撮影:西村祐一

築60年の木造住宅を舞台にした今回のリノベーション。
かつての間取りは、9部屋。それを「きっちり分ける」のではなく、「あえて曖昧にする」ことで再編集された住まい。
住まい手は、ご夫婦と小学生、そして2歳のお子さんの4人家族です。

「古いものが好き」というご夫婦の思いを受け、家がもつ雰囲気を大切にしながら、今の暮らしに合うかたちへと整えていきました。

撮影:西村祐一

平屋として建てられた後に2階が増築され、長い年月をかけて姿を変えてきた家を、今回ご家族が購入されました。
1階はスケルトンにして全面的に手を入れ、LDKと水まわりを中心に構成。2階は既存の間取りを活かしつつ、仕切りや建具の再配置で境界を曖昧にしています。

撮影:西村祐一

合板の天井に合わせ、やわらかな風合いの壁にするため、あえて下地用壁紙で仕上げたシンプルなリビング。そこに、お施主さんが長年使い続けてきた家具が加わることで、新しい空間の中にも、どこか懐かしく温もりのある雰囲気が漂っています。

撮影:西村祐一

リビングとつながるキッチンは、住まい手の愛用品がそのまま馴染む、“工作感”のある仕上がりに。空間の中心には、黒い『フラットレンジフード』がどんと据えられ、空間全体をキリッと引き締めています。

撮影:西村祐一

引き出しは、箱を組んだだけのシンプルな構成。食器棚にはIKEAの棚をベースにカスタムを加えました。
コストと使い勝手のバランスを大切にしながら、肩肘張らない佇まいが、この家らしい空気感をつくり出しています。

撮影:西村祐一

ご家族の愛着を感じる冷蔵庫の上には、かつての床の間の一部をそのまま残しています。その形が面白く、古さの味わいも良かったので、あえて手を加えずに残すことに。

撮影:西村祐一

そんなLDKの隣には、吹き抜けのある水まわり空間が広がり、1階と2階にゆるやかなつながりをもたらしています。

撮影:西村祐一

その一角にある階段まわりは、以前はキッチンだった場所。既存の出窓を活かして、踊り場を小上がりのように設計。小上がりは、デスクとしても使えたり、ちょっとした書斎や読書の場としても楽しめる、思い思いに過ごせる多目的な場所として。

古いキッチンで使われていた青いタイルを手がかりに、壁にはブルーの石膏ボードを採用。色や質感の連鎖で、新旧の素材を自然につなげています。

撮影:西村祐一

階段の手すりには青いロープを使い、踏み板には青の柄入り塩ビタイルを。さりげない色合わせが、階段をちょっとした遊び心ある場所に変えています。

撮影:西村祐一

構造のあいだにできた隙間には、アコスターポリボードを渡して飾り棚に。色味のあるポリボードが、空間の素材同士をつなぎ、リズムと広がりを生み出しています。

こうした余白に住まい手の持ち物が加わることで、空間の境界も自然と曖昧に。

撮影:西村祐一

浴室まわりは半透明のポリカーボネイトでやさしく仕切り、扉を開けると脱衣所とお風呂につながります。ポリカの扉はマグネットでパチンと閉まる仕様。その上部には、開閉のしやすさを考慮して、現場で追加された青い紐が取り付けられています。

浴室の隣は玄関につながり、収納スペースも確保。カーテンで仕切ることもできます。

撮影:西村祐一

もともとトイレだった場所は、物置兼下足スペースに。既存のクリーム色のタイルがそのまま残され、家族の持ち物にそっと馴染みながら、空間に落ち着きを添えています。

天井裏はあえて隠さず、そのまま見せる構成に。一部だけ隠すと、ほかの部分も整えて隠す必要が出てしまうため、あえてすべてを見せることで、既存と新設が自然に混ざり合うよう工夫しました。

撮影:西村祐一

2階は、間取りそのものは大きく変えず、建具や仕切りのラインに手を加えることで再構成しています。

たとえば建具は、ひとつの部屋の枠を超えて端まで横断し、空間をまたぐように設置。
既存の建具をそのまま再利用したものもあれば、襖のフレームにポリカーボネートを組み合わせて再生したものもあります。部屋ごとにガラスの種類が異なるため、透け感や光の通り方にわずかな違いが生まれ、空間が豊かな表情に。

また、床のフローリングは、既存の框とはずらした位置に畳を敷くことで、もともとの境界と新たなラインが交差し、仕切りそのものが曖昧になるような構成に。視覚的な境界をぼかしながら、空間全体にやわらかなつながりを生み出しています。

撮影:西村祐一

既存の鴨居は、あえて途中でスパッと切断。端部処理も施さず、そのままの状態を。
引き戸にわずかな歪みがあったことで、“ちょうどいい位置で止まる”ことが現場でわかり、そのまま取り入れることにしました。

撮影:西村祐一

一部の壁は、土壁の上にパテを塗り重ね、あえて凹凸を残す仕上げに。

また、愛猫が引っかいてもよいようにベニヤを貼り、その上にシルバー塗装を施し、丸い把手に合わせて柄を描いた建具もユニークです。

撮影:西村祐一

もともと天井のまわり縁だった装飾材を、床の巾木として再利用。お施主さんの「これを使いたい」という希望から、解体時に取り外し、新設した床に転用されました。

配線にはアクリルパイプを使って、中のコードが見えるように。設備もデザインの一部として、さりげなく“見せる工夫”が施されています。

撮影:西村祐一

カーテンの縁ステッチも、場所によって色を変えるなど、細部にまで小さなデザインの遊びが散りばめられています。

撮影:西村祐一

空間を用途で分けるのではなく、境界をゆるやかにぼかすことで、どこにいても心地よい居場所が自然と見つかるように。「立体的なワンルームのような構成を意識しました」と話すのは、設計を担当した松本光索さん。

素材や色、構成のすべてにおいて、新しさと古さが混ざり合い、どちらにも寄り切らない中間的な空気感がただよいます。「どこまでが設計で、どこからが住まい手の工夫なのか」も曖昧なまま、家具や雑貨が自然と空間に溶け込んでいく。

そんな、“混ざり合いの面白さ”をじっくりと楽しめる住まいです。

KOSAKU

建築家・松本光索率いる京都を拠点とする設計事務所。用途や規模にとらわれず、建築から家具、素材の実験に至るまで、空間に関わるさまざまな要素をデザインの対象とする。プロジェクト毎に現場に滞在し、リサーチ、デザイン検証を重ねることで、その場がもつ固有の空間性を生み出すことをテーマとしている。

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テキスト:小尾

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