ダクトレールは木で囲って。長手に伸ばしてラインを効かせつつ、木の表情で躯体天井の荒い印象を和らげています。

東京都内のカップルがお住まいになるマンションということですが、古民家のような佇まいにドキドキします。

お二人で案を出し合って、形になったというこちらのお部屋。玄関から土間を広く取り、廊下はなし。そして空間の真ん中に小上がりと、潔い間取りが楽しい!

マンションらしい躯体と土間や『足場板』という外っぽさ、繊細な建具に畳という異素材がミックスした他にはない空間にセンスを感じます。「足場板」は、中古の足場板に鉄サビ風の塗装をした「あっさりサンディング」を採用いただきました。

手前の戸の左側は、同じ足場板が続く寝室になっています。

宮田さんのリノベーションにおいて、キーとなる和の要素。こちらの物件で象徴的なのはやはり畳の小上がりです。こちらは、ダイニングとして使われるそう。

躯体現しの天井に「足場板」のフローリングという荒さの主張が強い空間において、畳の端正さが際立ちます。

畳のダイニングには、和室の床の間や床脇にあたるスペースを造作。左に配置した古家具がグッと深みをプラスしていて、ちゃぶ台と座布団を合わせたい衝動にかられます。

一方で躯体壁をあらわにすることで、和室の形でありながらもインダストリアルな印象を残しています。

テイストが混ざり合っているからこそ、床の間に飾るもののテイスト次第で、空間の印象を変えられそう!作家物の陶器や壺、渋い置物なんかも似合いそうだけど、北欧デザインの花瓶などモダンな印象もいいかも……と妄想が膨らみます。

LDKに小上がりがある空間を想像してみると、家事の合間にふと腰掛けたり、ちょっと疲れた時に寝転んだり、お風呂上がりのストレッチもルーティーンに取り入れやすかったり。直感的に過ごしやすいんだなと感じます。

個人的には、小さいお子さんが過ごしやすいように小上がりをつくるイメージが強かったのですが、ちょっとしたベンチにも、壁のない仕切られた空間にも、ゴロンと寝こがれる場所にもなる。大人二人暮らしでも活躍する小上がりの可能性に気づきました。

渋いタイルには、『ハンガーラック』が。置いたり掛けたり吊るしたり……。

キッチンには、畳とリンクするグリーンのタイルを。古いビルを思わせるムラのある表情に惹かれます。

オーダーキッチン天板』と合板で造作したキッチンに、『フラットレンジフード』を合わせて、タイルや畳、「足場板」の個性を生かすミニマムなデザインに。

畳に面したガラス戸の先は土間になっています。玄関直結の土間は、リビングとほぼ同じ広さの自由に使えるスペース。どういうふうに使おうか、こちらも妄想が膨らみます。

壁一面のシェルフに好きなものを詰め込んで、ガレージのように自転車などをいじってみてもよし、間仕切りを設けて二人のワークスペースにしてみてもよし。お店のように服をしまうクローゼットにしてもいいかもしれません。

格子や型ガラスから光が漏れる建具たちの先はサニタリー。

和とインダストリアル、古さと新しさ。対局にあるかと思われるものが混ざり合った空間は、部屋のイメージを規定せず、どんな家具や持ち物にも馴染むはず。空間の役割も決めつけないことで、趣味やライフスタイルが変わっても、自分で使い方や見せ方を変えていけるのだと感じました。

「家っぽくない」からこそ、それだけ選択肢が広く自由にやれる。住む面白さが続いていきそうな予感がしました。

宮田一彦アトリエ

古家の改修が大好物な鎌倉の設計事務所です。
現状残された要素を自分なりに解釈して住みやすい空間に再構築。 傷や汚れも「味」に思える空間が理想です。 懐古趣味ではないれけど、ベースである古家へ敬意を払う。そんな想いで設計しています。

テキスト:庄司

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