ツールボックス工事班が『studyroom#1』で実験した、極力壊さず、既存内装に手を加えて空間を変える「リメイク」なリノベーション。今回ご紹介するのは、その実用編!お客様の家で、「リメイク」な空間づくりに取り組みました。

「リメイク」なリノベーションで“既存内装”と眺めを活かした空間
「リメイク」なリノベーションで“既存内装”と眺めを活かした空間
既存の間取りや内装をなるべく壊さずに、“素材”として活かしてリノベーションしてみたら?ツールボックス工事班が取り組んだ実験空間『studyroom#1』をご紹介します。

「studyroom#1と同じようなリノベがしたい」と問い合わせをくれた施主は、ダルマを題材にしたオブジェや、日本の昭和レトロなものをコラージュした作品を作っている、日本在住のフランス人アーティスト・JUJUさん。自身の作品を展示するショールームとしても使える、アトリエ兼住居をつくりたいという要望でした。

幾度かの表層リフォームが施されていた室内。

JUJUさんが購入したのは、『studyroom#1』と同じマンション。約74㎡、下階に玄関がある2DKのメゾネット住戸。

既存内装は、ツルペカしたクッションフロアに、白クロス、木目プリントのシートが貼られたドアや引き戸……という、無難な内容。だけど、メゾネット上階からの見晴らしは抜群!この眺めを活かした開放的な空間にできたら、と思いました。

抜群の見晴らしを遮る障子と間仕切り壁。捨てず・壊さずに活かせないかと考えました。

『studyroom#1』と同じマンション、昭和を感じる平凡な既存内装も似ているし、リノベーションのテーマも同じく「リメイク」。『studyroom#1』は自社購入物件での自社プロジェクトだったので、自分たちのやってみたいことで空間づくりをしたけれど、今回は「お客様の家」。

施主であるJUJUさんの間取りや内装に対する希望と、どこまで『studyroom#1』と同じようなリノベーションがしたいのか、そして既存内装のどこを活かしたいのかについて、実際の空間で話し合いながら、イメージを共有していきました。

左:JUJUさんが気に入ったピンク色のシステムキッチン。/右:「フランスの祖父母の家のバスルームを思い出す」と活かすことを決めたピーコックグリーンのバスタブ。

ちなみに、JUJUさんの母国語はフランス語。お互い慣れない英語を使いながらの話し合いでしたが、そんな中で感覚や価値観をつなぐ鍵となったのが、「もったいない」という言葉でした。

『studyroom#1』で「リメイク」というテーマを掲げたのは、中古マンションのリノベーションで、まだまだ使える内装や設備をすべて壊して新しいものにつくり変えるのはどうなんだろう?と考えたことがきっかけ。その説明の中で放った「もったいない」という言葉にJUJUさんが強く共感を示してくれて、以降はその言葉を共通言語として、空間づくりが進んでいきました。

そうして完成した、アーティストの施主とツールボックス工事班が、互いの感性を交錯させながらつくり上げたアトリエ兼住居。既存内装をどのように「リメイク」していったのか、ご紹介していきます!

奥のアトリエに置く雑多なものたちが隠れるよう、間柱現し壁の下半分はラワン合板を貼り付け。

まずは、この家のメイン、アトリエとショールーム兼リビング。2つの部屋の間にあった間仕切り壁のボードを剥がして、『studyroom#1』でも採用した、“間柱現し壁”にリメイク。

壁を全て撤去すると、下地がつながっている壁や床の仕上げ直しも必要になるところ、ボードだけを剥がすことで壊す範囲を最小限に抑えながら、開放感を生み出せる手法です。空間に広がりと奥行きが生まれ、抜群の見晴らしも堪能できる空間になりました。

正面の窓辺にはちょっとした小物を飾れるように窓台を造作。

天井は、既存天井を一部分だけくり抜いて、折り上げ天井にリメイクしました。ほんのわずかですが、天井が高くなることと素材の異なる面が現れることで、頭上に抜け感が生まれました。

床のほうは、既存の床仕上げと下地を撤去して出てきたコンクリートの構造床に、下地調整材であるファイバーパテを塗って仕上げとしました。

下地調整材として使われるファイバーパテを床仕上げとして使用。

当初は既存の床を撤去して出てきた床をそのまま使う想定でいたものの、出てきたコンクリートの構造床が思っていた以上に粗く、「モルタルを打ち直す」以外の方法を考えて出てきたのが、ファイバーパテを塗るアイデア。

既存の構造床の表情を適度に拾いつつ、凸凹が軽減されたスムースな床にすることができました。

縁側のような室内デッキは、バルコニーにある室外機や給湯器に繋がる配管を隠す役割も。

抜群の見晴らしと開放感を活かすため、窓辺の床とバルコニーにはデッキ材を貼って、外との繋がり感をアップ。腰掛けて、景色を眺めながらくつろぐこともできる“居場所”をつくりました。

壁は、既存のクロス仕上げを剥がし、出てきたコンクリート躯体を現しにしました。

こちらは制作のためのアトリエ。施主の希望は「作品をたくさん飾れて、材料もたくさん収納できる」こと。カウンターデスクとフロートの収納を造作し、壁には『ウォールディスプレイパーツ』を使い、ロールの布や紙を取り出せる収納をつくりました。

既存の障子を収納の建具に再利用。洋風のクローゼットを押入れにするという逆輸入的なアイデア。

正面の障子が嵌め込まれた場所は、かつて折れ戸のクローゼットがあった箇所。既存障子のサイズに合わせて、収納を造作し直しています。

織物壁紙』の綿麻を貼った引き戸。今回は戸ごと新たに作りましたが、『織物壁紙』は既存建具のリメイクにもおすすめ。

下部の収納の引き戸は綿と麻でできた『織物壁紙』で仕上げました。壁と天井は『ベンジャミンムーアペイント』で塗装仕上げ。真っ白ではなく温かみのあるベージュを選び、ラワン合板と障子、間柱など、木の素材とコントラストがつきすぎないようにしました。

アトリエとショールーム兼リビングを仕切る障子も既存の再利用。

間柱現し壁の横胴縁にも棚板を載せて、作品を並べられるようにしました。そして、正面に見える大小の四角がコラージュされたニッチ収納も、作品を飾るためのスペース。

コーナーをアールにしたのは、JUJUさんの希望。ニッチ棚の奥は一部が窓になっています。

この壁は、コルクシートを貼ってみました。JUJUさんの「作品をピンで壁に留めたい」という希望から生まれたアイデアで、ニッチ収納に作品を置くだけでなく、ホール側の壁も作品を飾れるゾーンになりました。

ホール側の壁には『フラットレセップ』を設置。作品を飾った時にも邪魔をしない存在感。

コルクシートそのままではちょっと“工作感”があったため、ホワイト拭き取り塗装をしてみたら、なかなか上品な表情になりました。

奥の階段の壁面もコルクシート仕上げ。白いドアは、既存のドアに『織物壁紙』綿麻を貼って仕上げ直しました。

こちらは、玄関から階段を上がったところにあるホール。中央の、白いムラがある壁は、既存クロスの下にあった塗装面を絶妙に残し、意匠として活かしたもの。ツールボックス工事班の秘技「剥がし仕上げ」です。

これは、既存クロスを剥がす際に塗装面に気づき、閃きました。途中まで作業を進めてみてJUJUさんに確認したところ、気に入ってもらえたので、本採用となりました。

壊しながら、つくりながら考える「リメイク」な空間づくりだからこそ生まれた仕上げです。

左:下階の階段室の壁は「剥がし仕上げ」で。/右:階段室の壁は一部をコルクシート仕上げにしています。

下階の玄関から続く階段は、貼られていたクッションフロアを剥がして、下地調整材を塗ってお色直し。元々の玄関は狭いので、上階まで下足で上がって行ける仕様にしました。

ホールに造作した棚には、工事班の思いつきで蛍光オレンジのアクリルを棚板に採用。軽やかでポップな印象をホールにもたらすポイントになりました。

引き戸に転用した既存障子は、高さを調整するため下部に接木をしています。

ショールーム兼リビングから、ホールを渡った先にある部屋は、JUJUさんとゲストが歓談するダイニングルーム。こちらも以前はクッションフロア貼りの床、建具は木目調シート貼り、壁天井はクロス仕上げという内容でした。

床は、「塗装跡残し壁」やコルク壁、障子との相性を考えて、素材感のあるサイザル麻をセレクト。既存のクッションフロアの上から貼っています。既存の引き戸は撤去し、建具枠を造作し直して既存障子に入れ替えました。壁天井はこちらも『ベンジャミンムーアペイント』でベージュ色に塗装しています。

サッシの内側に取り付けられた木製の格子窓は既存のものを再利用。

仕上げの変更以外にも、空間の居心地をさらに良くするために、ちょっとした手入れを行いました。

例えばエアコンは、以前は正面の窓の真上にあり、空間に配管が露出していた上、窓外にもぶら下がって見えている状態でした。それを、エアコンの設置位置を変え、配管を壁の中に隠蔽してスッキリとさせました。

木製格子窓が映えるようになった窓辺には、収納兼ベンチを造作。ダイニングにも、景色を楽しむことができる窓辺ができました。

引き戸を外した中段は、内部の木仕上げをオイル塗装して、色味を鮮やかに甦らせました。

ダイニングにあった既存の収納は、壊さずにリメイク。木目調シートが貼られていた引き戸は塗装して、半円型の把手をプラス。中段は引き戸を外して、昭和っぽさを感じる木仕上げの棚を現しにしました。

「塗る」「把手などの金物を変える」は、手軽にできる割に効果の大きいリメイク方法です。

正面の壁には、リビング兼ショールームから光と気配が伝わる木枠の室内窓をはめ込みました。

そして、施主のJUJUさんも我々ツールボックス工事班も「活かしたい」と思っていた、ピンク色のシステムキッチン!

このキッチンは、1977年から製造され続けてきた昭和を代表するシステムキッチンで、特徴的な把手と扉のデザインがチャームポイント。そんなキッチンを活かすべく、本体はそのまま使用。背面の収納は、トール収納だったものをバラして、特徴的なデザインの扉をラワン合板で造作した収納に移植して再利用しました。

toolboxではこれまで、既存キッチンの扉だけを変える『キッチン扉交換』というサービスを提供してきましたが、キャビネット部分を変えてキッチン扉を活かすのは初めてのこと。新しいキッチンリメイク手法を確立することができました。

左:背面収納に使ったラワン合板は、『ワトコオイル』のウォルナットとチェリーを混ぜた色で塗装。/右:キッチン本体上の吊り戸棚の下には不燃材の囲みをつけて、換気扇の集煙を補助。

アトリエとショールームとしての使用がメインのため、キッチンは独立型のままを選択しましたが、空間の心地よさをアップするべく、壁と床は模様替え。床は水にも強いサイザル麻、キッチン前の壁は『水彩タイル』のアーモンドを貼っています。

カーテンパイプとシャワー横のフックは『ホテル金物』。

ピーコックグリーンのバスタブが特徴的だった在来工法の浴室は、壁・床・洗面台・ドアをお色直ししてリメイク。

壁と床に貼った白いタイルは施主がセレクト。もともと貼られていたタイルを剥がす作業や防水・下地づくりの手間を省くため、既存のタイル壁の補修をしてから、新しいタイルを“増し貼り”しました。

白タイルに合わせたオレンジ色の目地材は、施主のリクエスト。水回り専用の目地材ではないため防カビ剤が入っていないことも施主に説明し、了承を得た上で採用しました。

既存の把手を外した穴が出てしまうため、収納部分はシートを貼り直しました。

空間の中で唐突感があった既存の洗面台は、交換をせずに空間全体との統一感を生み出す方法として、「壁と床と同じタイルを貼る」というリメイクをやってみました。

収納部分の把手に、バスタブと同じピーコックグリーンで塗装した把手を取り付けたら、より一体感がアップしました。

中古住宅を購入した時、キッチンや洗面台はリフォーム済みで新しいものが入れられていることが多いもの。見た目は気に入らないけど丸ごと捨ててしまうのもちょっと……という時に、参考にしてほしいリメイク方法です。

脱衣所とトイレの床仕上げはサイザル麻。湿気を吸収しやすく保温性も高い。

トイレと脱衣所も、既存の空間を仕上げ直して印象を一新。脱衣所には『ウォールディスプレイパーツ』で棚を設置。狭い空間での人の動きに考慮して、棚板の角を丸くしているのがポイントです。

トイレは、壁に付いていた手洗いや手摺を撤去してスッキリとした空間に。照明は既存のものにカラー蛍光灯を入れるというリメイクで、雰囲気を一新しつつ、遊び心も演出しました。

間柱現しの壁と障子、ニッチ収納のグリッドが、落ち着いたカラーでまとめた空間の中にリズムを生んでいます。

クライアントワークとしては初めての「リメイク」な空間づくり。しかも、部屋ごとや部分的ではなく、家全面のリノベーションということで、プロジェクトが始まる際は、実はとてもドキドキしていたツールボックス工事班。

ですが実際に取り組んでみたら、『studyroom#1』で実践したリメイクも取り入れつつ、施主であるJUJUさんのセンスやアイデアをきっかけに、新しいリメイク手法にもトライすることができました。

「既存を活かす」リメイクなリノベーションは、既存内装の内容や状態によってできることが変わってきます。元々の物件が持つ個性と、施主の個性、二つが合わさったからこそのオリジナルな空間が生まれるのも、「リメイク」な空間づくりだからこその魅力だと感じました。

JUJUさんとのアトリエ兼住居づくりは、『工事班の現場通信』でも経緯をレポートしています!そちらもぜひご覧ください。

ツールボックス工事班|TBK

toolboxの設計施工チーム。

住宅のリフォーム・リノベーションを専門に、オフィスや賃貸案件も手がけています。
ご予算や目的に応じ、既存や素材をうまく活かしたご提案が特徴です。

 

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※毎週水曜日の13時から15時まで、東京・目白ショールームに施工チームがいます。工事に関するご相談も承っておりますので、この時間もご活用ください。

キーワードは“mottainai”!フランス人アーティストと取り組む、ReMakeなリノベーション第2弾
キーワードは“mottainai”!フランス人アーティストと取り組む、ReMakeなリノベーション第2弾
ツールボックス工事班が『studyroom#1』で取り組んだ、既存内装を極力壊さず、手を加えて変えていく、「ReMake」な空間づくり。その新たな章は、一通のメールから始まったーーー。フランス人アーティストの施主とツールボックス工事班が臨んだ「ReMake」な空間づくりの過程を、工事班・一杉の目線でお届けします。
テキスト:サトウ

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