年を重ねるにつれ、これまで暮らしていた3階建ての住まいに少しずつ不便を感じるようになってきたというお施主さまご夫婦。「無理なく、これからの時間を過ごしていけるように」そんな思いから、東京を離れ、ご実家に近い京都へ移り住むことを決断されました。

新たな暮らしの舞台となったのは、築33年のヴィンテージマンション。

「ぴかぴかしたものよりも、手に馴染み、時間とともにどんどん愛着が深まっていくものが好き」。そんなお二人が心惹かれたのは、スクールパーケットやラワンなど、素朴で温かな表情を持つ素材でした。

リノベーションのテーマは「大きくつくりを変えず、余白を残しながら、お二人の暮らしに寄り添うこと」。

既存の間取りをうまく活かしながら、家のあちこちに“ふたりの小さな居場所”をちょっとずつ散りばめていく。そんなスタイルの家づくりになりました。

ダイニング脇には壁一面の棚をつくり、お気に入りのレコードや本をずらりと並べられるように。箱を積み重ねたような棚は、ひとつひとつが小さなフレームみたいで、どこを切り取っても絵になります。

好きなものに囲まれながら、好きな音楽をかけつつ夜な夜な晩酌を楽しむ……そんな、静かで穏やかな時間がよく似合う空間に。

窓際にはヌックを。日向ぼっこをしながら読書をしたり、音楽に身を委ねたり、うとうと昼寝をしたり。ほっと一息つける、居心地のいい居場所。実はここ、ご主人の寝室も兼ねているのだそう。

オークの無垢材を使ったスクールパーケットのフロアも、足を伸ばしてくつろぐのにぴったり。

梁のラインに沿わせて設けた棚を支えるのは、『棚受け金物』の真鍮。窓枠のちょっとしたスペースや上部の棚まで。どこを見てもお気に入りが並んでいて、ひとりでぼーっとする時間も、なんだかいい時間になりそうです。

木製室内窓』がはめ込まれた壁の向こうは奥様の寝室。オープンだけど、間仕切りを残してゆるやかにゾーニングしています。室内窓越しにやわらかな光が届き、心地よく過ごせる空間に。

廊下脇の収納は元々あった建具を取り払い、カーテンで軽やかに仕切るスタイルに。ぱっと開けば中が見やすく、出し入れもスムーズ。日常使いにちょうどいいつくりです。

キッチンは天板に『オーダーキッチン天板』を使い、下部はラワンの造作で仕上げ、ラフな雰囲気に。とはいえ、食洗機は譲れないポイント。ラワンの面材で仕上げることで、使い勝手と見た目の心地よさとのバランスをうまくとっています。

洗う、干す、整える。そんな“毎日の身支度が気持ちよくできること”を第一に整えられた洗面。ハンドソープなど、ちょっとした小物を置けるデッキ付きの『置き型洗面器』に、『棚付きボックスミラー』を組み合わせ、造作で揃えたような一体感のある納まりに。

照明には、ぼってり丸いシルエットが愛らしい『ミルクガラス照明』を。落ち着いた木目が小物たちのさりげない背景となり、暮らしのワンシーンをやさしく彩ります。

東京から京都へ。
暮らしの拠点が変わっても、無理なく、自然体で過ごせることを何より大切にした住まい。

家のあちこちに散りばめた”小さな居場所”や、手に馴染む素材たちが、これからの日常をそっと支えてくれるはず。
「ここからまたお二人らしい時間がゆっくりと積み重なっていくのだろうな」そんな気配が漂う、素敵な住まいです。

アトリエイハウズ

アトリエイハウズ

新築・リノベーションの設計施工を行う工務店。デザインだけでなく、耐震や温熱環境に配慮した建築も得意。リノベーションでは、性能向上をベースに「アップサイクル」「ネオクラシック」をテーマに掲げ、オンリーワンな空間を提案しています。京都・西京極にある自社ビルには珈琲焙煎所「WESTEND COFFEE ROASTERS」を併設。

紹介している商品

テキスト:八

関連する事例記事

古さを慈しみながら、今の暮らしをそっと重ねていく築古戸建てリノベーション
古さを慈しみながら、今の暮らしをそっと重ねていく築古戸建てリノベーション
築46年の家に残された、古い柱や階段の手摺りなど、建物がもともと持っていた“面影”が住まいに奥深さを与え、今の暮らしにやさしく寄り添う。年月を重ねた家が纏う趣深い空気感を大切にしながら、新しい暮らしが心地よく続いていくように。そんな思いでリノベーションした事例です。
築28年戸建ての1階リノベ。玄関・洗面・LDK、家族の暮らしのベースになる場所を心地よく整える
築28年戸建ての1階リノベ。玄関・洗面・LDK、家族の暮らしのベースになる場所を心地よく整える
4人家族が暮らす2階建ての住まい。「これからもずっと住み続けられる、思い入れのある家にしたい」と考えるようになり、家族の暮らしに合わせて1階部分をリノベーションしました。
築古戸建てで“古き良き”を活かすように。「既存を活かす」中古マンションリノベ
築古戸建てで“古き良き”を活かすように。「既存を活かす」中古マンションリノベ
古民家や昭和の平屋など、古い戸建ての内装は“古き良きもの”として魅力的に捉えられることがありますが、「中古マンション」はどうでしょう? 築古マンションが増えていく中、“アップサイクル”をテーマに掲げ、もともとの内装を活かすマンションリノベに取り組んだ事例をご紹介します。
「故きを活かして新しきをつくる」。1000万円以下で買った築古戸建てを“リメイク思考”でフルリノベ
「故きを活かして新しきをつくる」。1000万円以下で買った築古戸建てを“リメイク思考”でフルリノベ
施主家族が手に入れたのは、昭和の香りが色濃く残る築古戸建て。購入費用の2倍以上をかけて耐震性能と断熱性能を底上げしつつ、既存を活かしながら「新しさ」をスパイスとして加えてフルリノベーション。設計にも工事にも施主家族がフルコミットしてつくり上げたマイホームをご紹介します。