京都から東京への移転を機に、中古戸建てを購入した施主夫婦。新しい暮らしの場に選んだ築31年の戸建ては、購入前の段階で設計者に見てもらい、建物の状態や、どんなリノベーションができそうかについてアドバイスを受けた上で、購入を決めました。

戸建てのリノベーションでは、柱や梁、耐力壁など、撤去できない構造体との兼ね合いで、希望する間取りに変更できないこともあります。また、既存の耐震性能や断熱性能がどの程度あるのかによっても、リノベーションの内容は大きく変わります。

あらかじめどんなことができそうかをプロに見てもらった上で、購入を判断する。買った後になって「やりたかったことができない」と分かるリスクを減らせる、合理的な進め方です。

建物は建坪約14坪、木造の2階建て+小屋裏収納という造り。間取りを一部変更するにあたって、現在の新築で必要とされる耐震性能と同等の性能になるよう、構造補強を加えることにしました。

既存の空間に対しては、「ちょっと無個性」だと感じていた施主夫婦と設計者。既存の建物のつくりも活かしながら、「引き算」と「足し算」で個性を描き出すリノベーションに取り組んでいきました。

ここは、かつては2つの個室とダイニングキッチンがあった2階。天井裏にあった小屋裏収納の壁を取払ってロフトとし、吹き抜けでリビングダイニングとつなげた、開放的なフロアに生まれ変わりました。

既存の梁の下に新たに設置した補強梁も、経年して黒褐色になった既存の梁も、互いの色はあえて揃えずそのままの色にすることで、自然のままの木の味わいを際立たせました。

「表層的ではない、しっかりした素材感のある家」を希望していた施主夫婦。床は青森産ヒバの無垢フローリング、小屋裏部分の壁天井はヒノキ合板、障子は杉と和紙、リビングドアはパイン材でできた『木製パインドア』、造作収納にはシナと、内装には異なる樹種を織り交ぜて使いました。一様ではない木の表情に囲まれた空間は、まるで木立の中のよう。

樹種や色を揃えなかったのは、暮らしの中で増えていくさまざまなモノや要素を、自然に受け止められる空間にしたいという設計者の意図から。経年した既存の柱や梁と、新しく加えた木材も並列した存在となり、新旧が入り混じるリノベーション空間に、ひとつのまとまりを生み出しています。

内装に木を取り入れる際、どこまで樹種や色味を統一するかは悩みがちなポイント。けれど、あえて樹種や色味を揃えず、木という素材の懐深さに暮らしを委ねてみる。そんな「木の素材」の取り入れ方も、参考になりそうです。

そうした、木の表情が重なる空間の中、ロフトへ続く「階段箪笥」も、ひとつの見せ場になっています。

これは、以前京都に暮らしていた施主夫婦の「階段箪笥が好き」という想いを形にしたもの。とはいえ、古い階段箪笥をそのまま模しても、年月を重ねたような味わいは出せません。そこで、枠部分には白木のシナ合板、引き出し部分には少し色味の濃いナラ材を使い分け、太い枠と引き出しの凹凸が際立つ、京町家の階段箪笥を思わせる佇まいをつくりました。

ロフトへの動線には、『木の手摺』のオークを採用しました。

木そのままの表情をふんだんに活かした空間に似合う手摺を探す中、握り棒もブラケットも無垢の木でできた『木の手摺』の質感がぴったりハマったそう。

かつて小屋裏収納だったロフトは、セカンドリビング的にくつろげる場所になっていました。

建売の戸建てなどに多い小屋裏収納。使用頻度が低いものをしまっておくのに便利なものの、施主夫婦は具体的な使用イメージが湧かなかったのだそう。思い切ってロフトにしたことで、吹き抜けの開放的な景色が生まれ、居場所も増えました。

ロフトの下は、施主夫婦の要望だったリモートワークのスペースをつくりました。

リビングの一角にはカウンターデスクを備え、障子で仕切った部屋はオンライン会議の際は閉じて使用。互いの存在を感じながらも、それぞれが集中して作業できる距離感がいいですね。

キッチンはオリジナルで造作。キャビネットにはオーク材を使用し、壁面は色むらのあるグリーンのタイルで仕上げ、森を思わせる佇まいに仕上げました。

L型のキッチンは作業スペースが広々。ガラストップのグリル付きガスコンロの下にはガスオーブンを設置し、水栓は浄水と湯水をレバーで切り替えて使い分けできる浄水器付き切り替え混合栓を採用。料理にじっくり向き合えるキッチンになっています。

素材感を大切にした空間づくりは、1階も同様。階段はナラ材で造作し、手摺は『木の手摺』のオークを使っています。

階段は蹴込みをなくし、玄関を入った時の視界の抜けをつくりました。2階や障子を取り付けた窓からの光が階段下まで届き、玄関ホールに明るさをもたらしてしています。

以前は狭かった玄関は、横長に広がる土間を設けて、自転車を置いたりちょっとした作業ができるスペースをつくりました。

土間に設けた収納のほかに、玄関ホールにはアウターなどがしまえるクロークも造作。玄関は、以外と置きたいものが多い場所。「隠す」収納をしっかり設けることで、整った空間を維持しやすくしています。

玄関土間の隣には、左官壁で仕上げた和室をつくりました。

アーチ型の出入り口は、茶室のにじり口をイメージしたもの。手前の板間は茶室の待合のような場所で、土間に足を下ろして腰掛けることもできます。

待合を通り、にじり口をくぐって、和室に入る。そうした一つ一つの動作が、日常から気持ちを切り替える仕掛けになっています。

3帖+床の間という小さな空間ですが、畳はもちろん、芦天井、土壁、地袋、落とし掛け、床板と、伝統的な和室の設えを取り入れました。そうした設えが、小空間に心地よい落ち着きをもたらしています。

施主夫婦はここでリモートワークをしてみたり、ヨガをしたり、縁側のように庭に足を下ろしてビールを飲んだりと、気分転換の場所として活用しているそう。

和室は天井に照明器具を付けず、鴨居に間接照明を仕込みました。和室にくつろいだ明かりをもたらすだけでなく、障子越しに玄関ホールにもやわらかな明かりがこぼれ落ちます。

こうした「明るすぎない照明計画」も、施主夫婦の要望から。明かりの工夫で、居心地の操作をしています。

1階の洗面と2階の手洗いには、『ボールライト』のフロスト×シルバーを採用。フロストガラス越しのぼんやりとした明かりが、空間に広がります。

2階の手洗いは、ミラーボックスの収納部分を壁に埋め込むことで洗面台の奥行きを抑え、コンパクトなスペースを無駄なく使っています。

浴室も「過ごす場所」として、こだわりました。

浴槽より上を好みの素材で仕上げられるハーフユニットバスを採用し、キッチンと同じグリーンのタイルで壁を張り上げました。照明は、こちらも『ボールライト』のフロスト×シルバーを選び、やわらかな明かりを取り入れています。

濃淡のあるグリーンに囲まれながらの入浴は、森林浴をしているような気分に浸れそうです。

「ちょっと無個性」に感じていた中古戸建てに、さまざまな樹種の木や和の要素を重ね、この家らしい表情を描き出したリノベーション。開放的なLDKに、隠れ家のようなロフト、本格的な和室に玄関土間、ゆっくり過ごしたくなる浴室など、建坪約14坪のコンパクトな住まいにたくさんの居場所が生まれました。

自宅で仕事をする時間も長い施主夫婦にとって、いくつもの居場所があることは、日常にメリハリをつくることにもつながっています。

気分や過ごし方に合わせて居場所を選びながら、時間とともに風合いを増していく素材に囲まれて暮らす。無個性に感じていた家が、これからの日々を重ねながら、長く付き合っていきたくなる住まいになりました。

小木野貴光アトリエ一級建築士事務所

小木野貴光アトリエ一級建築士事務所

施主のライフスタイルと場所の個性を編むように、夫婦で設計している一級建築士事務所です。
東京都北区と静岡県浜松市を拠点に、そこにある、モノ、コト、バ、シゼンをつなぎなおし、新たな魅力を発見する、暮らしの場と・働く場の設計をしています。

テキスト:サトウ

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