ご紹介するのは、京都の工務店・アトリエイハウズが手掛けた、築50年のRC造テラスハウスをリノベーションした再販物件の事例です。

テラスハウスとは、一戸建てが連なったタイプの集合住宅のこと。

プロジェクトのテーマは「50年後も住みたい家」。

このテラスハウスが建てられたのは、昭和40年代。水平ラインが強調された外国人住宅のような佇まいが、今見てもかっこよさを感じさせますが、当時のRC造は無断熱。そのままではとても快適には住めません。それなら建て替えは?と思っても「建て替えには、連なる4住戸全ての同意が必要」という難題がつきまとい、簡単には実現できない課題がありました。

さらに、今回は住む人が決まっていない再販物件。ある程度購入者層を想定しているとはいえ、作り込みすぎてもそれが正解になるとは限りません。

そこで、既存住宅の良いところを活かしつつ、性能を大きく向上させるため、リノベーションを選択。スケルトンベースの空間に外断熱を施し、しっかりと断熱性能を確保しながらも、あえて余白を残した住まいを計画しました。

そんな住まいの内部は一体どうなっているのでしょうか。さっそくご紹介していきます。

扉を開けると、視界いっぱいに広がる無骨なコンクリートの空間。玄関からシームレスに土間が続く、半屋外のような開放感のあるリビングです。

その無骨さに、思わず「本当に寒くないの?」と疑いたくなりますが、建物の外側から覆うように断熱工事を施すことで、断熱等級5相当もの高い性能を確保。冬の寒さも夏の暑さもほとんど気にならない、快適な空間を実現しています。

「今回、内装は大胆に手を掛けずに躯体の表情を残しました」

その言葉の通り、仕上げを削ぎ落としたままの天井や壁には露出配管が這い、梁からは突如として電話線が垂れ下がるなど、建物が歩んできた痕跡が随所に感じられます。

「作り込みすぎない」ことを意識した内部。

住み手がアレンジできるよう、あえて余白を残したこの家は、快適な住環境が整った箱のようなもの。

そのままではちょっと無骨すぎるかも……という方は、床材を追加したり、壁の仕上げを変更したり。住まい手の希望に応じた追加工事にも対応できるよう設計されています。

そのまま使うもよし、自分好みに改装するもよし。自分なりの味付けを加えながら、柔軟に内装を構成していける、カスタム好きの心をくすぐる余白に溢れています。

靴箱にしたり、外着を掛けたり。住む人の自由に使えるように、可動式のストレージワゴンがリビングに付属されています。

おかげで、この土間リビングは、住宅兼アトリエのような活用が見出せる空間になりました。

趣味の道具やコレクションをディスプレイしたり、プライベートな空間と分けて外に開いたスペースとして活用したり、さらにはショップのような使い方まで想像できる。いい意味で住宅ぽすぎない、自由な雰囲気が漂う空間に、色々な妄想が掻き立てられます。

物件に付属はしていませんが、推奨しているペレットストーブがスタイリングされています。

モルタルの仕切壁の奥に、ちらっと見える板張りの空間。ここは、開放的な土間リビングとは対照的な家族だけのプライベートリビング。木の温もりに包まれ、落ち着いた時間が流れます。

ダイニングを照らすのは、『インダストリアルアームライト』。

プライベートリビングから続く、ダイニングとキッチンスペース。ダイニングまで土間が続き、キッチンで初めて床が上がるという設計。

キッチンも、要素をそぎ落としたミニマルなデザインが採用されています。選ばれたのは、天板のみのシンプルな『オーダーキッチン天板』です。

シンク下はゴミ箱を置くイメージでしょうか。

食洗機も剥き出しのワイルドな見た目。キッチンの奥には十分な収納力を確保したパントリーが設けられているので、食材や調理道具をたっぷり収納できるようになっています。

コンロ側の天板下には、古い木の棚がスタイリングされていました。こんなふうに木製のものを置くと無骨な印象がグッと和らぎますね。足元や壁面、サイドのスペースに、何を置き、どう使おうか。自分の料理や収納スタイルに合わせて、自由に発想を広げられそうです。

工業的なアイテムを組み合わせた洗面空間。

洗面台も、キッチン同様オールステンレスの潔いデザイン。アウトドアグッズなどをガシガシ洗えるタフな印象の『スクールシンク』が採用されています。趣味を思う存分楽しめそうなこのお家にぴったり。

土間リビングから一段あがった床はコルク仕上げ。

その奥には、「ここまでやることは稀ですが、今回はモデルハウスなので気張りました」というガラス貼りの開放的な浴室が。

手洗い器もタイルもレトロなものをセレクトし、手を入れたことを感じさせない絶妙なバランスで、既存に馴染ませています。かつては「寒い〜〜」と震えながら使用していたトイレ(想像)も、しっかり断熱工事が施され、安心して利用できる空間に生まれ変わりました。

リノベーションに伴い、新しく掛け変えたという階段は、抜けを意識したデザインが特徴で、階上から溢れ落ちる光が、まるで吹き抜けのように空間を明るく照らしています。

2階にある3部屋は、壁、天井、スイッチまでもが当時のまま。まだ使えるきれいな状態だったため、そのまま残すことにしたそうです。地窓や昭和レトロなガラスなど、当時の面影を感じさせるノスタルジーな要素にグッときます。

グレーの外壁に雰囲気のあるグリーンがよく映えます。暖かくなるにつれ、葉っぱが生い茂っていくのが楽しみ。

今回、外構工事にも力をいれていて、もともと駐車場がなく広い庭だった部分に、2台分の駐車スペースを確保。

さらに、外壁をグレーに塗装、植栽にもこだわることで、建物本来の良さが際立つ、すっきりとした佇まいに。どこから眺めても、心地よい風景が広がる住まいに生まれ変わりました。

室内からの眺めも豊かに。

既存の門柱をワイヤーで囲い、新たな表情を持たせました。時間とともに蔦が絡まり、やがて緑に覆われた門柱へと変化していきます。

既存の外観。

住宅性能を向上させ、快適性をしっかり確保しながらも、内部は大胆に余白を残し設計されたこのモデルハウス。

住みながら少しずつ手を加えることで、住む人の個性がじんわりと染み込んでいくような。これからどんな人が住み、どのように進化していくのか……想像するだけでワクワクします。工事を担当したアトリエイハウズが、カスタム工事の相談にも応じてくれるそうですよ。

最近toolboxにも「住みながら家に手を入れていく」事例が多く寄せられています。そんな“アフターリフォーム”の実例が気になる方は、ぜひこちらもチェックしてみてください。

物件情報

所在地 :京都府乙訓郡大山崎町円明寺脇山
専有面積:36坪
交通  :阪急電鉄 西山天王山駅 徒歩12分

本物件はモデルルームとして公開中です。
ご興味ある方はこちらよりお問い合わせください。
※お問い合わせ先は、本物件を担当したアトリエイハウズのページになります。

株式会社アトリエイハウズ

新築・リノベーションの設計施工を行う工務店。デザインだけでなく、耐震や温熱環境に配慮した建築も得意。リノベーションでは、性能向上をベースに「アップサイクル」「ネオクラシック」をテーマに掲げ、オンリーワンな空間を提案しています。京都・西京極にある自社ビルには珈琲焙煎所「WESTEND COFFEE ROASTERS」を併設。

テキスト:八

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