「お邪魔します、こんにちは。あ、お久しぶりです……わぁ!!!」挨拶も間もないうちについワオ!と口から飛び出してしまった私。
今日は「ASSY」でのリノベーション工事を終えて、住み始めてから2年ほど経つ薫さんのお家へ取材にやってきました。ASSYとはtoolboxが提供する定額制のフルリノベーションパッケージ。使う素材はあらかじめ組み合わせ済みで、間取りは一から自由に組み立てることができます。
玄関を入ると廊下…ではなく、ゆったりとホールのような空間。その先に左右に広がるリビングがあり、しっかりした門構えのように本棚が両サイドを固めています。
家の中の拡張する図書館
薫さんご家族はご夫婦と幼稚園へ通う息子くんの三人家族。お仕事柄、たくさんの本をお持ちです。並んでいる本たちはジャンルレスで、小説や新書、漫画やムック本も本棚に収まっています。
キッチン前の薫さんが自作した本棚には、料理にまつわる書籍が並べられていました。
たくさんある本は基本はサイズで分けられていて、ジャンルもご夫婦どっちのものも混ぜこぜ。家族で本を共有しているので「あ、その本はここにあったんじゃなかったっけ」「これに載ってなかったかな?面白いよね」と、本を中心に会話が盛り上がる、まさに本の虫な一家です。
たくさんの本に囲まれるこのお家。リノベーションするにあたって一番大事にしたことを聞いてみました。
「南北に風が抜けるような開口を作ったり、本棚の各段の高さにはすごいこだわりました」とは、ご夫婦揃っての意見。
元々細かく仕切られた間取りで、閉鎖的なキッチン空間があったりしたのですが、各部屋の壁の上部に室内窓や開口を設けることで、風通しをよくしたといいます。
「本がたくさんあるので、湿気を気にしていて。風が通ることを考えて作りましたけど、光も通るんだなって。気持ちいいですよ。」
本棚は工事の時に造作してもらう場所、DIYで作るところ、組み立て式の置き型を使うところ、と使い分けをしています。全部を造作すると工事費用が嵩んでしまうので、後から自作でも良い部分などと切り分けてプランニングをしました。玄関を入ってすぐのスペースには、まだまだ置き型の本棚を置けるスペースが余白として残されています。
「仕事柄、好きな古書店に行って買ったり、もらうこともあってどんどん本が増えていくんですよ。今の環境は、本が増えても大丈夫な安心感がすごくあります。」
薫さんご夫婦にとって、本をストレスなく置くことができることも、大好きな本を心ゆくまで楽しむのに大事な要素のひとつなんだなと感じた一言。実際にそれを叶える事ができたことに、お話しを聞いてとても嬉しくなりました。
DIYの作業部屋は将来は息子くんのお部屋の予定だそうです。「間仕切る方法をこれから考えるのが楽しみなんです!」と、薫さんはDIYに積極的。作業部屋というスペースがあるので、1日の終わりに片付けに追われず、次の日もスムーズに続きからスタートできることが、作業がはかどるきっかけにもなっているそうです。
街の景色をナナメ読み
このマンションがあるのは多摩ニュータウン開発の最後の区画の稲城市エリア。この場所に決めた理由はなんだったのでしょうか?
「私が団地から育ったこともあって、団地にいい思い出があるんです。夫も宝塚のニュータウンで育ったので、団地やニュータウンに惹かれるものがありますね。」そう話してくれたのは薫さん。
団地や街といったキーワードから、景観や建築に昔から興味があったのか伺うと、「そこまで建築とかに造詣が深いというわけではないんです」と言いながらも、面白い視点での街の見方を教えてくれました。
「ちょっと話はズレちゃうんですけど、トマソンっていう芸術的概念が好きで。例えば、意図せぬ増改築をした結果、2階の外壁に残された扉とか、途中で終わってる階段とか、意味のないものみたいなやつです。」
※トマソンとは:主に都市空間に見られる、不動産と一体化しつつ「無用の長物的物件」となった建築物の一部のことを指す。トマソンの語源は、元プロ野球選手で、読売ジャイアンツに所属したゲーリー・トマソンに由来する。(美術手帖ART WIKIより参照)
「なのでそういった視点で建物や街を見るのは好きですね。でもニュータウンにはトマソンはなくて(笑)。トマソンはないけれど、ニュータウンは歩道が広く整備されていて、植え込みの幅も広いので車道との距離感もある。なので子供と歩いていても安心感があります。子供がのびのびと遊べる環境があったのが、このエリアを選んだ理由かもしれません。」
大量の本からの知識とサブカルチャーにも通ずるご夫婦。お話しを聞くとたくさんの面白い横道トークが広がっていくのですが、私の疑問は「なぜ型の決まったパッケージリノベーションを選んだか?」こんなご夫婦なら、自由設計を選んでもおかしくはないと思ったのですが…ASSYを選んだ理由を聞いてみました。
パッケージ工事でやれないことがあるなら、自分たちでやればいい
ASSYへのお問合せのきっかけは、団地好きだったために『東京R不動産』をよく見ていたから。その兄弟グループであるtoolboxが出した『toolbox -家を編集するために-』も読み込んでいたし、ここなら間違いないだろうと思ってくれたそうです。
私が覚えているのは、ASSYでリノベしたいという薫さんからの質問に、「志村さんに向いているのはASSYじゃないかもしれません…」といったようなお話しをしたこと。(今思うと本当に失礼だな…すみません)
というのも、希望の内容や優先したい変更点など伺うと、小上がりを作りたい希望やASSYとは違ったイメージ写真を共有された私は、前述の通り、自由設計でのリノベーションをご案内した方がいいのかもと思ってしまったのです。ASSYだと小上がりは作れないし、漆喰も選択肢にはないし、あれもこれもオプションになっちゃいますよと私はネガティブなことばかりお伝えしてしまったような気がするんです…。
「全然、覚えてないですよ!!自分の耳障りが良いことしか覚えてないかもしれないです(笑)。むしろ、最初に話を聞いた時は何ができる・できないの境界線なのかがわからなかったので、逆にはっきり伝えてくれて良かったです。」とは薫さん。
「実は他社のリノベ会社も3社くらい見たんですが、その内の1社は特筆して価格が高く、他2社はリノベ後のイメージがわかずお断りさせていただきました。ASSYはパッケージになっていることでイメージがわかりやすくて楽でした。」
そう言ってもらえて、数年越しの後悔が報われた私。ありがとうございます。
たくさんの本たちの居場所である本棚は、オプション費用にはなるけれどASSYのイメージの中で追加していく事も可能だと事前にお伝えさせていただきました。ただ、ここは本の量が尋常じゃない…。全てを工事で作っていたら、費用が嵩んでしまいます。
なので元々ものづくりが好きだった薫さんは、予算でできないことを諦めるのではなく「じゃあ自分たちで作ればいいか」とポジティブに捉えてくださいました。そこからは図面に、ここのエリアは自分たちで本棚を作ろうと落とし込んで、事前に下地を入れるという未来のための下準備を行いました。
「分かりやすいリノベ」に身を委ねてみて
「実際にリノベしてみて思ったのは、初めてのことなので、伝わっているのか、相手の言葉が理解できているのかがわからなくて不安だったなというのはありました。」
2回目の打合せの際、薫さんが風邪で欠席しご主人だけで参加だった際に『天井をなくす』というプランに相違が生じたそう。薫さんはパッケージ工事の中で天井が躯体現しになることを知っていましたが、ご主人はそのことがいまいち理解しきれず…曖昧なままに打合せを終えたそうです。
「天井を作ると空間の高さも変わるしお金もかかるし、私は作らないんだよなって思ってたけど、でも夫婦で会話してみたら、夫は『あれ?天井って作るんじゃなかったっけ?』って。今思うと結婚式みたいですね。家づくり。」と薫さんは笑って話してくれました。
そんな曖昧さから生じるズレの確認には、ASSYの“打合せ3回”がちょうど良かったそうです。
「打合せで確認が一個づつ終わっていく感覚が良かったです。そこで認識間違いに気付けたり。3回という回数も、家づくりに慣れていないからこそやりやすかったです。これ以上回数が多くても、決められなくなりそうで。」
限られた回数で確認を終わらせていくプロセスが、認識違いを間延びさせずに工事開始まで導いてくれたのかもしれませんね。
自分たちらしく心地よく暮らすには何が重要なんだろう?と向き合ってみると、そこにはストレスなく本が見渡せ、ピタリと収まる高さの本棚や、風や光をとおす工夫が必要でした。難易度が高いところはプロに任せて、費用を抑えるところはDIYで抑える。自分たちで手を動かすことで家を変化させていけることを楽しんでいる薫さんご夫婦に、リノベのベースとしてASSYはまさにピッタリだと感じました。
増えていく本や成長する子供のことも見越して、必要ならば自分で手を加えることも想定しての家づくり。時にはナナメな視点から物事を捉えるご夫婦による、余白も加味したリノベーション。これから余白にどんな図書館が作られていくのか、とても楽しみです。