今回は、PRチームの来生さんにインタビュー。立ち上げ当時からtoolboxに関わり、コラム記事の企画・編集からインスタライブへの出演、外部イベントへの出展、広報対応など、培った知識とセンスを活かしさまざまな情報発信に関わっている来生さんに、今までのキャリアやtoolboxのメディア戦略、これから仕事を通して実現したい野望についても話していただきました。
学生時代に出会った「じゃない方の世界」
学生時代は、工学部の設計学科で設計を専攻していたのですが、学びながら自分には「いわゆる王道の建築設計の仕事」は向いていないような気がしていたんです。私より、もっと得意な人がいるなと(笑)。ただ、建築やまちづくり、空間への興味はあったので、色々と情報収集するなかで、IDÉEがはじめたR-projectという活動を知って。当時のIDÉEは、東京・南青山に本店があって、インテリアショップの枠組みを超え、面白い人たちが集まっている会社でした。そこから、建築学科の友人たちは徹夜でコンペに取り組む中、ほぼ学校にいかず、R-projectという活動の学生ボランティアみたいなことをしていたのが、toolboxとの縁のはじまりですね。
2001年、IDÉEの創業者である黒崎輝男さんの呼びかけから始まった都市再生プロジェクトです。老朽化して空室が目立つビルの再生相談をきっかけに、デザイナーや建築家だけでなく、不動産・金融・投資など異分野の人たちが集まり、既存の建物をスクラップ&ビルドするのではなく、用途や使い方を読み替えることで、都市を再生していけないかを模索していました。「R」はRethink、Renovationなどの頭文字。建物の改修だけでなく、既存の価値観や今あるものを、視点や発想を変えてみることで違った価値を引き出し、都市経験の再生を図るというのがR-projectの狙いでした。
東京デザイナーズブロックという街一体を使ったデザインイベントで、遊休不動産を実験的に活用して、期間限定のインスタレーションを仕掛けたり。私は、当時大学院生で、学生のボランティアリーダー的なことをやっていたので、中心メンバーの大人たちとも近い距離で関わっていたんです。当時はちょうど六本木ヒルズを始めとする都心のオフィスビルの建設ラッシュに伴い、既存の中小の老朽化したビルが大量に空くのでは?という状況が2003年問題としてニュースになっていた時期。「リノベーション」という言葉が雑誌などを通して、世に出始めた頃でもありました。後に東京R不動産を立ち上げることになる馬場さんや吉里さん、林さんにも、その時期に出会っています。
今思えばそうですね。IDÉEに出入りしていた時期は、ちょうど就職をどうしよう?と考え始めるタイミングとも重なっていました。クリエイティブでユニークな大人たちに囲まれて過ごすなかで、いわゆる建築設計の企業に就職するよりも、食やアートなど、分野に捕らわれず、いろいろな人が出入りしてあたらしいことに挑戦できる環境の方が自分には合っているし面白そうだと思って。大学院卒業後はIDÉEの子会社として立ち上がったIDÉE R-projectで働き始めました。建築の専門誌の中だけで難しい思想を語るのではなく、自社の思想を伝える書籍やカタログをつくって販売したり、CasaやBRUTUSのような人気一般誌で分かりやすくインパクトある言葉で自分たちの取り組みを発信して活動へのファンを増やしていく。そんなスタンスにはすごく影響を受けていると思います。
当時は、廃校活用プロジェクト『IID世田谷ものづくり学校』が始まる頃で、廃校活用について修論も書いてたし、IIDの立ち上げに関われるというワクワク感もすごくありましたね。周囲の「自分たちが良いと思う世界を、世の中に広げていこう」という輪のなかから、独自の視点でユニークな不動産紹介するサイトとして東京R不動産が立ち上がっていくのも近くでみていました。
toolboxで自分のやりたいことを叶えたい
IDÉE R-projectはその後、IDÉE 本体からも独立して社名も変わり、ディベロッパー業へとシフトしていき、都心のいわゆるデザイナーズと呼ばれるような賃貸物件や、新築の小さな商業ビルなんかも手掛けていくようになりました。そこでの仕事も面白かったのですが、事業の成長とともにやるべきことが変わっていくなか、自分がこれからどういう仕事をして何を実現していくのかについて考えるようになって。ちょうど、リーマンショックで会社も雲行きが怪しくなってきた頃に、新たにtoolboxという事業を立ち上げるから一緒に働かないかと、創業時の代表でもある林さんに声をかけてもらいました。
私自身は横浜郊外のいわゆる「画一的な住宅地育ち」で、お金と時間をかけて設計のプロに頼めば面白い家がつくれるけれど、それ以外に自分好みの家をつくる手立てがないものか?という課題意識を学生時代から持っていました。だから、そんな手立てをつくるような仕事をやりたいというようなことを林さんに語ったところ、ちょうどtoolboxっていうサイトを立ち上げるから一緒にやらない?と。設計事務所では、一件ずつ家づくりの悩みを解決していくしかないけれど、toolboxなら、日本全国の人の悩みに広く応えていける。既に知名度があったR不動産の基盤に乗って、toolboxで自分の野望を叶えるのが早そうだと考えたんです。
その頃は、「個人が自分の家を編集する世界をつくる」という大きな共通認識を、スタッフそれぞれが自分のよきように解釈しながら仕事を進めていく感じでした。いまでは「商品開発チーム(以下、MDチーム)」がありますが、当時は商品開拓から、取引先との交渉、商品写真を撮ってコラムを書いて、発売して、売れたら発注してと、一連の流れを担当ごとに一人で全て担ってました。アイアン塗料は私が、初期に「これを扱いたい!」と持ち込んだ商品です。最初の頃は、注文が入ったのが嬉しくて、透明フィルムでかわいくラッピングしたり。いま思えば、荷受けした現場の人は迷惑だったと思います(笑)。
初期の頃は、商品を増やすというよりも、つくる手立て+商品という感じで情報発信をしていました。計画性を持って新商品を作り、戦略を立てて売るみたいな感じではなかったです。自分たちが良いと思うことを伝え続けて行くのが強いと考えて、そこだけを頼りにやっていました。当時はまだ、ツルピカできれいな建材ばかりが溢れていて、古材とかサビが出てもアジがあっていいじゃん…みたいな価値観は浸透していない時代でしたが、R不動産の良いいことも悪いことも正直に伝える文化をベースに地道に発信を続けていきました。
その後、自分たちを取り巻く風景が大きく変わったと感じたのは、2013年のHOUSE VISIONの展覧会です。CCC 蔦屋書店の現会長である増田さんに声をかけてもらい、「編集の家」というテーマで出展しました。多くの人に面白いと感じてもらえて、同時期に蔦屋書店から書籍「toolbox 家を編集するために」も出版し、私たちのやりたいことを一気にたくさんの人たちに認知してもらえました。
設計や施工に携わっていた専門知識があるスタッフが入社して商品開発を担ってくれたり、カスタマーサービスの役割を担う人が出てきたり、2015年には東京・原宿に最初のショールームもオープンして徐々に今のような組織になっていきました。そんななか私自身もマルチプレイヤー的な立場ではなく、より広くの人に知ってもらう・伝える側のPRチームへと移っていった感じです。とはいえ今も新しい商品を出すときにはMDチームといっしょに商品名を考え、並走してコラムを書き、見せ方を考えることをやっているので、初期に商品担当も担っていたときと変わらない部分もあります。昔から、自分自身のやっていることのベースはそんなに変わってないと思います。
訴求は戦略的に、表現はtoolboxらしく
基本的には商品紹介コラムである「product story」や、開発の裏側を伝える「モノづくりの現場から」「マイホームインタビュー」などのコラム記事を書くことが多いですが、年に一度刷新するカタログの制作やイベントの企画運営にも携わっています。product storyの場合は、商品の切り口を考え、自社コラムだけでなくSNSなども含め、それぞれのチャンネルでどんな発信をすべきかの企画を考え、文章だけでなく、時にスタイリングして画作りをして撮影もしたり。カタログは表紙と前半のコンテンツ部分を担っていて、表紙づくりのための全社員が参加するイベント「妄想ナイト」も担当しています。キッチンガイド、ライティングガイドといった、空間づくりのためのガイド記事や、最近ではオーディオと空間づくりを深堀するオーディオDIY連載も担当しました。SNS関連では、外部のプロの方が携わった事例紹介など、設計の知識が必要なインスタライブに出演することもあります。
たしかにそういう商品は多いですね。商品ごとに、そもそも訴求先が設計者や工務店といったプロなのか、施主であるエンドユーザーなのかというターゲットを明確にしたうえで競合商品との差を見出し、切り口を考えて記事にしていくというステップを踏んでいます。今や、リノベーションは当たり前の時代で、お客さんにとっても選択肢が増えました。大手メーカーが扱っている木目調の建材も、ちゃんと素敵なんです。そういうものが当たり前になっているなかで、どうやって私たちの強み、違いを伝えるのか。敢えて無垢材であることの魅力や素材の質の良さを伝えるための表現にも工夫が必要だし、お客さんのリテラシーもすごく上がっているので、どのレベルの人たちに向けて書くのかは、昔よりしっかり話し合いながら進めています。会議には、代表の荒川さん、ブランディングディレクターの石田さん、MDの商品担当と記事の書き手であるPR担当が参加して、たくさんの商品のなかにおけるその商品の見せ方を決めてから書き始めます。関係者が多いので手間も時間もかかりますが、そのくらいプロダクトストーリーはtoolboxにとって大事なもの、事業の根幹を支えるようなものだと思います。
印象に残っている記事はこのふたつです。好きなキャビネットを組み合わせて自分だけのキッチンをつくれるオリジナル商品「ユニキッチンシステム」の記事は、地下に沢山のキャビネットを並べてインパクトのある絵づくりを。セレクト商品の「ハンマーヘッド水栓」は、新しい操作感を伝えるためにシーン動画を導入して、使いやすさを真俯瞰のコマ撮りで表現しました。老舗海外ブランドの取引先から、いつもと違う見え方になったと喜んでいただいて嬉しかったですし、toolboxらしさが出せたかなと思います。
一方で昔のような書き手ごとの個性が現れる記事も存在しています。私の記事は、そういう傾向が強いとよく言われます(笑)。トイレットペーパーホルダー「アームペーパーリフト」の記事は、3色展開で見た目の印象が異なることを3兄弟に見立てて紹介したり、紙が減っていくと本体の紙を押さえる蓋のシルエットが変わるのも面白いから、ひたすら紙を巻いて変化する様子の写真を撮ってコマ撮りアニメーションをつくったり。そこは商品に合わせて、柔軟にやっている感じですね。
編集力でプロとエンドユーザーをつなぐ
家づくりはプロと一緒につくっていくもので、私たちはプロとお客さんをつなぐポジションにいます。SNSやコラムでプロの事例を発信してるのは、toolbox商品を採用してくださった素敵な事例を紹介するということだけでなく、プロの方々のPRに少しでもお役に立ちたいという思いもあります。
大阪ショールームでやった『リノベご縁日』というイベントは、関西のリノベのプロ8社にお声掛けをして開催した企画です。自分と相性のよいプロにどうやったら楽しく出会えるだろうということを考え、古材・古物の扱いが上手がA社、自然素材が得意なB社、という風に参加してくれたプロの皆さんの特徴がわかるような出店をしてもらって、お買い物を楽しみながら各社を知れるという、「ご縁」と「縁日」を掛けたイベントにしました。事例紹介も、クイズ形式で自分の家に対する思考を深堀りした上で、あなたに合うのはこんな事例とアイデアカードとしてお渡ししたり。そういう編集・発信ができるのも私たちらしい強みだと思います。
また、商品化に向けてものづくりを支えてくれる開発パートナーの存在も欠かせません。大きな工場でつくられる商品も、一つずつ手作業でつくる商品も、必ず職人さんの手が入りお客さんの元に届けられます。プロにもエンドユーザーにも魅力的な商品だと思ってもらうために、その背景を伝えていくのも私たちの大事な仕事。お客さんからもらった事例写真をお見せして、職人さんたちから「えぇーこんなにかっこよく使われてる!」と喜んでいただける瞬間も、やりがいを感じますね。
「いつか」の家づくりのために、暮らしを考えるきっかけを
SNSの普及によってイエナカの発信が増えたこともあり、toolboxはSNSとともに大きくなれたという実感があります。商品を実際に買ってくれるのは家づくりのタイミングの方が多いので、それより前の段階で「toolbox」を知ってもらって、頭の片隅に置いておいてもらうことが大事ですよね。今は色々なチャネルでコンテンツを発信していますが、それらに触れた全員が、今すぐtoolboxのサイトを訪れてくれなくてもいいと思っています。Instagramだけでもいいし、Youtubeだけでもいいし、Podcastだけでもいい。とにかくtoolboxっていう面白い会社があるなと知ってくれて、いざというときにサイトやショールームに来てもらえれば良いから、いろんな人と出会うためにチャネルを増やしています。外部イベントも同じですね。
いざ家づくりをするときが来たら、どんな家にするのか、どの建材を選ぶのかを短期間に決めていかなければなりません。いつかの家づくりのために「自分は暮らしの中で何を大事にするのか」を考えるきっかけをつくる意味でも、様々なチャネルで家づくりについて発信をしています。
最近はライフスタイル関連など、家づくりの枠を越えたイベントに出展することも多いのですが、エンドユーザーの方たちと直接話をするとまだまだ住まいについて、自分で手を加えたり、工夫したりすることが、当たり前にはなっていないと気づかされます。実は、DIYも最初の一歩ってすごく面倒くさいんですよ…でも、道具を揃えて一度備えができたら、次からは思い立った時にすぐ行動に移せる。賃貸時代から、「備えよ常に」の姿勢で、ちょっとずつ家のことに気をかけるのは、すごく大事だと思います。PRチームの若いスタッフが、ひたすら実家戸建てをDIYするコンテンツをつくって人気が出ていたり。若手がそうしたDIY系の発信をがんばってくれているのは頼もしいですね。
まだ見ぬ「新しい住まいの世界」を探しに
私自身は、自分より年上の、人生の先輩たちの暮らしや生き方を深堀りして、未来の自分の住まい方の可能性を探っていきたいと思っています。子育て世代の暮らしの情報って沢山あるのに、60代以降の家づくりみたいな情報って少ないですよね。バリアフリーみたいなことはありますが。周りには趣味を持ちつつ一人暮らしを楽しんでる人や、時に人に貸したりしながら何拠点も持って生活してる人もいる。気の合う友人同士でシェアして住んだり、自分たちが入りたい高齢者施設ってどんなだろうとか、友人たちと飲みながら話すこともあります。老後に向けて数千万円備えないと!なんて言われている時代ですが、こういう暮らし方もありだね、というものを見つけて、選択肢を増やしていきたい。
リノベーションも、当初は法整備も整ってないところから業界団体をつくって社会の仕組みとして認めてもらおうという動きがあったんです。例えばローンの借り方含め、血縁・婚姻に限らない複数人で住宅を所有する仕組みが今後は必要だなと感じていますし。社会に新しい仕組みが広がっていくためには、見た目のよさだけでなく、法整備やお金のことも向きあわせてデザインしていかないといけない。人手不足の時代の「つくる」手段についても、これまでと同じようにいかないケースも増えてくると思います。
toolboxは家づくりのアイデアを発信し、実現するためのアイテムを販売したり手立てを提供する場ですが、自身の老後にポジティブに向きあうためにも、これまで以上に常識にとらわれず広い視野を持ち、自分やみなさんにとっての「将来の楽しい暮らし」への気づきになること伝え続け、実践していきたいです。