玄関扉を開けてすぐに広がるのは、あたたかな光の差し込むインナーテラス。お気に入りの自転車を丁寧にケアしたり、植物のメンテナンスをしたり、天気が良い日にはここでご飯を食べたり……その時々で様々な使い方ができそうなマルチな空間です。

外観を見てみると、横に並ぶ住宅とさほど変わらない佇まい。クローズドな印象のこの住宅から、どのようにしてあの明るい空間が生まれているのでしょうか?

その理由はこの吹き抜けにありました。
家の面積の約1/3を充てているという開放感あふれる空間です。

設計者の一色さん曰く、この空間はおおきな「余白」。土間だったり、吹き抜けだったり、床が半分透けたスノコだったり。そういった部屋同士の境界が曖昧な空間を余白として捉え、「余白を家の前面に3層貫く形で挿入することで、立面と平面を切り離し、二次元的な秩序を超えた住空間をつくることを考えた。」のだそう。

家の中に区切りの曖昧な空間をつくることで、住宅全体に光と風が行き渡り、立体的な広がりが感じられる開放的な住まいになっているのですね。

まるで宙に浮かんでいるような、光に包まれた階段

また、予算を考慮して外観や家の奥などはできるだけ既存を活かしたつくりに。家中に張り巡らされた鉄骨は既存のまま現しに、2階と3階を繋ぐ階段は新規で取り付けています。淡いオレンジの絶妙なカラーが赤褐色の鉄骨とうまくマッチしています。

奥に見える温もり感じる木の質感だったり、オレンジや赤褐色の暖色の組み合わせだったり、全体的にあたたかな印象でまとめることで、新旧の素材がうまく調和していますね。

3階のスノコスペースは洗濯物を干したり、時には子供の遊び場になったり、暖かい日にはお昼寝スペースになったり。2階のワークスペースは1人で集中する日もあれば、机を増やしてみんなで作業をする共有スペースになったり……日々変わっていく環境や感情に合わせて、空間の使い方も自由に変化させることができます。

インナーテラスとリビングは建具で間仕切ることもできます。透け感のある素材を用いることで、やわらかな光が差し込む落ち着いた空間に。

すこし目線を上げると、欄間に連なって取り付けられているのは『モデストレセップ』のホワイト。部屋と部屋の境界線である欄間に取り付けることで、建具を閉めた状態でも2つの空間を灯して繋いでくれます。

こちらはまあるく型取られた玄関スペース。直線が多い建売住宅の中で、アールを取り入れることで空間のアクセントになっています。

光や木陰の差し込む、玄関然としていないこの空間。ちょっと腰を掛けて休んだり、縁側のような使い方もできそう。

木製建具を閉めているとき。3階の床の一部がスノコになっており、隙間からこぼれ落ちる光がなんとも幻想的。

フルオープンにしているとき。

2階にはワークスペースとキッズスペースがあります。キッズスペースは、吹き抜け側の開口部をガラスにし、斜めの木製建具はフルオープンにもできるので奥まった空間にもしっかりと光が差し込みます。

勾配天井にも「モデストレセップ」が。灯っている時も消えている時も、フラットな天井にアクセントとリズムを加えてくれる存在です。

こちらは半透明のテントで覆われた駐輪場。道路との間に透け感のあるテントと小さな庭を置くことで曖昧な境界線を作っています。塀などで分断するのとはまた違った、外部との繋がりをゆるやかに感じられるアイデアです。

画一的な建売住宅の既存部分はなるべく活かしつつ、「余白」としての吹き抜け、曖昧な間仕切りによって、狭く息苦しい住空間の印象をがらっと変えているこの住まい。

植物に水をあげたり自転車の整備をしたり時には子供の遊び場にもなるインナーテラス、たっぷりとした光に包まれる開放的な階段、やわらかな光が差し込むリビング……余白や曖昧さによっていくつもの豊かな暮らしが生まれていました。

そして刻々と流れていく時間と共に、暮らしだけでなく、好きなモノ、考え方までどんどん変わっていく。そんな自分たちの変化をしっかりと受け止め、改めて暮らしについて考えてみる。変化をおおらかに受け止めてくれる余白や曖昧さを持つこのお家で、そんな豊かな家づくりがこれからも続いていくのだろうなと思います。

一色暁生建築設計事務所

兵庫県の海のそばに佇む設計事務所です。

毎日新しい発見があり、日々昨日とは違うストーリーが生まれては消えてゆく建築。土地の持つ空気、施主の心理を丹念に読みとり、その人にとっての楽園となるような建築をつくりたい。そんな思いで設計をしています。

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テキスト:しもむら

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