はじまりは、ひとつのリノベーション現場から
いまでは、リノベーション住宅の定番アイテムとして、多くの方に選ばれている『木製室内窓』。
リビング横の個室に光や家族の気配を通しながら、空間をゆるやかにつなぐ存在として親しまれています。
その原型は、開発パートナーであるAIDAHO一級建築士事務所がリノベーション設計の現場で考案したものでした。
当時、こうした室内窓は建具屋に特注するのが一般的。魅力的な一方で、作図の手間、コストや納期のハードルもあり、採用できる現場は限られていました。
そこで、現場ごとに自由にアレンジできるよう無塗装とし、できるだけクセのないニュートラルなデザインに。柱の間に納まるサイズ感を目指し、780mm角を既製サイズとして商品化しました。
「これはきっと、もっと多くの人が求めているはず」
そんな思いから商品化された「木製室内窓」は、2016年の発売以来、多くの住宅で採用される人気商品へと成長しました。
しかし、その裏側には、もうひとつの課題がありました。
木製建具をつくる職人が減っている
「木製室内窓」は、木製建具です。当たり前の話ですが、商品を届け続けるためには、それをつくる人がいなければなりません。
かつては地域ごとに建具屋があり、それぞれの家に合わせて建具をつくるのが当たり前でした。しかし、住宅の規格化やアルミサッシの普及、職人不足などを背景に、木製建具の仕事そのものは年々減少しています。
建具屋の数も減り、職人の高齢化も進むなか、「木製建具をどう残していくか」は業界全体の課題になっています。
そんな中、同じような課題に直面しながらも、toolboxの「木製室内窓」をつくり続けてくれているのが、製作パートナーである山形県酒田市の老舗建具店です。
異業種での学びをいかした、建具屋の経営
1915年、大正4年創業。現在は4代目となる息子の晴紀さんと、その父であり会長の優晴さんが中心となって工場を切り盛りしています。
建具屋さんは、若いうちに他所で職人修行をして実家を継ぐケースが多いそうですが、会長の優晴さんは、職人ではありません。若い頃は、東京の設計事務所勤めの経験もある、一級建築士の資格を持つ設計士。
建具単体ではなく、空間全体の中でどう見えるかを考え、設計者の意図を汲み取りながら建具の製作図面を描き、時には提案もしてくれる。依頼者と一緒にものづくりができることが強みです。
ただ、良い商品のアイデアがあっても、それをつくる職人がいなくなれば続きません。
その課題に向き合っているのが、息子の晴紀さんです。
晴紀さんは、これまた異色の経歴の持ち主。20代に東京でアパレル業界を経験した後、祖父である先々代が亡くなったことをきっかけに30歳で山形へ戻りました。その後は、まずは食べていくためにラーメン店を立ち上げ、現在も複数店舗を経営しています。
一時は、父、優晴さんの代で仕事が先細り、店を畳むことも考えていたそうですが、約10年前、toolboxが「木製室内窓」の商品化の相談をした頃に、息子の晴紀さんも、建具店の経営に参画。
父の設計力と、息子が建具業界の外で経営を学んだ経験が、現在の「木製室内窓 / ガラス窓」づくりにも活かされています。
「見て覚えろ」からの脱却。職人育成のしくみづくりへ
「建具業界って、30〜40代が本当に少ないんです」
そう話す晴紀さん。
「60〜70代は、『見て覚えろ』で育った世代。だから今度は下への教え方が分からない人も多い。ちゃんと教えてもらえないから、若手も育たず辞めてしまう。その繰り返しなんです」
そこで始めたのが、教える仕組みづくりでした。
現在は、一線を退いた80代のベテラン職人が若手の教育係として活躍しています。
「引退していたところに声を掛け、つくるだけじゃなく、教えることにもきちんと対価を払ってます。若手も質問しやすいし、ベテランにとっても好きな仕事を続けられる。お互いにとっていい関係になっています。ベテランさんは、いま息子家族の扶養に入っているから、何時間以上は働けないとか言いながらね(笑)」
技術だけでなく、技術を受け継ぐ仕組みそのものを整える。それもまた、木製建具を未来へつなぐための仕事でした。
そして、ここでもうひとつ興味深い話を聞きました。
個別オーダーの建具は納期との戦い。毎回異なるものを急いでつくるため、若手をゆっくり育てる余裕はなかなかありません。一方、「木製室内窓」は規格品。ある程度のつくり置きができるため、計画的な生産や若手育成にも取り組みやすいのだそう。
商品をつくることと、人を育てること。一見別のように見えるふたつは、実はつながっていました。
地元の同業者も巻き込み、地域でつくる体制へ
建具をつくり続けるための仕組みづくりは、自社の職人育成だけにとどまりません。現在は地元の建具店とも協力体制を築き、安定して生産できる仕組みをつくっています。
「忙しい時だけお願いする関係じゃなくて、みんなで支え合いながら続けられる関係をつくりたいんです。
今後、日本全国の建具屋が減っていく中、例え倍の発注量が来ても対応できるようにしておきたい」と晴紀さん。
かつて建具づくりが盛んだった山形も、公共工事の減少や廃業などにより、地域の横のつながりは薄くなってきているそう。
そのプライドの高さゆえ、他人の仕事は受けたくない。逆に、困った時も周りに頼れない。そんな職人の世界で、この親子は自ら頭を下げ、信頼できる仲間を探し、ネットワークを築いてきました。
「木製室内窓」というつくり置きができる規格品で、toolboxから毎月安定した発注があるからこそ、協力会社にも継続的に仕事をお願いできる。
材料を一括で仕入れ、協力会社へ支給することで、品質を揃えながら効率的な生産体制も実現しています。
建具屋が減っていく時代だからこそ、競争ではなく協力によって技術を残していく。そんな考え方が印象的でした。
そして、新たな挑戦、大きな「木製ガラス窓」開発へ
「木製室内窓」の発売から10年。その間、設計者の方々から数多く寄せられていた要望がありました。
「もっと大きな室内窓が欲しい」
リビング横の在宅ワーク用の書斎や子ども部屋、寝室など、個室として使いながらも、完全に閉ざされた空間にはしたくない。
そんなニーズを受け生まれたのが、新たな腰窓サイズの『木製ガラス窓』です。
どんな現場でも使いやすくするために、プロポーションや納まりを何度も検討しました。特に、押し出しや片開きの開口形状で、ガラスを細かく分割したグリッドの造作窓の場合、どうしてもガラスを囲む框が縦方向に2重に重なってくるため、見た目が重たくなってしまいます。
我々toolbox開発チームは、TBK(ツールボックス工事班)での設計施工やこれまでの経験から、できるだけ線を細く、ガラス面を大きく、すっきりしたプロポーションを追求したい。一方、製作側としては、建具としての剛性や使い勝手、量産したときの品質やつくりやすさも重要です。
「こう見せたい」と「長く使えるものにしたい」。それぞれの立場から意見を出し合い、試作と検証を重ねながら、形を整えていきました。
最終的には、ガラスのすっきりした開放感と風通しのバランスから、全体幅の1/3部分だけが開閉、FIXガラスと開口部の框が前後にぴったり重なり、1本に見えるようなデザインに。剛性を確保しながら、25mmという框の細さを実現。ようやく最終形にたどり着きました。
木製建具を、これからも届け続けるために
実は、規格サイズの「木製室内窓」を製作しはじめた当初は、職人さんたちも半信半疑だったそうです。
「こんな既製品の窓、誰が欲しがるの?」
ところが発売後は予想以上の反響が続き、いまでは工場を代表する仕事のひとつに。注文数が伸びてくるにつれ、職人さんたちも、やりがいを感じるようになってくれたそう。
窓単体で見ているより、お客様の家で着色されたり、連窓で使われたりと、空間の中で生き生きと使われている姿を見ることが、職人さんたちのやりがいになっているそうです。
採用してお送りいただいた、imagebox掲載の事例写真の一部がこちら。
開発・設計側の「こうしたい」と、製作側の「なんとか形にしたい」。そして、商品を届け続けるための人づくりや仲間づくり。
「木製室内窓」の10年にわたる積み重ねがあったからこそ、「木製ガラス窓」の新たな挑戦は形になりました。
規格品とはいえ、1本1本、職人さんの手によって丁寧につくられている事実は変わりません。木製建具のよさを身近に感じていただき、より多くの皆さんの家づくりの選択肢になれば、嬉しいです。
我々は、商品のよさをお客さまにお伝えするとともに、お客さまが日々toolboxやSNSにお送りしてくださる素敵な採用写真や、喜んでくださっている声を、職人のみなさんにも沢山お伝えして、さらに、ものづくりの現場を盛り上げていきたいと思います。