撮影:田中克昌

改修にあたり、クライアントであるオーナーがまずこだわったのは、古い建物ならではのコンクリートの荒々しい表情や質感を活かすこと。

そこに、さらにふたつの少しクセのあるリクエストが加わりました。

ひとつは、「ポールダンサーが住める部屋にしたい」。
もうひとつは、「手元にある大量の強化ガラスを使いたい」。

まだ住まい手も決まっていない賃貸物件で、“ポールダンス”がテーマ。なかなかパンチのあるお題です。

コンクリートの剥き出しの強さと、ポールダンスのしなやかな身体性。正反対のようで、不思議とどこか通じるものがある。その感覚を手がかりに、設計者である塩入さん・矢﨑さんは、“まだ見ぬポールダンサー”のための空間づくりをスタートさせました。

撮影:田中克昌

調べてみると、ポールダンスには直径およそ3メートルほどのスペースが必要だそう。一方で、住まいにはベッドやテーブル、キッチンといった日常の機能も欠かせません。

そこで考えられたのが、「踊るための舞台」と「暮らしの場」を、ひとつの空間の中に並べて共存させる構成でした。

撮影:田中克昌

空間の中央に据えたのは、古代ギリシャのオーダーを思わせるコンクリートの列柱。そのあいだに腰壁を差し込み、キッチンやベッドの居場所をゆるやかに区切っています。

片側は踊るための舞台。もう片側は、日々の暮らしのスペース。(撮影:田中克昌)

床には、オーナーが所有していた強化ガラスを使用。LEDを仕込み、部屋の半分はほのかに光るガラス床に。

撮影:田中克昌

一方、玄関から続く水まわりや収納のエリアは、既存のモルタル床をそのまま残しました。
つるりとしたガラスと、ラフなモルタル。対照的な素材が、この部屋ならではの風景をつくっています。

撮影:田中克昌

腰壁は角を落とし、空間全体がひと続きに感じられるよう、輪郭をなめらかに整えて。柱は天井まで届かせず照明を仕込んで。夜になると光がふわりと天井ににじみます。

撮影:田中克昌

玄関正面に配された、壁に囲われていない剥き出しの浴槽。トイレも同様に、空間の中にそのまま置かれています。

隠さない、つくらない。

潔く削ぎ落とすことで、古いタイルの表情をそのまま活かし、その分バスタブにはしっかりと予算をかけてセレクトしています。

撮影:田中克昌

なめらかな曲線を描く陶器の『ウェルラウンドシンク』のやわらかな質感も、この部屋の空気によく似合っています。

撮影:田中克昌

かなり攻めた内装にも関わらず、募集をかけるとすぐに入居者が決定。入居されたのはポールダンサー……ではなく、リュネヴィル刺繍のアーティストでした。

実際の入居後の様子。

アトリエ兼教室として、この空間を使われているそうです。

コンクリート打設時にできるセパレーターの跡にフックを差し込み、壁を自由にレイアウトしてる素敵な工夫。

空想のポールダンサーのために思い描いた部屋が、刺繍のなめらかで美しい所作を受け止める場所に。
「どうなるかとドキドキしていたんですが、どこか共通するものが見えて、ほっとしました」塩入さんと矢﨑さんはそう笑います。

型にはまらない発想から生まれた一室。
ここからまたあたらしい物語が生まれていきそうな、そんな空間です。

塩入勇生+矢﨑亮大 | ARCHIDIVISION

住宅の新築、リノベーションの設計を中心に、店舗・オフィスの内装、家具デザインまで幅広く手掛ける設計事務所です。
限られた予算の中でも実現したい空間について、お客さまと話し合いを重ね、工夫しながら提案できるように心がけています。

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