スチールで「リビングドアの選択肢を増やしたい」

「ガラス入りのスチールドア」「アイアンドア」と聞いて、どんなイメージがパッと浮かびますか?

個人的には、東京・青山の路地奥にあった今はなきインテリアショップの入口。海外の旅先でみたギャラリーなど、こだわりの商業空間の顔として、いくつかの記憶が思い浮かびます。

オーダーメイドのその佇まいは、かっこいいけれど、そのまま住宅に持ち込むにはいくつかのハードルがあります。空間のスケールが違いすぎて、外の世界のスケールをそのまま持ち込むにはゴツくて無骨すぎたり、ドア自体が重すぎて使いづらかったり。大きなガラスの開口部は、安全面の配慮も必要。

そんな問題を解決しつつ、リビングドアの選択肢として、いままでにないスチールドアをつくりたい。そんな思いを長年あたためてきた商品開発チーム。

無骨に主張するのとは違う見せ方で、開放的に空間を繋ぐような、細いフレームと大きなガラス開口部のドアをスチールでつくれたら。

そんな思いから生まれたのが「オーダースチールドア」です。

オーダースチールドア
オーダースチールドア
¥193,000〜
空間に輪郭を与えて
開口部いっぱいの大きなガラス面で光を受け止めるスチールドア。住空間にも使いやすいバランスで仕上げました。サイズオーダーができ、扉形状や枠の有無を選択可。塗装、又はスチール素地の仕上げを選び、こだわりの景色を縁取ります。

住宅用にと、ゼロから開発を担当することになったのが、商品開発チームの山下留依でした。

スチールドアは、本来、扱いになれた設計者と鉄加工の工場でやりとりしながらできる、特注の世界。扱いに慣れていない設計者にはハードルが高いアイテムですが、山下はtoolboxの中で一番スチールドアに触れてきた人物です。

以前勤めていた設計事務所では、店舗も手掛けていて、スチールドアを設計していました。実は、父が設計した実家の玄関ドアもスチールドア。自分にとっては小さい時から身近なものだったんですよね」

日本の家の中にあるドアといえば木製が一般的ですが、山下にとってスチールドアもまた親しみがある存在。リビングドアとして、当たり前に選べる選択肢をつくりたいと開発に臨みました。

「オーダースチールドア」導入事例の空間設計も担当した山下(左)。施工担当の一杉(右)と打ち合わせ中。

内装デザイナーの父が設計した山下の実家のスチールドア。毎日このドアを見て触れて育ちました。

住宅に似合うバランスを、ゼロから設計

スチールドアの醍醐味は、木製建具では叶わない「細身のフレーム」と「ガラスの大開口」ですが、大事にしたのは扉自体の見た目だけを考えるのではなく、住空間に落とし込んだ時に違和感なく存在して見えること。それを念頭に、ガラスを支えるフレームの寸法や、ディテールを考えていったと、山下は開発当初を振り返ります。

「商業空間の大きな開口のデザインを、ただ、サイズダウンして、そのままリビングのドアとして取り入れようとしても、やっぱり無理があるんですよね。主張するデザインをしたいというより、その場にあって違和感がない、だけどこの存在がないと困るような、そんなものをつくりたくて。この素材だからできることを突き詰めて、住宅用にとゼロから開発しました」

フレームの見付幅は、これまでの設計の経験値、日本の住宅の平均的な天井高の中での空間の広がりや、他の建具や家具と居合わせた時のバランスも考慮して「25mm」に決まりました。

木製では実現できない細さで大ガラスをしっかり支えつつ、過度な主張や作為を感じさせない。そんな素直なプロポーションに仕上がっています。

フレームの見付は25mm。上下のガラスを支える真ん中の部分は、100mm幅に。(撮影:山下弘毅)

見た目からでは分からないのですが、今回のスチールドアの一番の特徴ともいえるのが、枠も含め、框戸を構成する全ての部材を、規格品の「角パイプ」で組んでいることです。

「角パイプの角って、ピン角とも違うわずかなアールがあるじゃないですか。その尖りすぎてない感じが、住空間に取り入れるには、ちょうどいい。

フローリングや家具の木材、ラグやソファー、カーテンのファブリックなど、回りにある素材と同居した時に、その微妙なアールの表情が、スチールの硬質な印象を少し和らげ、うまく馴染んでくれるんです」

山下はこういう解像度で空間を見ているんだということがよく分かる視点で、角パイプの見た目について語ってくれました。

端正ではあるけれど、尖りすぎていない絶妙な角のアールの表情がポイント。ガラスを抑える押し縁まで角パイプ。

ガラスを抑える押し縁には、11mm角という細さの角パイプを採用。ビスの皿切り加工が出来る最小サイズです。ビス頭がフラットに納まるよう、穴のフチを円錐状に削ることを皿切り加工というのですが、この細さでその加工をするのは簡単ではありません。

角パイプの切断面。厚みとサイズには、色々な規格があります。(撮影:Masanori Kaneshita)

また、角パイプは、内部が空洞ゆえ、ドアそのものの重さも少し軽減してくれます。大人から子供まで、無理なく開け閉めできる、使いやすい重さになるよう意識しました。ドア本体が軽くなったことで、ドアを支える丁番も、スチールドア特有の分厚い重量用丁番ではなく、すっきりしたサイズのものに。

「規格部材を使うことで、価格を抑えられたことも、とても大きなメリットでした。設計、図面作成手間など含め、特注の場合は、どうしても価格が高くなるイメージがありますが、今回は、一般的なリビングドアサイズの片開きドアで、枠無し20万円を切る価格帯を実現できました」と、山下。

安全面への配慮としては、大きな開口部のガラスが心配という方のために、ポリカーボネートに交換できる選択肢を増やし、框の下部の高さは蹴り上げ防止に125mmに設定しました。

奥の壁際、扉を支える丁番も、すっきりさりげないものに。框の下部はガラスの蹴り上げ防止に少し高さをつけて。(撮影:山下弘毅)

こだわりを一緒に実現してくれたのは、3代続く東京の町工場

開発段階から一緒に製作に取り組んでいくれたのは、東京の山手線沿線、駅から徒歩10分の距離にある町の鉄工所。1933年創業、戦前から続く老舗の工場です。

製作元選定で大事にしたのが、打ち合わせのしやすさ。それは、物理的な距離とコミュニケーション面、2つの意味が含まれています。

「棚受けなどのパーツ類とは違い、大きな建具は、試作品を何度も郵送で送ったり戻したりするのが大変なんです。

開発の過程では、何度もフィードバックを重ねていく必要があるので、意外かもしれませんが、私たちが行き来しやすい距離感というのも大事なポイントだったんです」

大学や大手オフィスビルの防音扉などの製作に長年携わる、高い技術力と実績を持ち合わせている工場なのですが、パートナー探しに苦労していたところ、ベテランの設計者さんに紹介をしてもらい、お取引がはじまりました。実は、『黒皮鉄のテーブル脚』もこの工場で製作してもらっています。

代表の好昭さん。地元のお祭りを取りまとめる、地域の顔役でもあります。

経験豊富な3代目となる代表を筆頭に、事務方を支える精神的支柱の奥さま、外で修行をして戻ってきた長男やその幼なじみなど、数名の職人さんたちが一緒にはたらいています。

金属建具を扱う大手メーカーの分業流れ作業とは異なり、この工場では材料の切断、加工、仕上げまでを1人の職人が全て責任を持って行う「一気通貫の責任施工」を徹底。

この少数精鋭の体制で、山下のこだわりに寄り添ってチャレンジをしてくれました。スチールの框ドアを全て角パイプで構成することに対して聞いてみると

「よくある方法ではないと思いますよ。部材を曲げ加工してつくっていく方法もあるのですが、そうすると曲げの工程が増える分、材料代、最終的な商品代にも響いてくる。僕たちにとっては角パイプで組んでいく方が理に叶ってるんです」と、さらりと答えてくれました。

スチールドアの溶接作業をしているところ。(撮影:Masanori Kaneshita)

開発期間中、ドアの戸当り、ドアストッパー、親子ドアの開きを固定するフランス落としなど、ドアに付属する細かいパーツの在り方についても、代表が逐一、相談にのってくれたと山下は話します。

「他のメンバーからのフィードバックで、もうちょっと他にいいのないの?となった時など、一人で悩んでいるより、工場にパッと足を運んで15分話したら解決する。そんなことがよくありました」

「既成品のフランス落としの受けが微妙?そしたら、つくればいいじゃん」と、細かいパーツをオリジナルでつくってくれることになったり。経験豊富な代表に何度も助けられ、開発は進んでいきました。

フランス落としとオリジナルの受け。

片開きの戸当りは、最終的に角パイプでなくアングルに。

すっきりしたドアストッパーをセレクト。

「変わったこと言うなぁ」工場も戸惑った、スッピン風仕上げ

見た目のデザインに加え、色味や素材の質感も、スチールドアの印象を決める大事な要素。

通常、スチールドアは塗装で仕上げをするため、材料の細かい傷や溶接痕はパテや研磨で消してしまう前提でつくられていきますが、今回は、現場塗装用の「錆止め仕上」に加え、スチール素地の表情をダイレクトに魅せる「クリア仕上」にも挑むことに。

マットグレーの錆び止め仕上

クリア仕上

実はこの「クリア仕上」、当初は商品化の予定がなかったのですが、せっかくスチールでつくるのだから、素材の質感を感じられる素地仕上げも欲しいと設計メンバーから意見がでて、商品ラインアップに加わったものでした。

試作をみた瞬間について、山下に聞いてみると

「今までの鉄やアイアン、スチールという言葉のイメージからは少し離れた仕上がりで、新鮮でした。スチール素地にバイブレーションをかけることによって、わずかな鈍い艶が出ている。見たことがありそうでない。あまり世の中にない仕上がりだったのが、スチールオタク的には萌えポイントでしたね」と、嬉しそうな表情。

ただ、この「クリア仕上」が、製作側にはとても大変だったようで⋯⋯。

各サイズの角パイプが積まれた資材置き場。(撮影:Masanori Kaneshita)

「変わったこと言うなぁと思ったよね。バイブレーションしてクリアで出すなんて、はじめてだよ(笑)」と、工場の代表は振り返ります。

素地仕上は、スチールのもつタフなイメージを伝えるため、角パイプの表面に軽くバイブレーションをかけていくのですが、その塩梅がポイントになってきます。「これくらいの溶接跡は、そのままでもかっこいい」、「ここはもう少し削りたい」と、感覚的な指示を出していく山下。

ツルピカにしたわけでもなく、全体で見た時にいいバランスにしたいという思いを共有し、職人さんも試行錯誤を重ねてくれました。

「この微妙なニュアンスに対する、作業のさじ加減が絶妙で、すごくコミュニケーションがとりやすかった」と、山下は感謝します。

きっちりキレイに仕上げるより、ラフな雰囲気を残して仕上げる方が難しいという、職人さん泣かせな、こだわり仕上げなのです。

スチールの素地にバイブレーションを掛けて研磨しているところ。(撮影:Masanori Kaneshita)

また、素地をみせるために、実はもう一つ、素人からみると恐ろしく地味で大変な作業が加えられていました。

サイズ違いの角パイプを切断、溶接して框を構成しているのですが、市場に出回る規格品として黒皮仕上げしか存在しないサイズがあるそうで⋯⋯。

そう、一部の部材は、素地をみせるため、角パイプの表面の黒皮被膜をわざわざ研磨するという作業が行われていたのです。

黒皮(右)と素地(左)の違い。(撮影:Masanori Kaneshita)

スッピン風に見せる方が実は高度なテクニックがいるという、人間のお化粧と同じような手間をかけて完成したこだわりの、「クリア仕上」。

黒皮のスチールドアは、「錆びてもかっこよく成立する空間に」という無骨さが似合うイメージがあるかもしれませんが、スチール素地の鈍く光るシルバーの表情は、ギラつきが抑えられ、どこか静かで端正な雰囲気も持ち合わせています。すっきりシャープな印象を出したい空間にもハマってくれると思います。toolboxのショールームでぜひ実物を見てみてください。

取材時、代表に改めて素地仕上がいかに大変だったかを聞かされ、苦笑いの山下。

施工側の反応はいかに。自社現場へ試験導入で最終チェック

スチールドアは、施工する側にとっても、木製建具に比べ、圧倒的に取り付け機会が少ないものだと思います。

住宅用にと使いやすいプロダクトに仕上げても、それを取り付ける工務店さんが出来ないと言えば、リビングドアの当たり前の選択肢にはなれません。そのため、自社の施工現場でも試験導入をし、取り付けの難易度や安全性などに不具合がないかを検証しました。

studyoom#2の現場で枠を取り付けているところ。

一件目は、「工事班の現場通信」でも、その現場の進捗を細かくレポートした、studyroom#2の現場です。親子ドアを枠付きで導入しました。はじめて現場で実物をみて取り付けまで行ったのは、施工チームのベテランの田井。

「取り付け自体は、スチールドアだからといって特別なことなくできましたわ。パッキンをかませながら、ちょっとずつバランスをみて仮止め、本締めするという、他の木製建具と同様の微調整は必要ですが。手間をかけてやれば、難しくはない。

枠を固定する際に、一般的な木枠やスチール枠は、見えない部分でビス固定していくものが多いけど、これは予めビス穴が開けてあるところに、正面からビスを打って固定していくつくりやね」

枠は奥行き70mmと薄めに設定してあるので、壁厚に対してどう納めるかは、お好みで。

この試験導入を経て、壁に取り付ける際の枠のビス穴の位置を、壁の下地位置を考慮して少しずらすなど、施工チーム側からのフィードバックを受け、商品の仕様も最終調整していきました。

田井にとっては、「枠も含め、ほんまに全部角パイプでできてる!」というのが、一番の驚きだったそう。経験上、枠は曲げ物でつくられているというイメージが強かったそうですが、「最初に価格を聞いて、そんな安くできるんかいと驚いたけど、枠も含め、既成品の角パイプ使ってるからやね」と、実物をみて納得がいったようです。

スチールは木に比べ製作誤差が少なく納品されます。「周囲の壁開口部の精度が大事」と田井。

二件目は、これから発売予定のアルミのキッチン、グレーの床と合わせて、部屋全体を真っ白くミニマルにした空間。設計を担当したのは施工チームの矢板です。

枠なしですっきり納めました。周囲の壁や建具と同色でスチールドアも塗装して。

玄関を入るとすぐにドアがあって、リビングへと続く間取りです。リビング側に天窓があるため、それが玄関側からも見えたらと、このフレームが細くて開口部が広い「オーダースチールドア」が導入されました。

玄関側からの見た目。枠の細さ、軽やかさが際立ちます。ガラス面はポリカに変更しました。

「なるべくノイズを減らしたかったので、あえてスチールドアは枠なしで納めました。実はスチールドアを扱うのははじめてだったんですが、取り付け含め、木製建具と変わらずにできました。勝手にスチールドアだから重いと想像していたけど、思った程ではなく扱いやすかった」

と、感想をもらいました。エレベーター無しの3階だったこの現場。重すぎないことは、搬入、設置の面でも、心理的に助かったようです。

建具の現場搬入前の塗装に立ち合っていた矢板と建具の記念撮影

どんな景色を縁取っていくのか、楽しみに

商品開発チームで山下が中心となって進めた設計・開発期間。自社物件での現場導入、施工チームからフィードバックなども受けつつ、ようやく完成した「オーダースチールドア」。

「パートナーである今回の工場との出会いがなかったら、このデザイン、このつくり、価格では完成していなかった。もうこれは奇跡に近いことといっても大げさじゃないかも」と、山下は振り返ります。

toolboxには、フック、ペーパーホルダーや棚受けなどのパーツから今回の大きな建具まで、いろいろなスチール素材の商品があり、その特徴ごとに制作元が異なります。工場ごとに得意とするところが違い、その得意を活かした商品づくりをお願いしているのですが、創業93年、「100周年を迎えたら代替わりかな」とおっしゃる工場の代表とともにはじめた新たなチャレンジ。

「オーダースチールドア」が、新たなリビングドアの選択肢として、みなさまの家づくりの新しい景色をつくりだすお役に立てたら嬉しいです。

組まれたスチールドアを運び出しているところ。(撮影:Masanori Kaneshita)

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オーダースチールドア
オーダースチールドア
¥193,000〜
空間に輪郭を与えて
開口部いっぱいの大きなガラス面で光を受け止めるスチールドア。住空間にも使いやすいバランスで仕上げました。サイズオーダーができ、扉形状や枠の有無を選択可。塗装、又はスチール素地の仕上げを選び、こだわりの景色を縁取ります。

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テキスト:来生