子育てを始めたばかりの若い夫婦と、ひとりのお子さんのためのマンションリノベーション。物件探しから設計者とともに進めていき、たどり着いたのは、70㎡の3LDK。個室の多い間取りに加えて、35㎡の専用庭がついた住まいでした。
子どもが生まれたばかりで、これからどんなふうに暮らしていくのか、まだはっきりとは定まっていないタイミング。だからこそ、既存の3LDKのように“決められた枠に暮らしを当てはめる”のではなく、まずは大きなワンルームという構成からスタート。
室内と庭を合わせたこの住まい全体が、周囲の公園のように、自由な雰囲気で使い方を限定しない場所になることを目指しました。
玄関を開けると、奥の庭まで視線が抜ける開放的な空間が広がります。段差のないフラットな床で、玄関から室内、そして庭へと、自然につながるプランニング。
家具はあえて点在させることで、それぞれの場所にちょっと腰掛けたり、ふと会話が生まれたり。
キッチンは対面式。料理中でも部屋全体を見渡すことができ、子どもや家族の様子が自然と目に入る、開かれたつくりです。
落ち着いて過ごしたい寝室にはカーテンを設けて、必要なときには仕切って個室としても使えるように。空間全体はひと続きでありながら、その時々の暮らしに合わせて、自由にかたちを変えられる柔軟な設計にしています。
透け感のあるカーテンを採用することで、やわらかな光を室内に取り込みながらも、程よく視線を遮ってくれるこもり感のある空間です。
リビングの壁には、淡いグリーンのタイルが部分的に貼られています。実はここ、もともと押入れを解体した時に出てきた接着剤の跡が残っていた場所なんだとか。
その跡を隠さず、あえて用途を決めすぎないように、飾りすぎないサイズと控えめなデザインのタイルを貼ることで、機能と余白のあいだにあるような、さりげない存在に仕上げたそうです。
タイル目地に合わせて「ウォールディスプレイパーツ」をはめ込み、可動棚として使えるようにしています。
広めにとった廊下には、積層板のカウンターを一枚設置。
家事の合間に使う作業台になったり、ちょっとした書斎になったりと、使い方はそのときどきで変化します。カウンターはそのまま玄関の土間スペースまでつながっていて、収納棚としても活躍。グレーでまとめたカウンターと、グレーの「ウォールディスプレイパーツ」がすっきりと空間になじみ、圧迫感のない軽やかな印象をつくっています。
玄関も、外にいるような感覚が生まれるように、広めにスペースを確保しました。お子さんのベビーカーを置く場所、おもちゃやご夫婦の趣味の道具まで、たっぷりしまえる収納も備えています。ラフな素材感のポリカーボネートでつくった収納扉は、ほどよく中が透けて、圧迫感を感じさせません。扉の動きがスムーズになるように、滑りやすさに配慮した機構を取り入れ、上部のストッパー部分はオリジナルのパーツで仕上げる細部のこだわりも。
玄関の土間からウォークインクローゼットを通って、寝室、リビングへとぐるりとつながる動線。キッチンやリビング、玄関まわりにかけては、あえてすべてオープン収納にすることで、日々のものが自然に手に届く気持ちよさを大切にしています。
一方、隠したいものや季節ごとの衣類などは、ウォークインにしまっておけるよう、必要な分だけしっかり収納を確保しました。
そして、このウォークインの開口部にはちょっとした工夫も。
開けやすさを損なわず、なるべく大きく開口をとるため、扉が収まる壁の部分にも“切り欠き”を入れ、手がかかるスペースをつくっています。
その手掛けには、丸パイプをそのまま使うというストレートなアプローチを。
素材の質感や形をいじらず、そのまま使う設計者のスタンスは、ディテールを通しても感じられます。
玄関のすぐそばには、コンパクトな洗面スペースを設けました。
床には長尺シート、収納棚は木、洗面台には白、洗面器はグレー、そして壁には淡いブラウンの「フォグタイル」と、異なる素材や色を組み合わせて構成。さらに洗面収納は既製品、洗面台は造作と、既製と造作を組み合わせることで、空間にラフさと柔軟さを添えています。
ありのままの素材や状態を、そのまま受け入れる潔さも、この住まいの魅力のひとつ。
今の暮らしにぴったり寄り添いながら、この先どんなふうに暮らしていきたいかを見つめていく。この住まいには“自由な余白”がたくさん残されていました。 決まりきった使い方にしばられず、家族の時間とともに育っていく住まい。
将来の暮らしがまだ想像できてない家族にとって、ひとつのヒントになる素敵な事例でした。
KOSAKU
建築家・松本光索率いる京都を拠点とする設計事務所。