隣家よりも少しだけ建物の高さを高くし、北側の窓に高窓を設けて安定した採光を確保できるように。※工事中の写真のため手摺がありません。(撮影:傍島 利浩)

住宅密集地に立つこちらのお家。間口4M、奥行きが最大30Mほどもある細長い敷地は、まさにうなぎの寝床。

東西の敷地は、それぞれ私道に接しています。日照、通風、眺望を確保するために、居室は全て2階にもちあげて、両方向からアクセスできるよう、家の表と裏、それぞれにエントランスを設けたのだそう。

(撮影:傍島 利浩)

東西それぞれピロティを通って中央のホールより建物にアクセスするという作り。

住宅密集地の中にぽっかり生まれた余白。用途が定まっていないこの空間は、子供たちの遊び場となったり、友人を招いてBBQをしたり、時にはバザーをしたり、多目的に利用できる空間です。

(撮影:傍島 利浩)

1階のホールは用途を限定しない作りにしつつも、住まう方の手掛かりになるよう、反復した袖壁に沿って家具が嵌め込まれています。

1階と2階を区切って使うため、将来的には店舗にしたり、住宅以外の用途に使える可能性も秘めています。片方のピロティを街に開き、もう片方のエントランスは家族のプライベート用に使い分けるなんてことも可能です。

密集した街区に反した空白とも言えるピロティを含んだ1階の空間は、街と住宅、両者にとって様々な可能性を含んだ場となっています。

(撮影:傍島 利浩)

嵌め込まれた家具によって、暮らしぶりがぼんやりと浮かび上がります。

『フラットレンジフード』の壁付けタイプを90度回転させて設置しています。(撮影:傍島 利浩)

2階の空間は、構造となる下がり壁を高窓の位置に一定の間隔で反復させることで、壁を極力なくしたリズミカルな構造形式を取っています。奥に長い伸びやかな景色をそのまま生かすための工夫。

キッチン側面の壁は、石灰クリームの仕上げと色味を揃えるため、『塗装のキッチンパネル』が採用されています。ラワン合板と同じ厚みのため、石灰クリームの見切り材としても働いています。

(撮影:傍島 利浩)

下がり壁や天井は、ラワン仕上げに。

既製サッシの寸法に合わせて見切ることで、見た目の印象をすっきりと整えるだけでなく、材料のロスを最小限に抑えています。

(撮影:傍島 利浩)

塗り壁の高さにも、実は工夫が潜んでいます。この壁の高さ、左官職人が脚立に乗らなくても施工できる高さに設定されているんです。施工のしやすさは、工期の短縮に繋がり、住まい手が自分たちでメンテナンスしていくことにも繋がっていきます。

施工性をデザインへと昇華するアイデア。日々出会った職人さんとの対話や気づきを大切にしている設計事務所ならではの心配りを感じます。

(撮影:傍島 利浩)

水周りも同じ仕上げ材で統一。木と白とのコントラストが美しい、さわやかな印象の空間に。

(撮影:傍島 利浩)

2階に設けられた3つの居室は、可動式の家具ユニットで仕切られており、スライドさせることで必要に応じて部屋の大きさを変えることができるようにしてあります。

子供たちの成長やそれに伴う家族の変化を、そのまま柔軟に受け止めてくれる驚きのアイデア。

(撮影:傍島 利浩)

「職人と話し合い納まりを決めていく過程で、最終的に図面から寸法が消えていったんですよね」とこの住宅を設計した担当は振り返ります。

職人たちとの集合知から合理的に形を決めつつ、多様な暮らし方を受け入れられる寛容な拠り所を目指している。まさにその言葉を体現している、つくる過程や住んでからの暮らしのことを大切に考えつくられた、素敵な住まいの事例です。

Ishimura+Neichi|石村大輔 + 根市拓

石村大輔と根市拓により2017年に設立された、東京・千住を拠点に活動する建築のデザインスタジオです。建築の設計をはじめ、インテリアや展覧会の会場構成、プロダクトや家具のデザインまで活動は多岐に渡り、職人の叡智や技術の蓄積の中で生まれる実直なデザインや素材や構法へ関心を持ちながら、日々の設計に取り組まれています。

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