何もないけど満たされる、そんな村で新しい人生が始まる

今回紹介する物件は、築50年の古民家をリノベーションしたお宅。

暮らしているのは、岐阜県から沖縄県北部にある今帰仁村(なきじんそん)に移住してきたご夫婦です。

ご夫婦にとって今帰仁村は、15年前に初めて訪れたその日から惹かれ、毎年、年に3回ほど通い続けていた場所でした。

(撮影: はる(umi+photography))

ご夫婦が今帰仁村に惹かれた理由は、大きく2つあります。

1つ目は、人の温かさ。

「観光客だから、お客様だからなどという他意は、彼らのおもてなしからは感じませんでした。

ゆっくり回ってみると、小さな商店やこじんまりとしたカフェ、昔ながらの海の家など、魅力的なお店がたくさんありました。そして、どこに行っても迎えてくれるのは、ただただ優しい村の人たちでした」

2つ目は、自然の豊かさと美しさ。

「まだまだサンゴがたくさん残る海は、少し沖に出ればウミガメに出会える。やんばると呼ばれる亜熱帯の森では、ダイナミックな植物たちのパワーに圧倒される。

滞在はほんの数日でも、ここでしか触れられない特別な空気に包まれると、身体が軽くなるのを感じました」

今帰仁村は、「何もないけど満たされる」そんな村なのです。

 

年に何回か旅行にいく日々の中で、沖縄で暮らしたいと自覚するようになったきっかけは、数回目の沖縄旅行から帰ってきて、ヒールを履いたときに違和感を感じたこと。

「一日中ビーチサンダルを履いて、ビーチの砂のジャリジャリとした感覚と一緒に過ごしていたんです。足が汚れても、濡れても、それはそれでいいやと思えるような、そんな感覚がすごく好きだったんだなと気づいた瞬間でした」

この日を境に、当たり前と思っていた暮らしや働き方に、なんか違うのかも?と感じるようになったそうです。

そこから、長く勤めていた会社を退職し、沖縄移住に踏み切った理由はなんだったのでしょう。

「春の朝、晴れていたら、会社に行かずに桜を見にいきたいから。

祖母は桜が好きで子供の頃からずっと一緒にお花見に行っていました。それが社会人になってからは、土日にしか行けません。土日にタイミングよく満開で、天気が良いという条件はなかなか揃わず『ああ、今日は桜がきれいだろうなあ』と、通勤の車を運転しながら何度も何度も思ったものです。

天気が良ければ朝から海を見に行くし、暑かったら山へ滝を見に行く。

会いたい人に誘われたら迷わず会いに行く。

そういう暮らしと働き方ができるようにする、というのが私が沖縄に来た理由のひとつです」

念願の古民家購入までの道のりは過酷だった

購入した際の家の様子

沖縄では一軒家に住みたいと願っていたため、移住当初はアパートに住みながら、村内を散歩して空き家を探し始めました。

実は、その時に見た家が現在暮らしている家なのですが、見つけた時から2年ほど過ぎたときに、友人が「売りたいって言っている人がいるよ」とたまたまその家の売主さんを紹介してくれたのです。

沖縄県内の古民家は、普段は空き家になっていても、先祖代々の仏壇が残されている場合があります。沖縄の方々はご先祖への信仰をとても大切にされていて、お盆や正月などには、仏壇のある古民家に親族が集まって過ごされることも多いそうです。そのような事情もあり、県外から来た者に古民家を譲っていただくことはなかなか難しい現状があります。

「タイミングよく紹介してくれた友人がいなかったら出会うことはできないお話でした。

移住してからの2年でいろいろな方と仲良くさせてもらうようになり、友人・知人の縁に恵まれたことが、今回のお話につながったと感じています」

しかし、購入に至るまでには古民家ならではの大きな問題が沢山ありました。

・建物の登記がされていない
・現存の家が建つ前に、茅葺き屋根の家が建っていて、その登記が抹消されていない
・土地・建物ともに測量がされていない
・今帰仁村は下水がないのに、浄化槽が埋められていない
・個人事業開業2期目のため、住宅ローンが通らない

不動産に関しては何の知識もなかったので、素人なりにいろいろと調べたり、知り合いの不動産屋さんに相談に乗ってもらったり介入してもらったりすることで、なんとか全てクリア。

「この段取りをしている時期は本当につらかったです。何度もあきらめようと思いました。

個人事業主の立場で、古い家を個人売買するというのは、ほんとうに大変なことだなと実感しました」

大工見習い中の旦那様も一緒に手を動かした

購入までの複雑な手続きを経て、遂にリノベーション工事が始まりました。

この家の佇まいが気に入っていたため、古さを大切に、古民家としての風貌を残すことを心がけたそうです。

工事を手掛けたのは、大工の親方と大工見習い中の旦那様!

脚立に乗って、天井に断熱材を詰める旦那様

親方は奥様がアルバイトしているカフェのオーナーの旦那様。

1人大工でなんでもできる方で、自宅の改装を頼むことになったそうです。

そんな心強い親方の元で、本業はネイチャーガイドでありながら、大工見習い中でもある旦那様が指導を受けながら、工事を進めていきました。

まず、最初に決めたのは間取りで、沖縄に昔から伝わる風水的な間取りの考え方を取り入れ、水回りの位置から順に決めました。いつかお店をやりたいとなった時のことをイメージして「お店っぽいつくり」も意識されたそうです。

50年の歴史が詰まった古材を使い、色を取り入れるのはタイルだけ

今帰仁村は自然豊かで周辺も木に囲まれていますが、内装にもふんだんに木を取り入れました。

リビングの壁には、元々古民家の床材だった板と、歴史ある理容店で使われていた床材が貼られています。

どちらも50年余の時間が刻まれているため、貫禄たっぷりです。

沖縄の伝統的な民家は、玄関という概念はなく、縁側から出入りするのが一般的です。各部屋の仕切りがなく、家全体に風が通るように間口が広く開放的な住空間で玄関らしき場所は元々ありません。

ですが今回は、奥様が「玄関を開けてすぐに部屋」という間取りが好きだったので、玄関を設けることに。ただ、玄関スペースや廊下に面積を取るのではなく、居住スペースを広く取りたいと考えていたこと、間取りとの兼ね合いで、真ん中に玄関を配置することが決まりました。

そして、部屋が明るくなるように、上半分がガラスの玄関扉を採用。

多方向から太陽光が入って来て、周辺の緑も見えて、部屋にいるときも気分が上がりそうです。

キッチンカウンターにも古材を使用

玄関を入って右側には、キッチンがあります。

家の中に沢山取り入れられた木材の味わいを生かすため、室内の色味は抑えて、色を取り入れるのはタイルだけに。

キッチン空間が引き締まるように『レトロエイジタイル』を採用していただきました。

キッチン本体の天板は『オーダーキッチン天板』で、支えは造作でオープンな収納に。

水栓は『クロームメッキ水栓』を合わせています。

 

洗面空間もタイルで色を取り入れました。

洗面の水栓は『ニッケルサテン水栓』で、タイルは『水彩タイル』で色はセラドン。

照明はコンパクトながら味わいのあるデザインの『ミニ磁器レセップ』です。

薄くて明るい色のタイルを合わせることで、明るい雰囲気に。朝起きてここで歯を磨いたり顔を洗ったり……爽やかな朝を迎えられそうです。

(撮影: はる(umi+photography))

さらに、トイレの背面にもタイルを使用しています。

白くて明るいタイルを一面だけでも取り入れることで、清潔感が感じられます。

(撮影: はる(umi+photography))

そんなトイレの扉は、古民家の雨戸だった板を扉に加工したもの。

一つ一つ木の色や表情が違くて、ここだけにしかない、たった一つの扉になっていて愛着が湧きそうです。

直感が磨かれた家づくり

実はここのお宅、工事を進めながら内装について現場で相談し、実際の空間に立ってその場で決めていったそうなんです。

(撮影: はる(umi+photography))

「私もほぼ毎日現場に出向いて、その場で相談して、間取りやタイルの色、キッチンのサイズ、などなど少しずつ決めながら進めていただきました。

親方は、図面を引かずにその都度施主の意見を聞きながら作業していただけるスタイルなので、実際に変化していく様子を見ながら考えられたのがありがたかったです」

図面をみてその空間をイメージするのは、案外難しかったりしますよね。

実際の空間に立ち、目で見て、雰囲気を感じて、「ここにタイルを貼るから色は何がいいかな」という風に決めていけるのは妄想が広がり、「こうしたい!」という気持ちが湧き出てくるように思いました。

つくりながら決めていく、そんな家づくりは理想的だなと感じる一方で、この家づくりの形を他の方が取り入れるには難しい点があるのも現状です。

商品の納期問題や、現場で話し合って決めるスケジュールの余裕がなかったり、設計して発注して施工するという風に工程が決まっていたり、プロ側からすると懸念点が色々あるのです…。

今回は、1人大工だったことやもともと近しい仲であったこと、毎日現場にいって密にコミュニケーションをとっていたからこそできた家づくりなんだと思います。

「自分たちが『良い』『すてき』と思っている内装やインテリアの写真を集めて親方に見てもらい、最初にイメージを共有しました。もともと家族ぐるみで仲良くしていただいていたこともあり、何かと思いが伝わりやすかったのかもしれません。

つくり手の方に自分たちの価値観をよく理解していただくことが重要なのかなと感じました」

親方に作ってもらった本棚。側面に穴を開けたら猫の遊び場にもなるなと考えたそう。(撮影: はる(umi+photography))

工事をしながら決めるというのは難しくても、決めきれないところは余白を残して住みながら手を加えたりはできるかもしれないなと思ったりします。

ちなみに、私は現在実家暮らしで、トイレの床や部屋の床を変えたり、壁に色を塗ってみたり、暮らしていくなかで出てきた「こうしたい」という思いを叶えてきました。ちょっと手を加えただけでも変化がすごく感じられるので、住みながら少しずつ手を加えていくのは、工程も含めてすごく楽しいです。

また、一気にいろんなことを決め切らなきゃいけない状況を負担に感じてしまうタイプなので自分にはあってるかも、なんて思ったりします。

皆様もそれぞれが自分にあった方法を見つけ、家づくりの過程を楽しめるといいなと思います。

家ができたことで変化した沖縄での暮らし

本が並べられた空間、わくわくします。

現在完成した古民家では、月に1回はなうた書房という書店が開かれています。

奥様は編集者で、タイトルやその存在感、手に持った時の感触など、なんだか気になってしまう本との出会える場所を今帰仁村に、という思いがあり書店を開くことになりました。

「たくさんの情報に囲まれる現代において、スマホやパソコンから目を離し、静かに好きな本を読めることは、なんだか贅沢に感じるようになりました。自分の時間ができたら本を読む、という『余白のある暮らし』ができたら素敵だなと思っています。

はなうた書房をオープンしたことで、さらにご縁が広がったり、自分自身の仕事への思いをあらためて実感しています」

パワフルな旦那様は沖縄の素晴らしい環境を活かし、ネイチャーツアーガイドを目指して奮闘中。

ネイチャーツアーガイドはカヤックを何台か持っている必要があります。しかし、今まではカヤックを置く場所がなかったので独立してツアーガイドをすることはできず、いくつかのツアーショップのヘルプとしてガイドを務めてきたそうです。

今回ようやく戸建が出来上がり、家に置けるようになったので、カヤックを購入し、今春の独立に向けて準備を進めているそうです。

(撮影: はる(umi+photography))

「家ができたことによって、自分たちの居場所というか、世界というか、人とのつながりというか、そういったものが一気に広くなっていく動きを感じつつ、2匹の猫たちとのんびりと過ごしています。

近年は地方への移住を考えられている方も多いと思いますが、良い意味で、住んでみないとわからないことが多いと思います。

もし住んでからの不安を抱えて迷っているのであれば、思い切って住んでみることをおすすめします!」

Instagramやnoteで、沖縄での暮らしや家づくりの過程をみる事ができます

てしがわらひろこ

編集、執筆。岐阜→沖縄。出版社勤務→フリーランス。小さな書店「はなうた書房」を月1回オープン。おもしろい夫と、猫のワビとサビ。これからの暮らし方や働き方、ネコのしあわせを日々考えています。

はなうた書房

沖縄北部、今帰仁村にある小さな書店です。毎月23日のみ営業します。
大切なあの人へ、大切な自分へ、贈りものにしたくなるような本を集めます。小さな出版社さんの本が中心です。新刊のみお取り扱いしています。

テキスト:三上