ご夫婦と10代のお子様3人の5人家族の住まいです。
ここの地域は、地名に「森」という文字が含まれ、その名の通り、周囲には豊かな森が広がっています。

外観は南北にすっと伸びる屋根に、濃いグレーの外壁とモルタルが印象的。内装は、土間といった硬質系の素材や、真鍮や木材といったあたたかみが感じられる素材、また随所に丸みを帯びた優しい形が取り入れられ、スタイリッシュなテイストがお好みのご主人と優しいテイストがお好みの奥様のそれぞれの好みが散りばめられています。

まずは2階から。敷地周辺の歩行者の視線を気にせず豊かな森を眺めることができるようリビングやキッチンといった家族や親戚、友人が集まる空間を2階に配置し、個室を1階に設けました。

細長い地形に合わせて長方形に建てられたお住まいは、室内が単調で平坦にならないように、異なる素材や段差を取り入れることで空間をゾーン分けしています。

キッチンは対面式で、部活や習い事、勉強で慌ただしいお子さん達とコミュニケーションを取りやすいようアイランドを設え、お料理をする回数や食べ盛りのお子さん達の為調理する量が多くともストレスなく食事の支度ができるよう背面キッチンはたっぷり広さを確保しています。またキッチンの背面カウンター一部を作業スペースとして設え、外の緑を眺めながら花を生けたりアレンジを楽しむなど、自分だけの時間に集中できるスペースも用意されています。床は連続するダイニングと異なるタイルが使われ、なんだかアトリエにいるような、そんな気分にさせてくれるキッチンです。

こちらはフローリング、ダイニングテーブル、ルーバー天井など、あたたかみのある木材で構成されたダイニングスペース。隣に住む両親や近くに住む親戚が集まり、賑やかに食卓を囲む、そんな光景が目に浮かびます。壁に沿って造作された長椅子もまた、気軽に座って会話を楽しめるように、人数を限定せず気兼ねなく座れるように、という思いが込められています。

リビングは土間仕様になっていて、テラスとの連続性をつくり、庭のような役割を果たしています。リビングから気軽に繋がるテラスは、ご主人の喫煙スペースや、家族がリフレッシュする場に。

通路には作業や勉強ができるデスクも。

2階にいくつもの居場所を用意することで、できる限り子供達が個室に籠らず、家族がお互いに気配を感じていられるように計画されています。

木製の面材と真鍮の取手が印象的な来客用の手洗スペース。タオル掛けには真鍮の『ハンガーバー』を合わせて。

クールな印象になりがちな白でまとめられた空間の中に、螺旋階段の丸みや階段袖壁の丸みが優しさをプラスする。階段のスイッチには『トグルスイッチ』を。

螺旋階段を降りていくと、玄関を挟んで右手に子供室が3部屋、左手がご夫婦の寝室です。

左右正面と三方向に導線が交錯する玄関は、角を落とし丸くする事で使い勝手と意匠性を整えて。

隣接するご実家の庭レベルに高さを合わせる為、子供室と廊下は、玄関から階段をつけてレベルをあげています。

外部と連続するその廊下は、実家の庭との繋がりが保てるように広く開放的な空間にし、床も玄関や外と繋がるコンクリートに。ここでも個室に籠らない状況をさりげなく作り出し、子供同士、親族同士、友達同士の交流が自然と広がるように工夫しています。

玄関ポストの隣に『ハンガーバー』を使用して傘掛けを。

リビングが庭のような空間になったり、キッチンがアトリエのような場所になったり、廊下が実家や友人たちの集いの広場のような場所になったり。素材の選び方や外と内との連続性の取り入れ方次第で、住まいの可能性がどんどん広がっていく、そんな気づきを与えてくれる素敵な事例でした。

エクリアーキテクツ

écrit architects とはフランス語でそれぞれ「文字」と「建築」を意味します。それらはどちらも「想いを残す」という共通点があります。想いを残し伝えることで時を越えて特別な存在になる場所。そんな建築を志している建築士事務所です。

住宅・リノベーション・プロダクトの設計、ランドスケープの企画・計画なども手掛けています。

テキスト:小尾

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