描画をサービスに
宮殿や大聖堂といった非日常空間にあるイメージが強い壁画・天井画ですが、もっと気軽に一般住宅を彩ってもいいのではないか?と漠然と思っていました。
そんなある日。知人のYさんから、「うちのマンションに、壁画と天井画を描いてもらってるけど、遊びにくる?」とのお誘いが。行く行く!と伺ってみると、そこには、子供のように勢いよくモリモリと絵を描き広げている、小柄な女の子。それがアーティストの大小島さんでした。彼女の自由な発想から生まれる物語性溢れる絵を眺めていると、自然と口角があがってしまいます。
ギャラリーを飛び出した絵画
元々、大小島さんは額縁から壁へと絵が広がる「はみだし壁画」を展覧会で発表していました。そのライブペインティングをたまたま目にしたYさんが発した「こんな絵が我が家の玄関にあったら・・・」という一言がすべての始まり。
自分の絵がフレームを飛び出しギャラリーをも飛び出し住宅に入り込むというアイデアが面白かったこともあり、トントン拍子に実現。
自分と住人との対話から生まれた絵が、やがて家に棲みつき、家の年月と共に変化していく・・・という経験が新鮮だった大小島さん。今後も様々な場所で続けていきたい!ということで、toolboxで描画サービスを扱わせていただく運びとなりました。
住宅をキャンバスに
住宅の場合は、壁紙・塗装壁・モルタル壁など、壁の素材や質感も家によってまちまち。今回のお宅はビニルクロスですが、玄関の壁紙は凸凹があり、鉛筆が入らないので油性マジック一発描きの下絵。その上からアクリル絵の具を「塗る」というよりはタトゥーのように刺し込んでいきました。仕上がってみると、その凸凹な質感が作品の表情を更に豊かに。
空間を眺めていると様々な発想が浮かび、壁の角や段差をどう生かして何処に何を描くか考えるのが、家主もアーティストも楽しかったそうです。
壁に掛けられた小さなパネル画を外すと、その下の通気口カバーにも別の絵が描かれていたり。スイッチにまで小さな絵が描かれていたり。柱に描いた鯨の尻尾を床にはみ出させ、上からラッカーを塗ったり(床の絵はいつか消えるかもしれないが、それも一興とのこと)・・・住宅というキャンバスならではの面白さがそこにはあります。
制作過程に立ち会う醍醐味
いま、Yさんのお宅の玄関には植物と合体した鳥が飛び、廊下の天井には夜空のような鯨が泳ぎ、居間には「緑の毛がはえた氷山」なるものが出現しています。
帰宅時に真っ先に出迎えてくれる、極楽鳥。ただの通路だった廊下が、天井の鯨によって愛着を覚える空間になり、たまに客人が廊下に寝そべってみたりする。寝起きするリビングの畳スペースからは、窓の借景の公園の緑と連なるように、氷山の緑。
「想定外に価値を見出しているのは……」Yさんは言います。
「絵を描いている場に立ち会う面白さ。対話によって当初の構想とは違うものに変化していくのも楽しい。ある日の晩、料理上手なYさんは、大小島さんに蟹ごはんを振舞った。そうしたら鯨の身体の中に、ちいさな蟹が登場した。リビングの柱は、当初の草花の絵になるはずだったが、さらに構想を重ねて斬新なモチーフに……といったぐあい。
絵がきっかけで思いもよらぬ来客があったり。遊びにきてくれたお客さんに制作過程や背景エピソードを話したり。ひとりのときにその時間を思い出したり……」Yさんが得たのは、絵だけでなく、時間なのかもしれません。
自分だけの壁画と暮らす贅沢
朝、昼、宵、晩。差し込む光の加減による絵の色合いや表情の変化。家という自分がいつもいる場所だからこそ味わえる豊かさ、いかがですか?
気軽に頼める小モチーフから、大掛かりなスペシャルコースまで揃えています。
開発パートナー:大小島真木
(開発担当:noguchi)
大小島 真木
1987年東京都生まれのアーティスト。「生きとし生けるものたちの諸世界」をテーマに絵画や壁画の制作を行い、複雑に絡み合う自然界の姿や、生命が無限に循環してゆくさまを、壁、床、天井を使って縦横無尽に描く。制作を通じて、動物や植物、菌類、鉱物などの環世界を往還し、物語ることを追求している。
アニエス・ベー主宰による海洋生物保護を目的とした「タラ号 太平洋プロジェクト 2016-2018」のアーティスト・イン・レジデンスに参加。パリで展覧会を行ったり、インドの山奥や日本の離島で地元の人を巻き込みながら作品制作をしたり。近年は、大掛かりな作品づくりを行う中、toolboxの壁画・天井画サービスでは、住まい手の思いをのせた絵を描いてくれる、toolboxのパートナーです。