大阪の都心部から少し離れた淀川沿いに立つ長屋が今回の舞台。

既存の建物の良さを生かしながら、日中はオフィスで働き、夜遅くに帰宅するというライフスタイルを送られるご夫婦が、快適に暮らせる住まいにつくり変えました。

両隣と壁を共有しているため、1階は自然光が入りにくく暗くなりがちという長屋特有の問題。それを解決するために、施主でもある設計者の太田さんが考えたのは、2階の床にいくつもの孔を開けることでした。

ところどころに吹き抜けを設け、床の一部をルーバーにすることで、階下の明るさを確保。

住宅全体に光と風が行き渡る、立体的な広がりを感じる空間に。

ルーバーの隙間からこぼれ落ちる光が、息を飲むような美しい景色をつくる1階。朝の柔らかな光や、夕方の深い陰がもたらす静寂など、刻々と移り変わる自然のリズムを感じられる空間です。

50平米という限られたスペースの中に効率よく居場所をつくり出すため、「玄関とキッチン」や「廊下と収納」といった具合に、機能を重ね合わせたプランを考えました。

人通りの少ない表の通りを内部まで引き込むように、新たに大きな開口を設けたエントランス。半屋外のような雰囲気が漂うこの空間は、玄関であり、キッチンであり、時に食卓にもなる外との距離が近い場所。

大きな開口を通して、私道とゆるやかに繋がる。

カーテンで軽やかに仕切られた2階の廊下兼収納と1階のダイニングの様子。

水がかからない場所は現しにして天井を高く。照明に使われているのは『カプセルライト』(※写真は旧仕様のもの)

壁で仕切らず、オープンなスペースに配置されたお風呂と洗面台。植物を眺めながら湯船につかることができる、ホテルのような雰囲気の開放的なバスルーム。

タイルが敷かれたこの場所は、夏場にはリビングとして使われることもあるそう。

リビング空間をあえて無くし、その分、お風呂や洗面スペース、寝室など、暮らしに必要不可欠な機能に重点を置いて面積やコストを割いた結果、時々でくつろぐ場所が変わる、変化を楽しめる住まいが完成しました。

マットな質感のマスタード色のタイルと『ミルクガラス』が、可愛らしさと落ち着きを兼ね備えた空間を演出。

使用する素材や設備は、特別な場所と感じられるものを厳選。部分的に自主施工などをしてコストを調整しながら、小さいながらも情報量の多い空間を実現。細部へのこだわりが、心地よさをもたらします。

離れという呼び名が付けられた2階の一角。景色だけでなく階下の様子も覗き見ることができる、考えごとをするのにぴったりの開放感あふれる場所。

一見、簡素とも言える潔さと豊かさを合わせ持った、訪れる人の心を惹きつける魅力が詰まった住まい。

そのことについて太田さんは、「考える余地を残した『未完成』のような状態に留めることで、長い時間をかけてつくっていく豊かさがあるのではないかと思っています」そう、話してくださいました。

(写真提供:大竹央祐)

OSTR

太田翔+武井良祐が主催する、大阪・東京の2拠点で活動している設計事務所です。

たのしさに溢れた建築、あたらしい普通の風景をめざし、日々活動しています。クライアントの要望を前提とするのはもちろん、本当に必要な空間や機能について、今現在必要なものだけではなく、将来を見据えた長いスパンで考えたときの建築のあり方について、一から考え提案します。

紹介している商品

テキスト:八

関連する事例記事

諏訪の魅力を楽しみつくすためのマイクロホテル完成!オーナー自らDIY、空間づくりに携わって得たものとは?
諏訪の魅力を楽しみつくすためのマイクロホテル完成!オーナー自らDIY、空間づくりに携わって得たものとは?
ReBuilding Center JAPAN(リビセン)はじめ、魅力的な小商いのお店が点在する長野県の諏訪エリアに、まち歩きの拠点となって欲しいとの思いを込めた素泊まりの小さな宿「mitaya micro hotel」が完成しました。
叔母と姪、二人暮らしの為の心地よい居場所づくり
叔母と姪、二人暮らしの為の心地よい居場所づくり
ツールボックス工事班|TBKが設計・施工を担当した、叔母と姪の二人が暮らす住まいのLDKリフォーム事例です。
50㎡で始める新婚夫婦二人暮らし。未来の可能性も広げる、シームレスな空間
50㎡で始める新婚夫婦二人暮らし。未来の可能性も広げる、シームレスな空間
通勤に便利な都心近くに住みたい。今後家族が増える可能性も考えると、広さも気になる。でも、都市部にあって広さもある物件を見つけるのは、なかなか難しいこと。そんな悩みを解決するヒントが詰まったマンションリノベーション事例をご紹介します。
「老後=静かに過ごす」だけじゃない。 地域とつながる、新しい暮らしのカタチ
「老後=静かに過ごす」だけじゃない。 地域とつながる、新しい暮らしのカタチ
「これからの老後をもっと楽しく、豊かに暮らしていくにはどうしたらいいだろう?」そんな問いから始まった、戸建て住宅の再編集。家族や家との思い出を大切にしながら、建物の1階部分をまちに開いた貸し店舗と近隣の人も気軽に立ち寄れる共用空間へと生まれ変わらせた、地域とゆるやかにつながる“新たな住まい”が実現しました。