木が使われた事例を見て「自分の家もこんな雰囲気にしたい」。そう思っていざ自分の家で計画しようとなると、何から決めていったらいいのか、漠然と悩んで迷ってしまうことありませんか?
フローリングだけでなく、天井や壁、家具など、家の至る部分に取り入れることができる「木」は、選択肢の幅が広い。家づくりと切っても切り離せない素材です。
それゆえに、どこにどのくらいのボリュームで木を取り入れるのか、どんな色の木を合わせるのか、決めることはたくさんありますが、難しく捉える必要はありません。まずは“自分なりの物差し”を持つことが、はじめの一歩です。
自分の好きを認識しながら木との向き合い方を考える連載[木の取り入れ方ガイド]。初回となる今回は、「自分にとって心地よい木の割合はどのくらい?」を探っていきます。
取り入れる木のボリュームを考えよう
「木のある家」といっても、そのあり方はさまざま。
たとえば、部屋全体が木に包まれた、五感を包む安心感。それとは反対に、真っ白な空間に飴色に育った木のヴィンテージチェアがぽつんと置かれた、凛とした静けさ。
あるいは、床一面と、キャビネットや家具で木を取り入れたバランスの取れた空間。
主役にも背景にもなれる「木」は、取り入れる面積や色によって、その印象が大きく変わります。
そこで重要になってくるのが、空間における木の割合。「木視率(もくしりつ)」です。
木が好きだからといって、たっぷり使うだけが正解ではありません。上記左の写真のようにあえてボリュームを絞ることで、木の美しさを際立たせるという方法もあります。一方で、右の写真のように木を多く取り入れると、空間全体が木に包まれるような印象に。
どちらが良い悪いではなく、木をどんな存在として取り入れたいのか、自分にとって心地よい木の割合はどのくらいなのか。“自分なりの物差し”を持つことが、理想の空間を実現するはじめの一歩になります。
大切なのは、パーツごとに選ぶ前に、一歩引いて空間全体を俯瞰してみること。
まずは、「この感じいいな、好きだな」と思う木視率を探すところから、始めてみましょう!
木の取り入れ具合。自分の好みはどのくらい?
ここからは事例をもとに、「木視率」ごとの空間の在り方を見ていきます。
単純な木の量だけでなく、取り入れる場所や他の素材とどう組み合わせるかで印象は変わってきます。
普段から空間づくりに向き合っているTBK(ツールボックス工事班)のメンバーの視点を交えながら、木の取り入れ方のポイントを紐解いていきます。
木にたっぷり浸る|木視率90%な空間
床、壁、天井といった視界に入る背景全てに木を使った空間。点ではなく面で囲うように取り入れると、木視率はたっぷり90%に達します。
空間に入った瞬間の包摂感は格別!四方をぐるりと木に囲まれることで、身体が包みこまれるような安心感があります。
木は、クロスや塗装壁に比べて、光を受けた時に素材感が引き立ちます。壁・天井・床へと広く続くことで、香りや触れたときの感触も含めて、五感で木を感じられる場所になるはず。
当然、木自体の主張は強くなりますが、空間全体を同じ素材で揃えているため、視覚的な情報は最小限に絞られているともいえます。その結果、余計なノイズのない整った空間にもなり得るのです。
山小屋のようなほっこりあたたかな空間はもちろん、選ぶ樹種や貼り方次第で、モダンな佇まいも演出できる。木の「量」だけでなく、「取り入れ方」にこそ、設計の面白さが隠されています。
TBK事例で読み解く!バランスの取り方
この人に聞いた!
設計施工:TBK 匂坂
「さまざまな素材を組み合わせるのではなく、限られたマテリアルに絞りたい」そんなお施主様の希望から生まれた空間。
天井から壁一面はラワン材で仕上げ、床にはオークのフローリングを合わせる。木の色味と質感、そして木目だけで構成したミニマルに整えた住まいです。
すべてを木で包むとなると、圧迫感や単調さが出る懸念もありました。そこで、節が少なく木目の主張が穏やかなラワン材を採用。更に、材と材の間に数ミリの隙間を空ける「目透かし貼り」にすることで、面の中にリズムと立体感をつくりました。
ラワンのやや濃い色味は、空間に落ち着きを与えてくれます。その雰囲気を活かすため、照明は一灯で均一に照らすのではなく、複数に分散して配置。あえて陰影をつくることで、木の表情と、空間の奥行きがより一層際立ちます。
・木をたっぷり使いながらも、素材を絞ることで視覚的な情報量を最小限に抑え、ミニマルに整える
・全部を均一にすると単調さが出やすいため、目透かし貼り、陰影のある照明でリズムをつくる
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背景にもメインにも。半分で整う木|木視率50%な空間
床などの広い面と、家具や建具に木を取り入れた空間。木をしっかり感じながらも、重くなりすぎないバランスが魅力です。
一点の強さと全体のまとまりを両立させてくれるのが、50%くらいの木視率。面で広く取り入れることで土台として木が支えてくれますが、それだけで空間を埋め尽くさないからこそ、その中に加えた木を見せ場にすることもできます。
土台があることで空間には落ち着きが生まれつつ、そこに異素材や色を加えることで空間全体の印象を好きな方向にシフトさせることができます。
木製家具も、そうでない家具も合わせやすく、暮らしの道具が増えても空間が崩れにくい。家づくりの段階でも、住み始めてからでも扱いやすい、懐の深いバランスといえます。
TBK事例で読み解く!バランスの取り方
この人に聞いた!
設計施工:TBK 矢板
設計の中心に据えたのは、キッチン。家族が自然と集まる場所になるように計画しました。
床にはオークのフローリング、キッチンの面材にはラワンを選択。キッチンが空間に馴染みすぎて埋もれないよう、床よりもやや濃い色味とすることで、住まいの中心にふさわしい存在感を持たせています。
壁と天井は白塗装とし、キッチンの壁面も白いタイルでシンプルに統一。「白の抜け」をつくることで、空間全体を軽やかに整えています。
木を取り入れる位置は、床から腰の高さまでに絞り、下側にボリュームを持たせる構成に。
目線より上は、棚や収納の扉を設けずオープンにし、面ではなく線で木を取り入れることで、視覚的な軽やかさを保っています。
更に、リビング側は木製の家具が追加されることを見据え、空間全体が木の印象が強くなりすぎないよう、あらかじめ木の分量と重さを調整したデザインにしました。
・色味で役割を調整。背景となる床は薄い色の木にして、主役は濃い色の木にして馴染まないように
・木の量だけでなく、そのボリュームの木を「取り入れる位置」で空間全体の印象をコントロール
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木を絞って効かせる|木視率30%な空間
床、壁、天井の一部、あるいはキャビネットや建具など、数箇所に絞って木を取り入れた空間。
取り入れる場所を絞ることで、木は背景ではなく、空間の中の見せ場に変わります。
一方で、木の面積を絞りすぎているわけではないので、視覚的な美しさだけでなく手触りとしても日常の中で木の良さを感じられます。木の印象が強すぎないけれど、かといって物足りなくもない。そんな絶妙なバランスです。
こだわって選んだ質のいい木材や、お気に入りの古建具など、空間に溶け込ませるのではなく、「主役としてきちんと見せたい」。そんなときに、このバランスは有効です。
TBK事例で読み解く!バランスの取り方
この人に聞いた!
設計施工:TBK 一杉 , toolbox商品開発 山下
木のボリュームを絞って構成したLDK。木をたっぷり使った部屋と対比させて、気分が切り変わるようにあえて木の要素を絞りました。
空間の見せ場を定めたら、それ以外の要素は背景としての役割に徹する。板壁材や壁面収納棚、キッチンのフローリングを引き立てるために、壁は白塗装で仕上げ、床はモノトーンの塗装床を選択しました。
ただ木のボリュームを控えるだけでなく、その取り入れ方もひと工夫加えました。
床材は少しレベルをあげた小上がり部分に使用して、動作と共に意識が切り変わるように。壁材は壁一面ではなく、端に棚板を入れ込むことで抜け感を確保したり、壁面収納はブラケット部分も木の可動収納を設置することで木のボリュームをしっかり持たせ、木が空間で効いてくるようにしています。
濃い色味の木を選択したこともあいまって、象徴的なものとして際立っています。
・見せ場として木を取り入れるために、周囲は色味を抑えて背景にする
・木のボリュームをただ絞るだけでなく、濃い色味を選択したり、段差をつけたりボリュームを調整するなど取り入れ方も工夫して、より際立たせる
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木一点の潔い存在感:木視率10%な空間
木以外の素材で全体を構成して、棚板や建具、家具など、1箇所だけに絞って木を取り入れた空間。
周囲の素材との対比が最も強まるこの割合は、まるでスポットライトを浴びたかのように、その一点に自然と視線が集まります。まさに、「引き算から生まれる、贅沢」。
木が好きだからこそ、あえてその分量を減らす。それは、木の美しさを最大限に引き出すための選択でもあるのです。
また、空間全体はすっきりミニマルに保ちつつ、素材感だけをピンポイントで足すことができるのもこの割合の魅力。木の印象が強くなりすぎるのを好まない方にも取り入れやすいバランスです。ソリッドな空間が好きな方も、「無機質なものだけだと味気ないな」と感じる時、ほんの少しの木を加えるだけで、空間に立体感がプラスされます。
TBK事例で読み解く!バランスの取り方
この人に聞いた!
設計施工:TBK 一杉
目指したのは、色彩を抑えた明るく端正なキッチン。少し黄色みのあるオフホワイトの壁面に対し、白を基調にまとめ、すっきりと軽やかな印象に仕上げています。
ただ、明るい色だけで構成すると、少し無機質で味気なく見えてしまうことも。そこで、キッチンカウンターの縁や収納棚の小口にだけ木を取り入れ、素材感を少し加えました。
木を大きく見せるのではなく、あくまでポイントで効かせることで、空間全体の端正さは保ったまま、のっぺりしない立体感が生まれています。
はっきりコントラストをつけたいというよりも素材感を足すために取り入れた木だったので、薄めの色のオークを選択。そうすることで白いタイルや塗装面、躯体のラフな表情の中にも自然になじみ、端正な雰囲気を崩すことなくあたたかみがプラスされました。
・コントラストはつけずに素材感をプラスするため、周囲と色味の近い木をボリューム小さく取り入れる
・周囲の素材と馴染むカラーを選択することで、端正な雰囲気をキープ
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ここまで、空間における「木のボリューム」についてお届けしました。
木が多い空間にも、あえて絞り込んだ空間にも、それぞれの良さがあります。空間全体を木で満たして深い安心感に包み込まれる心地よさもあれば、ポイントで効かせることで、木本来の素材感や生命力を一層際立たせる手法もあります。
どちらが正解、ということはありません。大切なのは、自分がどんな空間を心地よいと感じるかを知ること。木のボリューム感から、自分にとってちょうどいいバランスを探ってみることができたでしょうか。
家づくりは、自分の心地よさをなぞっていく作業。今回の記事の物差しがその一歩になれば嬉しいです。
vol2では、樹種についてお届け。理想の存在感に合わせて樹種を選択できるように、選択する時のポイントを紹介します!(vol.2の公開は6月頃を予定しています)