素材の選択肢があまりなくて。それが、この商品を開発するきっかけでした」(一杉)

床に『チークウッドフローリング』、壁に『クラシックリブパネル』を取り入れた空間にぴったりハマったペイントフロア。

ペイントフロアの開発担当は、工事班の一杉。全メンバーが商品のセレクトや開発を担っていた創業間もない時代から、商品づくりに携わってきました。現在も「工事班」に所属しながら、施工に携わる側からの視点で商品開発を続けています。

会社の成長とともに「設計施工チーム」と「商品開発チーム」に分かれましたが、所属に関わらず、メンバー誰もが商品づくりに関われるtoolboxの土壌は、今も変わっていません。

床面は摩擦が多いので、耐摩耗性の高い塗料を使い、サンプルテストを重ねてきました。

実はこのペイントフロアの開発は、2024年のプロジェクト『studyroom#1』で行った、「フローリングを塗装でリメイク」という実験からつながっています。

「あの頃にはすでに、“モノトーンの床の選択肢が欲しい”と思ってたんです。『studyroom#1』では“既存を活かす”というテーマがあって、既存のフローリングを塗装してリメイクするアイデアを試してみた。フローリングっぽくない見た目にしたくて、新たに溝を入れてパーケットのように仕上げてみたら、これがなかなか良くて。そこから発展して、今回は600ミリ角のパネルとして実際の空間に取り入れてみました」(一杉)

現場から現場へ。実験を継続していく中で磨かれていくアイテムたち。その積み重ねが商品としてのかたちをつくっていきます。

ペイントフロアの開発実験場でもあった『studyroom#1』。この時は既存のフローリングに溝を彫り、ベージュにペイントしました。(撮影:中村晃)

巾木

一杉が手がけた商品は、もうひとつあります。それは『巾木』。

「え?巾木?」と思いましたか? そうです、床と壁がぶつかる部分に取り付ける、あの巾木です。

床材の収縮への対応や、施工上必要な隙間を隠すほか、掃除機から壁を保護する役割もある巾木。

「ネットの一部界隈では、巾木はデザイン的な観点から付ける・付けない論が熱く議論されてたりもするんだけど、一般的な住空間では“付けるもの”という考え。小さな存在だけど、空間の印象を左右する背景でもあるから、できるだけ目立たせたくない。巾木には、かれこれ10年以上向き合ってる(笑)」(一杉)

こだわったのは、薄さと低さ。今回『studyroom#2』で採用した試作は、厚さ5ミリで高さは20ミリ。しかし、素材に木を使っているため薄くすると反りが出やすく、想像はしていたものの、貼る際には少々苦労したそう。

​​「複雑な材ではないから、やろうと思えばすぐつくれそうなんだけど、いざやってみると、実は難しい。薄さや細さを求めつつ、反りにくい材や反りをなくす加工を研究していきたい」(一杉)

理想の巾木を追い続ける一杉の試行錯誤は、まだ道半ばです。

見てください、こだわりのこの細さ。実用化に向けて、引き続き巾木に向き合っていきます。

インロー棚

キッチン背面の壁に取り付けたこちらの『インロー棚』も、開発中のアイテムです。

「インロー」とは、凸と凹の部材を組み合わせて固定する取り付け方法。棚受け金具が露出しない、スッキリとした見た目の棚が実現できます。

棚受け部分が見えない棚は、飾ったものがよく映えます。

一般的なインロー棚の施工は、まず壁の下地に金具を取り付け、金具のパイプ部分が突き出るようにボードを貼って、壁を仕上げ、穴あけ加工を施した棚板をパイプに差し込む、という手順。軽やかな見た目に反して、なかなか手間がかかります。

今回開発しているのは、「インロー金具」と「穴あけ加工済みの棚板」をセットで販売するもの。金具は、面で下地を入れた壁の「仕上げ面」から取り付けられる仕様で、施工の手間を軽減できるうえ、棚板加工の手配も不要になります。

空間と施工、両方の視点を持つ私たちだからこそ、こうした手間に着目し、解決するアイテムとしてかたちにしました。

面で下地を入れた壁の仕上げ面から取り付けることができます。

このインロー棚は開発がほぼ完了しており、現在は施工の実証実験フェーズ。工事班が実際に取り付けてみた感想は施工要領に活かされたり、商品コラムを担当するPRチームのメンバーにも共有されます。

良いアイテムができても、ウェブストア上でその魅力が伝わらなければ意味がありません。「自分たちでやってみる」「その体験を共有する」ことは、商品の魅力を伝えていくうえでも欠かせないステップです。

インロー棚のPRを担当する庄司に、施工方法を丁寧に解説する現場歴40年のベテラン・田井。

ステンレスキャビネット

最後に紹介するのは、キッチンの下台に取り入れた試作のステンレスキャビネット。実はこれ、「キッチンをつくろう」として生まれたものではありません。

「元々、開発を進めているステンレス製の吊り戸棚があるんです。『studyroom#2』にどんなキッチンを入れようか考えているときに、“これにシンクとコンロを載せれば、キッチンになるんじゃない?”と思いついて」(山下)

いかつい蝶番とバイブレーション仕上げの静かな表情のギャップが個性。

いざつくってみたら、バイブレーション仕上げのステンレスの表情は、明かりを受けてもギラつかず、それでいて業務用然とした佇まいが空間のスパイスになる、オリジナリティのあるキッチンが完成。キッチンとして製作するのは初でしたが、思いのほかうまくいきました。今後は、設備機器との兼ね合いや内部構造の検討を継続していきます。

「頭の中では“良い”と思っているアイデアも、それを実際の形にできる現場がないと成立しない。でも、お客様の家では、こういう冒険はなかなかできない。そうした試作にチャレンジできたことも、『studyroom#2』での大きな収穫でした」(山下)

実際の空間づくりをきっかけに、アイテムの可能性が広がっていく。今回のプロジェクトを始める際に思い描いていたことが、こうしてひとつの形になりました。

作図担当の東と何枚も図面を描いて検討したキッチンは、思い入れもひとしお。

「現場」での経験と気づきが、モノづくりに活かされていく

商品開発につながる場として、空間づくりに取り組んだ今回の『studyroom#2』。印象的だったのは、「この現場だからこそ実現できた試み」が多かったこと。

「自社購入物件で、商品開発につながる場にしようというテーマもあったから、“空間の中でこう使いたい”、“こういう組み合わせを試したい”がダイレクトに反映できた。今回のプロジェクトだから形にできたアイテムは多かったと思います」(山下)

設計打ち合わせのひとコマ。開発中アイテムを実際の空間に取り入れることは、設計過程での気づきや学びも多くありました。

さらに今回は、商品開発チームが内装設計を担当し、工事班とともにかたちにしていくという、これまでにない進め方でもありました。

「商品開発チーム主導で空間づくりに取り組んだことは、改めて空間全体から素材やアイテムを考える機会になったと思います。日頃から、空間設計の目線に立って商品開発に取り組んではいるけど、やっぱり実際の空間づくりの中だからこそ気づけたことは、多かったですね」(山下)

実際に空間の中で使ってみることで、図面や想定だけでは見えなかった気づきを数多く得られました。そうした発見を商品にフィードバックできることも、このプロジェクトの大きな成果です。

田井は施工の実証実験で大活躍。東は、試作や造作家具の作図をいちから描いたことが良い経験になったそう。

「今回の経験は、商品開発チームの“空間づくりのためのこんなアイテムを生み出したい”というアイデアを、どう形にしていくかというプロセスに、工事班が今以上に深く関わっていく土壌づくりにもつながったと思います。そうしたコミュニケーションが商品開発の過程で増えていくことは、toolboxが目指す、素材と空間のシームレスなものづくりにも近づく気がしています」(一杉)

今回取り入れたアイテムはまだ商品化が確定しておらず、これからも試行錯誤を重ねてブラッシュアップしていく段階にあります。中には、今回のかたちから大きく仕様が変わるものもあるかもしれません。それでも、今回の現場で得られた気づきや検証の積み重ねは、確実に次の商品開発へと活かされていくはず。

「空間づくり」の目線からの商品づくりが、ぐんと深まるきっかけになった『studyroom#2』での取り組み。現場で生まれた気づきが、次の商品開発へとつながっていく。そんな循環をこれからも重ねながら、toolboxのモノづくりは進化していきます。

『studyroom#2』を経てパワーアップした商品開発チームと工事班の今後のモノづくりにご期待ください!

商品を生み出しながら、暮らしの提案にも挑んだ『studyroom#2』完成!
商品を生み出しながら、暮らしの提案にも挑んだ『studyroom#2』完成!
toolboxが自社購入物件を舞台にリノベーションに取り組んだ『studyroom#2』。試作や新商品を取り入れながらも、出発点にあったのは「どんな暮らし方を提案するか」という視点。そこから導き出されたプランを活かす内装のあり方にこだわりながら、商品の可能性や魅力を引き出すことにも向き合った空間が完成しました。
テキスト:サトウ