目にする度に、元気を与えてくれるようなイエローのテラコッタタイルと、同色のマーモリウムを床に使ったキッチンダイニング。足元から広がる温かな色彩は、ここに身を置くだけで、自身の存在を肯定してくれるよう。穏やかで前向きな空気に満ちた空間です。

この家に暮らすのは、建築に携わるご夫婦と2人のお子さんの4人家族。ビンテージマンションをリノベーションした住まいです。

色や素材の選定は、すべてお施主様ご自身が担当。仕事柄、様々な家づくりの素材に触れてきたご夫婦ならではの「好きなもの」が詰め込まれています。

まず目に入ってくるのは、みんなで集まって料理が楽しめる、オープンなII型キッチン。

お部屋の中心にあるからこそ、家具らしいディテールにこだわった。水栓は『ハンドホース水栓』を採用いただきました。

リビングに面する部分はラワン材と天然ラタンで造作。厚みはわずか6mmのステンレス天板を、少し浮かせることで、置き家具のような柔らかな佇まいに仕上げています。

右の壁面は、お子さんの作品を展示するスペース。その奥のカーテンはパントリーへの入り口になっています。流木をカーテンレール代わりにするアイデアも、この空間に似合っていて素敵です。

背面のキャビネットもラワン材で造作。ステンレスの『把手の金物』を合わせ、シンプルな見た目に整えています。

主役となる場所以外は、要素を削ぎ落として引き立て役に。ガスコンロには『ガスコンロ プラスドゥ』。

ダイニングの壁面には、キッチンと同じラワンベニヤを採用。素材を揃えることで、空間全体に一体感をもたらしました。

壁の仕上げは、板の継ぎ目にわずかな隙間をつくる「目透かし貼り」という手法。キッチンのディテールといい、細部の丁寧なつくり込みが、身近な素材の質を引き上げています。

窓辺には、つぎはぎされたカーテン。光によって浮かぶ模様が楽しめる。

ダイニングのレイアウトは、元々愛用していた家具を図面の段階から反映して計画されました。あえてコンパクトにまとめたダイニングは、食卓を囲む人との会話がはずむような、心地よい距離感を生み出してくれそうです。

キッチンに立つ人との距離も近く、料理中も賑やかに過ごせそう。

角部屋に位置するこの家は、窓から陽光がたっぷり差し込みます。その温かな空気感を更に高めているのが、室内の色のセレクトです。

リビングの壁と天井は、一見すると白にも見えますが、実は「レモネード」という名前のカラーで塗装されています。床はオークのフローリングに「ナツメグ」というカラーオイルで仕上げました。

色の名前まで美味しそうで、なんだかハッピー。元々愛用されていた家具とも見事に調和していて、空間全体を懐かしく、穏やかな雰囲気にみせてくれています。

天井は、コンクリートをそのまま見せる躯体現しではなく、壁面と同じ色で塗装して仕上げています。壁と天井がひと続きになり、より広く明るい印象になりますね。

窓周りには、カーテンレールと一体になったディスプレイスペースが造作されています。

窓が多い間取りは開放的な反面、壁面が少なくて写真や小物を飾る場所がないという悩みも。そんな問題を解決するユニークなアイデアです。お子さんの作品や家族の思い出をたっぷりと飾ることができて、窓辺の賑やかな彩りにもなりますね。

既存の天井を解体、天井高を上げたことで、棚に飾ったものが一層引き立つようになっています。

リビングと廊下を仕切る袖壁には、ガラスブロックが使われています。

日中はリビングに差し込む自然光をやわらかく廊下に届け、夜はリビングの気配を寝室へ伝える。子供が先に眠りについた後にも、隣の部屋で家族が過ごす気配と安心感をそれとなく共有できる、静かな繋がりを守ってくれるような仕掛けです。

マットな素材感の中に、ガラスブロック特有の光のゆらぎがよく映える。ペンダントライトと壁面アートの差し色も効いています。

そしてソファの右下に見える小さな扉。実は開けると裏手のウォークインクローゼットへとつながる収納スペースになっています。

リビングから直接アクセスできるので、出しっぱなしにしがちなおもちゃをサッと隠せるのが嬉しい。

「小さな扉をくぐって秘密の収納場所に片付ける」というワクワクする体験は、お子さんが自分でお片付けを楽しむきっかけにもなってくれそうです。

家族みんなの洋服や、細々とした書類に勉強道具をまとめてしまえる大容量のウォークインクローゼット。リビングを「とっておきの居場所」に保つための頼もしいバックヤードです。

そして、ここからがこの住まいのもう一つの見どころ!

これまでの「温かなリビング」の雰囲気とは一変、ガラリと表情を変えるクールな空間がこちら。

家の入り口から繋がる長い廊下。先ほどのリビングとのギャップがすごい!

美術館の回廊を巡るような、仄暗いバーへと足を踏み入れるような……。先ほどまでの暖かなリビングとは対照的な、クールな光と凛とした空気に包まれた玄関です。

壁面には木毛セメント板を、足元には独特の風合いを持つ大谷石を使っています。この床は買い付けから施工までお施主様も一緒に携わった思い出の床だそう。

特別な素材の質感と、照明の演出によって、日常から一歩離れた高揚感が味わえる。一度訪れたら忘れられない体験になりそうです。

これだけ物のない玄関、収納はどうするんだろう…と思っていたら。

何もないフラットな壁かと思いきや、実は大容量のシューズクローゼットが隠されていました。天井高さまで有効活用し、家族みんなの靴をすっきりと収めることができます。

ここまで見てきて感じるのは、生活感を感じさせない「見た目の美しさ」の裏側には、常に収納計画がセットで練られているということ。「隠すものは美しく隠す」というメリハリが、気持ちよさを保つ秘訣のようです。

もう一箇所、良い意味で期待を裏切られた場所が寝室です。これまでの整えられた空間とは対照的に、ここではあえて荒々しい表情の躯体壁をそのままの姿で活かしています。

外壁と接しない集合住宅の界壁では断熱材の問題がないので、こうして綺麗に一面現しにすることが可能に。

「家族団欒の背景や、友達と集う場所にはちょっと強い印象だけど、寝室ならアリかも?」ということで寝室に採用した躯体あらわしの壁。場所ごとに景色が変わっていく多面性がこの家ならではの個性。

自分たち家族しか使わないプライベートな場所は、必要最小限の手数に抑えるという、コストとのバランスも合理的な考え方ですね。

そして、最後に紹介するのが「お客さんも気兼ねなく使えるように」と、玄関を上がってすぐの場所に設けた洗面スペース。

この場所には『人工大理石の洗面カウンター』と『棚付きボックスミラー』を選んでいただきました。洗面台は、ミラーに合わせてラワンの幕板をオン。

「棚付きボックスミラー」は細々とした日用品を隠しつつ、見える場所にお気に入りを置いて。コンパクトな空間でも飾る楽しみが考えられた洗面です。

壁面のタイル貼りや室内の塗装は、お施主様ご自身も、休日を使って施工に参加したそうです。家族みんなで家づくりに参加した時間は、住まいへの深い愛着を生む、かけがえのない体験となったはず。

多少の汚れや落書きも、上塗りして直せばいい。そんな風に思わせてくれるのも、自分たちがメンテナンスの術を知っているから。施主施工という選択がこれからの暮らしを気負わず自由なものにしてくれそうです。

家づくりのパートナーに選んだのは、施主参加型の家づくりを提案している建築集団「HandiHouse project」の一員である中田製作所。設計から工事まで家づくり全てのプロセスを二人三脚で行いました。

今回の記事では紹介しきれなかったのですが、将来、子どもの個室が必要になった時の仕切り方が想定されていたり、暮らしの変化を見据えて電気・照明計画を組み立てていたり。いまこの瞬間の「好き」だけでなく、この先の家族の姿を想像した、丁寧なプランニングが施されていました。

自分たちで色や素材を選び、自らの手でつくり、暮らしのアップデートを楽しみ続ける。そんな家づくりを知っているご家族だからこそ、この住まいは年月を重ねるほどに、ますます家族らしい色に染まっていくはずです。

(撮影:佐藤陽一)

中田製作所

中田製作所

中田裕一・中田理恵が代表を務める、神奈川県逗子に拠点を構える一級建築士事務所+施工会社。省エネ住宅「パッシブハウス」づくりに取り組む。
建築家集団・HandiHouse projectのメンバー。

HandiHouse project/ハンディハウスプロジェクト

HandiHouse project/ハンディハウスプロジェクト

合言葉は『妄想から打ち上げまで』。
家づくりが趣味になれば暮らしも豊かになる。
そんな思いのもと、設計・デザインから工事のすべてにおいて、施主も一緒に参加する空間づくりを提案している、建築家集団です。

テキスト:岩崎

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