家の主は、施主参加型の家づくりを得意としている建築家集団・Handihouse projectのメンバーである、楽工隊の大石義高さん。購入したのは、千葉の海に程近い立地にある築30年ほどのマンションの一室。仕事・暮らし・趣味の全てにストレスがない家を目指して、約53㎡の部屋を、自身の設計・施工でリノベーションしました。

玄関を入ると現れるのは、幅が2mもあるシンクとシャワーを設えた“洗い場”。海や山から帰ってきたら即、サーフボードやアウトドアグッズをジャブジャブ洗える、というわけです。左奥のカーテンの先は脱衣所と浴室。本人もお風呂へ直行できる間取りになっています。

そんなワイルドな振る舞いに応えるべく、“洗い場”の水栓はアメリカで厨房用として生まれた『ワーカーズ水栓』を使用。床は玄関から居室まで、下足対応の土間用タイルで仕上げています。

かと思えば、細長いモザイクタイルが貼られた壁は、コーナーがラウンドした繊細なつくりだったり、下がり天井は板張りで仕上げられていたりと、“洗面所”として使う時にも心地よい気分で過ごせる、緻密なデザインがなされています。ちなみに、タオル掛けは『ハンガーバー』でした。

こちらは“洗い場”から扉なく続く個室。グリーンのフロアと濃いブラウンで塗装した板壁が森を連想させる空間で、アウトドア好きの大石さんの好みが映し出されています。

このグリーンのフロアは「ボロン」という素材で、畳のような表情が特徴のナイロン織物床材。素足でくつろいでも気持ちのいい空間にしています。

造作したデスクは、パソコンやモニターを複数台並べたり、図面や建材カタログを広げての作業もしやすい大きさ。

朝、仕事の前にサーフィンに行くこともあるという大石さん。海から戻ってきたら、サーフボードを洗い、シャワーを浴びて、ここでボードのお手入れ。作業が済んだら、いざ仕事へ。壁に並んだサーフボードたちは、「この仕事を終わらせたらまた海へ行こうぜ」と、やる気を奮い起こしてくれそうです。

“洗い場”を挟んで個室の反対側には、小上がり付きのLDKが広がっていました。この部屋があるのは1階で、掃き出し窓の外には専用庭があります。玄関から庭まで、靴を脱がずに通り抜けられるよう、LDKの床も土間用タイルで仕上げました。

圧巻なのは、幅が5m近くあるキッチン!濃いブラウンに染色したラワン合板で造作したキッチンは、天板に薄いステンレスを貼り、小口の木を見せることで、家具のような佇まいに。赤茶のモザイクタイルとの組み合わせが、シックで落ち着いた雰囲気を演出しています。

お気に入りの置きものや絵を、カウンターや壁の上に設けた棚に飾ったらとても映えそう。厳選した好きなものだけを置きたくなる場所です。

シンク前に取り付けたタオル掛け用の『ハンガーバー』もステンレス。業務用然としたガステーブルも、ステンレス素材や黒のパーツ、レンジフードとリンクしていて、細部まで考え抜かれた丁寧なつくりに唸らされます。

一人暮らしにこんなキッチン、正直言ってめちゃくちゃうらやましい。

こちらは小上がりがあるリビングゾーン。土っぽさのある土間用タイルと、グレーのタイルカーペット、コンクリート躯体現しの壁に、イエローの差し色という異色異素材の組み合わせの中で、存在感を放っているのは、天井と壁に設えたケーブルラック。配線を隠すためのものですが、金属の質感とパンチ穴が意匠的なアクセントになっています。

小上がりのラウンドしたラインは、波打ち際を思わせます。腰をかけたり寝そべったりするのにちょうどいいスケール感で、コンクリート壁側にテレビを置いて、仲間たちとゴロゴロしながら映画やゲーム。そんな光景が浮かんできます。

(写真:佐藤陽一)

(写真:佐藤陽一)

この家をつくる以前は、トヨタのクイック・デリバリーをモバイルハウスに改造し、車中泊しながら現場を渡り歩く暮らしを送っていた大石さん。「そろそろ定住してみるか」とマンションを買い、自分仕様にリノベーション。ここを新たな拠点とし、仕事に遊びに精を出すつもりでしたが、家ができて間もなく、結婚とお子さんの誕生というライフステージの変化が訪れ、家族で暮らしやすい街にお引越しすることに。この家は、現在は新たな住人が住み継いでいるそう。

アウトドア好きな人にも、料理好きな人にも、仲間と集まりたい人にもピッタリな空間なので、新たな住人もきっとこの部屋を謳歌してくれていることでしょう。そして、ユニークな住まい遍歴を持つ大石さんが、今後もし「俺たちの家」をつくったらどんな家になるのかも、楽しみです。

※こちらの事例はimageboxでも詳細をご確認いただけます。

株式会社 HandiHouse project / ハンディハウスプロジェクト

合言葉は『妄想から打ち上げまで』。
設計・デザインから工事のすべてにおいて、施主も一緒に参加して作っています。
家づくりが趣味になれば暮らしも豊かになる。そんな思いで活動している建築家集団です。

株式会社 楽工隊(racco隊)大石義高

住宅や店舗などの設計施工を自らの手で行う建築デザイナー。かつてはそこでモバイルハウス生活もしていた、トヨタのクイックデリバリーが事務所代わり。建築家集団・HandiHouse projectのメンバー。
https://www.instagram.com/yoshitakaoishi/

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テキスト:サトウ

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