お施主様が家づくりを依頼したのは、設計から工事の過程まで、施主参加型の家づくりを行なっている建築家集団・HandiHouse projectの一員である、中田製作所。お施主様ご家族も現場に毎日訪れ、工事にも週1、2回は必ず参加。小学生のお子さんも放課後にコテを持って壁の塗装を手伝うなど、家族全員が自らの手で住まいをつくり上げていきました。

住まいの中心となるのは、2階に設けた約16畳のリビングダイニング。天井の梁や柱を現しにしたことで、まるで屋根裏部屋のような温もりと同時に開放感を感じさせる空間に。

リビングの上のロフトは「秘密基地」として使っています。このロフトからはリビングを見下ろせるようになっており、ご家族はここを「物見櫓」と呼んで、そこからの景色を楽しんでいるそう。

ロフトへと続く階段には、ご実家から受け継いだ古い階段収納を再利用。歴史を感じる木の風合いが、温かみある雰囲気に溶け込んでいます。

古いものを大切に活かす工夫は他にも。

キッチンの顔ともいえる前面収納には、古い建具を活用。収納扉としつつ、格子模様を活かしたディスプレイスペースとしても活用されています。お気に入りの器やドライフラワーが飾られ、日々の生活に彩りを添えてくれます。

キッチンは、キャビネットやタイルの目地に使われた水色がポップな印象。水栓にはステンレス天板と相性の良いクロームの『ハンドホース水栓』を採用し、ビルトイン食洗機もtoolboxのものを採用いただいています。

キッチンは、シンクとコンロが分かれたⅡ型にして作業スペースをたっぷり確保しており、家族揃って料理を楽しめるようになっています。

キッチンとリビングダイニングでは、異なる床材を採用。リビングには無塗装のオークを使用したフローリング、キッチンにはリノリウムの床を用いることで、素材感の違いを楽しめるようになっています。

床の繋ぎ方にも工夫が。床材の切り替えのラインが空間に対し斜めに入っていることで、キッチンがリビングに対して開かれているような、シームレスにつながっていくような印象をつくっています。

床材が空間に対して斜めに配置されている理由がもうひとつ。リビングは窓から富士山が見えるという絶好の位置にあり、フローリングを富士山に向かって貼って、視線を誘導しているんです。

窓枠によって切り取られたその景色は、一見壁に飾られた写真のようですが、四季折々、日々刻々と変化する天然のアートになっています。

リビングの一角には、家族が並んで座れるワークスペースを造作。キャビネットにはライン照明が仕込まれており、作業スペースでありながらディスプレイとしても楽しめるデザインに。目に入る場所は綺麗にしておきたい気持ちが働き、自然と整理整頓の習慣が身に付きそうな場所です。

また、キッチンダイニングの先にはアーチ開口のかまくらのような半個室の空間が。こちらは落ち着いて集中したいときにぴったり。おこもりスタイルで仕事が捗りそうなワークスペースになっています。

木材をふんだんに使用したベランダにはリビングから出ることができます。こちらからも富士山が見えるので、リビング同様、床部分の木材は富士山に向かって斜めに貼られています。

キッチンでも使用されていた白いタイルに水色の目地が映える洗面所。家族が並んで身支度ができるよう、洗面台を拡張しています。既存の窓を残しつつ、鏡と窓を木枠で囲うことで、外の光も取り入れつつ、大きな鏡を設置するスペースを確保しています。

お風呂場のタイル仕上げもお揃いでした。水色の目地は本来、水が直接かかる箇所には使用推奨されていない目地材ですが、お施主様の了承のもと施工されたそう。

天井の羽目板や窓枠にはヒノキ材を採用。木の良い香りが漂うまるでお宿のような空間は、1日の疲れを癒し、くつろぐ場所にピッタリです。

コストをかけてリノベーションする部分と後から手を加える空間とをはっきりと区別されたというお施主様。こだわってコストをかけたのは、主にキッチンや洗面所、風呂場といった毎日使う水回りや、簡単には変えられない壁・天井断熱や床暖の設備など。1階の子ども部屋は現在は玄関とひと続きの空間になっており、お子様の成長に合わせて、手を加えていく予定だそう。

全てを最初につくり込むのではなく、暮らしに合わせて空間をつくり上げていくことを視野に入れ、子ども部屋の床は釘を打ったりといった造作を加えやすい、構造用合板で仕上げています。

大きな壁は、お子様の作品を飾るギャラリースペースとして大活躍。ここには家具などの仕上げ材として使われる事が多いヒノキ合板を使っています。これだけ広いスペースがあると、創作意欲が刺激されますね。

こんな空間で育っていくお子さんは、将来どんな部屋を望むのでしょう。自分の部屋を自分で作る、なんてこともできそうです。

また、壁の一部はアーチ開口になっており、まるで絵本の世界のような遊び心あふれる空間に。こちらは引き戸になっているため、開けておいても閉めておいても絵になります。扉の周りの床にはスプーンカットという加工が施され、素足で歩くのが心地よい踏み心地も魅力です。

お子様や家族の成長に合わせての「アフターリフォーム」も想定したメリハリのあるリノベーションをされたお住まい。快適な暮らしのベースとなる部分にはしっかりとコストをかけ、子どもの今を大切に、のびのびと暮らせるような工夫が随所に施されています。

家族で料理した記憶、並んで勉強した記憶、仕事をしている親の姿。古いものを大切に使っていた記憶。そして、家づくりに自ら関わった記憶。

家はただ暮らすための空間ではなく、そこに住む家族の成長とともに思い出を積み重ねていく場でもあると改めて実感した事例でした。

(写真:佐藤陽一)

※こちらの事例はimageboxでも詳細をご確認いただけます。

 

株式会社 HandiHouse project / ハンディハウスプロジェクト

合言葉は『妄想から打ち上げまで』。
設計・デザインから工事のすべてにおいて、施主も一緒に参加して作っています。
家づくりが趣味になれば暮らしも豊かになる。そんな思いで活動している建築家集団です。

中田製作所

中田裕一・中田理恵が代表を務める、神奈川県逗子に拠点を構える一級建築士事務所+施工会社。省エネ住宅「パッシブハウス」づくりに取り組む。建築家集団・HandiHouse projectのメンバー。
https://nakata-archi.com/

テキスト:kohsaka

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