撮影:八重樫裕己

たった一組のための宿

岩手県和賀郡西和賀町川尻にある「nebiraki inn」は、築年数の経った木造住宅の一部を宿泊施設へと改修した一室限定の宿。

窓の外には、雪に覆われた湖と、木々の風景が広がり、季節によってその表情を変えていきます。

この環境にふさわしい宿のかたちを考えたとき、設計者が重視したのは「自然との関係性」。5.4m幅の大開口が設けられ、室内にいてもまるで森の中にいるような、風景と地続きの感覚が生まれています。

撮影:八重樫裕己

雪が溶けている季節は窓からの風景は一変。

このように見えるんだそうです。

どの季節に来ても風景を楽しめますね。

空間を形づくる、合板と“そのまま”の構造

床には針葉樹合板が使われ、ウレタン塗装で最低限の仕上げが施されています。

整えすぎず、素材の風合いとラフさを残すことで、自然と向き合う空間にちょうどいいおおらかさが生まれました。

撮影:八重樫裕己

また、この宿のもうひとつの見どころは、構造柱の扱い。
既存の柱は意識的にそのまま残し、白い漆喰の壁と対比するように立ち並んでいます。

かつての時間がこの空間にも息づいていることを、静かに伝えてくれるような存在です。

撮影:八重樫裕己

造作のようでいて、自由度を残すつくり

キッチンや洗面台には、針葉樹合板を使った家具が配置されています。
これはデジタル工作機械「ShopBot」で加工し、パーツを用いて構成されたもの。

撮影:八重樫裕己

撮影:八重樫裕己

いわゆる既製品のように完成された形でもなく、フルオーダーのようにかっちりと作り込んでいるわけでもない。だからこそ、空間にゆるやかに馴染み、素材の木目や手ざわりも素直に感じられるような気がします。

造作家具のようにその場に合わせて設えられていながらも、どこか気負いのない軽やかさがこの宿の雰囲気によく似合っていました。

最小限の設備と、最大限の心地よさ

空間には必要最低限の設備が配置されていますが、照明やパーツの一つひとつには細やかなこだわりが光っています。

撮影:八重樫裕己

洗面の横には『ボールライト』クリア×ホワイトが採用され、空間のニュートラルな佇まいを壊すことなく、さりげない存在感を添えています。

撮影:八重樫裕己

また、トイレにはごくシンプルな照明器具とスイッチプレート、そして『ミニマルペーパーホルダー』。

どれも主張しすぎず、壁の質感や光のニュアンスを引き立てる存在に徹しています。

撮影:八重樫裕己

浴室には『ミルクガラス照明』ホワイト 円筒(丸)が使われています。暗い壁にミルクガラスの優しい色とあかりが、良いバランスを生み出しています。(撮影:八重樫裕己)

撮影:八重樫裕己

また、黒く塗装された浴室や、随所で使われている『フロストLED電球』の優しいあかりなど、色と質感の“緩急”もこの空間の心地よさをつくる大切な要素。

明るく、柔らかく、静かで、強い。そんな表情が、空間の隅々から感じ取れます。

空き家を、地域と人が出会う場に

nebiraki innがある西和賀町は、美しい自然や食資源が豊かな一方、少子高齢化や空き家の増加といった地域課題を抱えているそうです。

そんな地域にある空き家を、宿という形でひらくことで、外から人が訪れ、地域の魅力を知るきっかけになる。この宿には、そんな願いも込められていました。

静かにたたずみながら、自然と、素材と、地域とつながっていく宿。

空間づくりの視点でも、暮らしと社会の関係という視点でも、ヒントに満ちた空間でした。

撮影:八重樫裕己

nebiraki inn

岩手県和賀郡西和賀町川尻

宿の詳細は下記リンク先のHPからご確認ください
https://www.nebiraki.com/inn

有限会社米沢工務所

既存の住宅を活かし、使い方や使う人を変えることで、暮らしをもっと楽しくし、新しい価値観や豊かさを生み出す可能性を提案。
岩手県にある工務店です。

テキスト:きつかわ

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