今回ご紹介する建物が建つのは、群馬県高崎市ののどかな郊外。周囲にはポツポツと民家が点在し、敷地西側には水路と遊歩道があり、南東から西にかけて雑木林が広がる自然豊かな環境です。
もともとは茨城で暮らしていたご家族ですが、奥さまの出身地である群馬に拠点を移し、家を建てることに。
土地探しのタイミングでご相談をいただき、最初は一緒に候補地を見てまわるところからスタートしました。
「自然の中で、のびのびと暮らしを育てていきたい」というご希望にぴったりのこの土地に出会い、ご夫婦とお子様1人の家づくりは始まりました。
高崎市特有の強風「上州からっ風」や、落ち葉や木の実から家を守るため、設計者が提案したのは、「屋根と床」で構成された“テントのような住宅”です。
軒を地面近くまでぐっと下げることで、夏の強い西日を和らげつつ、視線が自然と奥へ導かれ、窓の向こうに広がる風景がすっと目に飛び込んでくる。自然との境界がふわりとほどけたようなのびやかな空気が、空間全体に漂っています。
さらに、異なる景色や雰囲気を楽しめるよう、建物をふたつのボリュームに分け、それらをゆるやかにつなぐことで、さまざまな方向から外の気配を感じられる設計に。
三角屋根が、山や木々のシルエットにそっと寄り添い、まわりの景色に静かに溶け込むような佇まいの家が完成しました。
窓辺にはカウンターが続き、場所によってデスク、キッチンと変わっていきます。床の高さに変化をつけることで、座って作業する場所と立って作業する場所をつなげています。
キッチンは、自然と向き合いながらゆったりと作業できる特別な場所。石材で仕上げた壁面に浮かぶ「フラットレンジフード」は、ステンレスの映り込みを活かすことで、空間にそっと馴染ませています。
「オーダーキッチン天板」を取り入れ、必要最小限の設備に抑えたキッチンは、足元も極力作り込まず、シンプルに仕上げています。
シンプルな構造にこだわったのは、棚を取り付けたり壁を塗装したりと、住みながら自分たちで手を加えやすくするための工夫。一方、エアコンなどの空間の雰囲気と相反する設備は、目立たないようさりげなく隠し、見たいものだけに目が向くよう配慮しています。
ダイニングは土間仕上げとし、アウトドアキッチンのようなラフな雰囲気に仕上げています。
最低限の間仕切りで構成された空間は、抜けのある景色と心地よい風が通り抜け、自然の中にいるかのような開放感で満ちています。
リビングには、デイベッドにもなるゆったりとしたソファが備え付けられていました。木陰でお昼寝をしている気分が味わえそう……。
「足りないものは、暮らしながら工夫していけばいい」という考えのもとつくられた、素朴で潔い内装。キャンプのように、自由に居場所をつくっていく楽しみがある住まいです。
自然と向き合い、工夫を重ねながら育んでいく、原始的で温かなライフスタイルがゆっくりと育まれていきそうです。
(写真提供:山内 紀人)
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